金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

(私にとっての)「翻訳ツールとしてのChatGPT(生成AI)」定義変更(2024年4月18日時点)

気が付いたのは昨日だった。英日(英語→日本語)翻訳のチェックにChatGPTを使っているのだが、そのコメントと修正案の日本語が妙にうまくなったと感じたのだ。そこでフェイスブックツイッター

ChatGPTいきなり日本語がうまくなった印象。気のせいかな?

と書いた。

今朝も翻訳チェックを使ってその印象がますます強くなったので、息子(会社でデータを扱っており生成AIの利用もしている)に「おい、日本語が格段にうまくなっているぞ。なんかあったのか?」と尋ねたところ、

「あれ、知らなかったの?日本法人設立に合わせて2日ぐらい前から日本語対応が始まったんだよ」。

やっぱりそうだったのか。

もちろん、この記事は知っていた。

OpenAIやMicrosoft、対日投資拡大 経済安保が追い風 - 日本経済新聞

なるほど、それに合わせて日本語サービスの質も上がったというわけだな。

実は4月14日のウェビナーの資料にはこう書いた。

(私にとっての)「翻訳ツールとしてのChatGPT(生成AI)とは

非常に頭の回転が速く、出力も迅速で、無尽蔵な知識を誇るが、日本語能力にはまだ課題の残る、英語ネイティブの、月額20ドルで雇えるアシスタント」

先週までのChatGPTの日本語表現能力は、たとえて言えばオスマン・サンコン氏並みの日本語力だった。しかし、現時点では現時点ではパックン(パトリック・ハーラン)氏と肩を並べるぐらいにはなっているというのが実感だ。ロールシャッハアドバイザリのジョセフ クラフト 氏(ご存知ない方はテレ東の「モーサテ」を見てね)にはやや劣る、という感じではなかろうか。

以上を踏まえ、私にとっての翻訳ツールとしてのChatGPT(生成AI)の定義を次のように変更する。

「頭の回転が非常に速く、出力も迅速で、無尽蔵な知識を誇り、日本語もかなり使える、月額20ドルで雇える英語ネイティブのアシスタント」

tbest.hatenablog.com

 

 

ウェビナーの感想(思いつくまま)

機械翻訳」(機械が出力した翻訳アウトプット)に可能性は感じつつも当面無理だと思っていた自分が、1年後にまさかこのテーマに関するセミナーで話す機会を与えられるとは全く予想していませんでした。

ひょんなことからChatGPTを知ってそれについて調べてくうちに面白くなって、余暇時間に遊びながらその時に得た知見(というか試行錯誤)をそのままブログで書き続けていたら、イカロス出版様からお声がけいただきました。山田優先生(書籍の中で名前を紹介していただいた)のご著書以外にはほとんど関連書籍も読んでいないし、SNSも発信/宣伝中心で他の方の発言等に目を通すことはまずなく、私の考えや意見はほぼ自分の経験と感想のみなので、実務翻訳界の世論とは大きく外れている可能性はあるがそれでよいか?とお尋ねしたところ「どうぞどうぞ」という暖かいお返事。素晴らしい機会をいただきました。改めてお礼申し上げます。

当日は翻訳という共通点以外はバックグラウンドの異なる4人が自分の体験と感想を話し、司会の高橋さんの見事なリードで意見交換したわけですが、少なくとも次の点でコンセンサスが得られたのではないかという気がしています(文責は私です)。

・翻訳者が生成AIという最先端の技術を使いこなしていくためには、「生身の英語力(私は英文読解力だと考えている)」を養うべきだ(生成AIの登場によって、(AIなしで)英語ができる者とできない者との能力格差が広がっていく可能性があるとの参加者からのご指摘はなるほどと思った)。

・生成AIを安易に使い続けると、生身の翻訳力は落ちる。道具ができればそれに支援される能力は落ちるのは必然。翻訳も同じだと思う。ちなみに私は15年ほど前から「翻訳ストレッチ」(私の造語です。英文解釈や英作文など、翻訳の基礎力をつけるトレーニングを毎日30~1時間行っています。このブログ内で検索していただければ関連記事がたくさんみつかります)に取り組んでいて、その結果として生成AIの利用による翻訳力の低下には歯止めがかかっていると思う。。

・専門とする分野の基本的な知識がないままで生成AIを利用するのは危ない。なぜならば生成AIは「平気で噓をつく」からだ。たとえば、僕は自分が普段訳している経済・金融関連のものであれば、日英にかかわらずそれに関する記事や論文を読めば、「どこをチェックすればよいか」がある程度わかる。ところが、これから経済・金融分野の翻訳者を目指している人が生成AIの出力したものを読んだらその勘所がつかめないので鵜呑みにしてしまい、(AIの出力した嘘の情報によって)自分の知識や理解がゆがむ可能性がある。だから、経験不足の翻訳学習者(に限らずある分野で経験不足の人)はAI翻訳(AIが出力した翻訳)を使うべきではない

