金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

2024-01-01から1年間の記事一覧

今のChatGPTと翻訳(2023年10月23日/2024年3月27日更新)

対英語の文脈で言うと、我々にとってのChat-GPT-4(生成AI)は、非ネイティブ部分を補う、つまり英語をネイティブ並みに理解し(英和の場合)、ネイティブ並みの英語を書く(和英の場合)ための最強ツールなのだ。僕はもはやこのことを疑っていない。 たとえ…

告知:第12回つーほんウェビナー 翻訳者&専門家が大激論! 生成AIで良質な翻訳はできるのか?

機械翻訳は絶対無理!と思っていた私が、「経済用語」としてChatGPTについての記事を書いたのが今からちょうど1年前。 ビジネスに役立つ経済金融英語 第19回:いまさら聞けない(!?)ChatGPT入門 | Q-Leap この言葉について調べながら「お、意外と面白そ…

AI翻訳は秋元康さんの作詞に似ている(2023年3月13日)

秋元康さんの作詞は文字通り「詞を(ゼロから)つくる」のではなく、多くの作家に書かせた詞をた~くさん読んでその中から自らの感性に合った言葉を「選ぶ」のだ、と以前テレビで紹介されていた。 これが本当だとすると、たとえば英日翻訳では、AI翻訳は秋元…

それは国語力ではなく、英語力の問題

英文解釈の勉強*をしている時でも、あるいは「写経」をしている時でも自分では決して書けない訳語(訳文)に逢うと「どうして自分はこう書けなかったんだろう?」と自分の国語力の不足を嘆いたものだが、数年ほど前から「自分はどうしてこの訳文のように英…

A Potential Shift in the Global Standard for Translation Directions(March 9, 2024)

Traditionally, the global standard for translation has been converting foreign languages into one's native language. I understand this approach is predominantly due to the richer vocabulary available in one's native language for expressing…

写経(原文と訳文の書き写し)のやり方と、最近の気づき

毎朝10分、写経をしている。僕は村井章子さんを最も尊敬しているので彼女の訳書を2冊、その原著とともに毎日交互に書き写しています。なるべく大きめの大学ノートを見開きで使い、1行目に原文、2行目にに日本語を書き写すという・・・という単純な方式だ。…

「失われた1世代」-オンライン英会話のレッスンから

フィリピン人の先生方の大半は、日本人がリッチで安全な国で暮らしていると思っているので、最近はその「誤解」を解くためにいろいろ説明していると、大いに驚かれることが多い(オンライン英会話の教材ではよく貧困問題が取り上げられるのだ)。 その例とし…

翻訳方向のグローバルスタンダードが変わるかも(2024年3月6日)

翻訳は元来、外国語を自国語に訳すことがグローバルスタンダードであった。その理由は、表現力の面で自国語の語彙が圧倒的に豊富であるため、と僕は理解しているのだが(もっとも、日英は例外とされてきた。日本語の語彙や文法構造が英米語とあまりに異なる…

消費者の立場から参考書の出版社と書店に望むこと

様々な英語参考書を利用している立場から見ると、出版社や書店の皆さんは、新しい本をつくる暇があったら、これまで出たもののの中で良質なものを探す/編集し直す/勉強の仕方を提示するなど付加価値を高める努力をした方が生産性がはるかに高いと思う。小…

大人向け教養書としての英文解釈本という位置づけ

僕が大手書店員なら、山崎竜成著『知られざる英語の「素顔」-- 入試問題が教えてくれた言語事実 47』(プレイス)と今井亮一・平沢慎也著『スローでディープな英文精読』(研究社)に、「受験勉強に飽き足らない『大人』の皆様へ」というポップをつけて山川…

「翻訳を読むのは何か損をした気がしてしまうのだ」柴田元幸さん(2月29日に出会った言葉)

(1)2020年2月29日 翻訳を読むのは何か損をした気がしてしまうのだ。(柴田元幸著『僕は翻訳についてこう考えています 柴田元幸の意見100』アルク社、p156)本日の言葉:同業者の方には思わず頷いてしまう文章ではないかな。ただ、僕は「将来はどうせ英語…

翻訳ストレッチは、毎朝の「軌道修正」

毎朝仕事前に1時間近く翻訳ストレッチをしていて思うのは、しっかりとした本を使った勉強(今は紙とペンを用いた英文解釈と自己添削、英文の暗記が中心)と「写経」は、毎日ともすれば曲がりそうになる自分を正常な軌道に戻してくれる効果があるということ…

「新たな扉」「第三の目」「二の矢、三の矢」:生成AIに関する感想メモ

今日仕事中に思いついた生成AIに関する感想をメモ風に。 ①生成AIは、自分は持っていたはずだが使えなかった表現上の引き出しを開けてくれる。引き出しがそもそもないと意味がないけど。 ②翻訳者である僕にとって生成AI(英和では翻訳チェックに使っています…

his twisted ankleは 「捻挫した足首」か「足首が捻挫したこと」か?

今朝の次のやり取りは面白かった。 (質問1)Corrad Barazuzutti grimaces with pain as attendants care for his twisted right ankle which occured in the second set. のwhichの先行詞は何か?それはなぜか? (ChatGPT)The antecedent of "which" in th…

生成AI辞書:Consult a Dictionary

生成AI形式の辞書(説明に使われる用語は検証された辞書の範囲内)ができると爆発的に売れるかも。対話型で引けるから。 すでに電子辞書があるんだから、出版社はその気になったらAI辞書つくれますよね。そうなったら今後は辞書は「引くもの」ではなく、「相…

存在目的(パーパス)の追求は上場と両立できる

先日の勉強会で『フリーダム・インク』を取り上げていただいた。その席で以下のような質問をいただいた。 「理念の浸透や社員の自由を何よりも重視する上場会社は、上場すれば株主への配慮が優先され、短期的利益第一に走る危険があるのではないだろうか」 …

allの用法について五つの生成AIに尋ねてみた(『スローでディープな英文精読』より)

今朝、4つの生成AIと次のようなやり取りをしました。ご参考まで。 (問い)You didn't have to go to all that trouble. I could have done it. と言う文章でのallの用法は、①「すべて 全員」の意味か、それとも②相手が払った「全ての手間」や「努力」を…

『知られざる英語の「素顔」』の面白さ―受験生向きとは思わないけれど

If節って、主節の条件になっていることがほとんど。たとえば次の例。 (例1)If you have enough experience, he will hire you.(あなたに十分な経験があれば、あなたを雇いましょう)(山崎竜成著『しられざる英語の「素顔」』(プレイス)p23「副詞節の…

ノーム・チョムスキーとテッド・チャン:生成AIの信頼性に疑問を呈した二人の巨匠 (2024年2月14日)

2022年11月30日にChatGPT-3が公開されてから1年2カ月。僕がその存在を知ったのは2023年2月上旬ぐらい。「ちょっと普通ではない」と感じてビジネス英語教育Q-Leapさん向けの記事にまとめたのが昨年の3月だ。 ビジネスに役立つ経済金融英語 第19回:いまさら聞…

抱き枕は「いびき」防止に効く(あくまでも個人の感想です)

睡眠時無呼吸性症候群にお悩みの方へ: 抱き枕は効くと思います。 理由その1:枕が横にあると自然と抱いて寝るので必ず横向きになる。寝返りを打つ時には枕を動かす必要はあるが、軽いし負担にはなりません。 理由その2:「抱いて寝る」という姿勢はとても…

オンライン英会話でこちらがレッスン?(ロートルから新人翻訳者へのアドバイス)

今日のオンライン英会話で「僕の生徒に経済分野の翻訳者がいるんだが、客数が増えないのでもう廃業しようかと思っている。アドバイスはないか?」と聞かれた。彼の悩める生徒さんは40代女性。数カ月前に脱サラして独立したらしい。「僕のやり方は、10年前な…

Generative AI Cannot Be Left to Its Own Devices

In an experiment using ChatHub to have six different AI generators read the same passage and extract what they deemed the 'most important sentence' based on a given prompt, it was observed that they often chose different sentences (althoug…

生成AIは「任せっ放し」にはできない(2024年2月9日)

試みにChatHubを使って六つの生成AIに同じ文章を読ませ、「最も重要な一文をそのまま抜き出せ」というプロンプトを入力すると、すべてが違った文章を選ぶことがある(重なることはもちろん多い)。またChatGPTを使う場合にも、使う時間によって回答が異なる…

松本道弘さんがエコノミスト誌を持っていた理由

過去のブログを見ると2018年だから、故松本道弘さんのセミナーに参加したのは亡くなる6年前だったことになる。会場は大手書店のセミナー会場で、当時松本さんが出版された書籍のプロモーションを兼ねていたのだと思う。 いよいよ80歳になろうとしていた松本…

「生きることにこつというものがもしあるとするなら・・・深刻にならないことよね」2月7日に出会った言葉

(1)2023年2月7日 「生きることにこつというものがもしあるとするなら、それはやっぱり全面的には深刻にならないことよね」川上未映子著『すべて真夜中の恋人たち』(講談社)pp137-138*本書の主人公はフリーランスの校閲者。 (2)2019年2月7日 ……サー…

だんだん本気になってきたNHKラジオ英会話(最初は「耳慣らし」のつもりだったのですが・・・)

一昨年11月にオンライン英会話を始めて2週間後ぐらからだったかな。オールイングリッシュとは言っても講師がフィリピン人の先生なので、オンライン英会話の前に「耳慣らし」としてNHK英会話も聴き始めたのだが、時間が経つうちに付き合い方も少しずつか会っ…

重い『ケインズ』(写経は大変)

村井章子さん訳のケインズの伝記『ジョン・メイナード・ケインズ 1883-1946(上)(下)経済学者、思想家、ステーツマン』の原著、John Maynard Keynes 1883-1946: Economist, Philosopher, Statesmanの原文と訳文の手書き写し(「写経」に取り組み始めて1カ…

鳥飼久美子/斎藤兆史『迷える英語好きたちへ』(インターナショナル新書)を楽しく読み終える。

鳥飼久美子/斎藤兆史『迷える英語好きたちへ』(インターナショナル新書) 楽しく読み終えました。英語学習法には昔から興味があり、特に訳読を中心とする訳読の重要性を強調されている斎藤さんの英語や英語教育に対するお考えには賛同していたこともあり、…

「日本語にないのは主語ではなく代名詞」

今井亮一、平沢慎也著『スローでディープな英文精読』(研究社) の第I部第3章、”The Myth of the Subjectless Sentence" By Jay Rubinの「日本語には主語がないのではなくて、代名詞が非常に少ないのだ」という主張は勉強になる。 (通常の英語)Cloquet an…

DeepLはゴール、ChatGPTはスタート地点/DeepL: The Goal, ChatGPT: The Starting Point (2024年1月31日)

Facebookの去年の今日にこういう書き込みをしていた。 「DeepLは、今のレベルでは翻訳には使えないが、翻訳チェックには役立つという印象」 たった1年前だが、当時は、いわゆる機械翻訳(ここでは英日翻訳を前提にしている)が翻訳に使える日ははるか彼方だ…