・生成AIを利用するのは翻訳者。だから「この出力を(どう)使うか」を翻訳者が自分で考えながら、自らの責任で管理し、利用しなければならない。

結局、生成AIの誕生で便利になったからこそ、人の英語力(翻訳力)が一段と重要になるという何とも皮肉な見方が支配的になったわけですね。

そういえば、柳瀬先生の京都大学での教育実践の様子を伺いながら、最先端の英語教育がなされている大学の入試問題が、一見旧態依然に見えるレベルと形式(京都大学の英語の入試問題は、今もガチガチの英文解釈と英作文の2題と自由英作文)という事実が非常に興味深いと思った。長年にわたって高いレベルを保ち形式も変えることなく、受験生はそのレベルを目指してほしいという大学の意思表示が、巡り巡って(?)今の生成AIの時代に最も合うようになったわけで、生成AIの時代が進むほど、大学受験英語も訳読方式と英作文への「先祖帰り」するのかも。水野均著『日本人は英語をどう訳してきたか』(法政大学出版部)が今年出版されたのも、そういう時代の到来の予兆だったりして。

ChatGPTを使った大学の授業はハーバードのケース討論方式がいい!

生成AIの登場で先生がいらなくなる?とんでもない!!今の時代の役割は、①いかに生徒の学習意欲を高めるかを考え、②生徒の学習状況を観察しながら取り組み方についてその場でアドバイスを与える良き観察者になることだと思います。

僕が大学関係者なら、生成AIリテラシーを養成する科目をつくってこれを必須科目とし、半年~1年をかけて生成AIを利用しながら可能性や限界を学ばせる、いや学生と一緒に学びながら可能性を切り開いていくと思う。

どんな科目でもいいのだが、ポイントは、生成AIを一つの指針にして、先生が生徒たちと一緒に考え、討論していくスタイルだ。例えば翻訳なら、1学期10回の授業では毎回「英語にしたい1000字程度の日本語原文」を学生に持ってきてもらって、クラス全員でChatGPTに「その場で」訳させて、それぞれの訳文を比較検討し、話し合いながらクラス全体で訳文を完成させていく授業をやるのも面白いかもしれない。

同じ時間に全員でChatGPTに同じ文章を訳させても訳文が異なるはずです。それ自体が十分な「学び」になるはず。先生も正解がわからない中で、いろいろなプロンプトのアイデアをみんなで試して考えていくのである。

授業形式はハーバードビジネスクールのケース討論方式。成績は、授業中の学生の発言や提案内容を先生がチェックし(その場で採点し)たクラスへの貢献点と、期末の翻訳テストの素点の合計で決める(プロンプトと生成AIとのやりとりも提出させる)。

僕は翻訳者なので、一例として翻訳で考えられる例を提示したけど、どんな教科やテーマでもChatGPTを使った討論形式の講義はありだと思う。講義の過程で生成AIの限界や問題点も見えてくるはず。「え~とですね、生成AIというのは・・・」なんぞと教授が「神の声」をご宣託する授業よりもはるかに教育効果が高いと思う。

先生の役割はますます高まるはず。大変だぜ(・・・ちなみに私は学生数30名ぐらいまでであればシラバスをつくってこの授業を実現させられる、と自己宣伝しておきますね)。

 

 

「ビジネスに役立つ経済金融英語 第26回: 金融政策の枠組みの見直しについて(Changes in the Monetary Policy Framework)」のイントロダクション

実は私の本業はこちらでございまして・・・日銀の今回の政策表明は今後さまざまな箇所で引用される資料的価値の高いものだと思いますので、金融専門でない皆様も是非ご一読ください。

(余談)
記事中で「異次元緩和」が『ウォール・ストリート・ジャーナル』ではunorthodox monetary easing policies、『ジャパン・タイムズ』では unprecedented monetary easingと訳されていたと紹介しました。では、こうした英文記事を日本語に訳す場合には「異次元緩和」と訳すかと言われると違うのではないかと思います。私がこの記事の翻訳を担当した場合には、前者を「異例の金融政策」、後者を「前代未聞の金融緩和政策」とした上で「なお政府日銀はこれを『異次元緩和』と呼んだ」という訳注をつけたと思います。ただ、この記事の内容をベースとして(翻訳というよりも)日本人向けのまとめや要約する場合には、何の注釈もつけずに「異次元緩和」と書いたかも。

ちなみに「異次元緩和」は文字通り訳すと'the monetary easing policy in a different dimension'でしょうか。そしてこの言葉を活かして外国人に紹介するのであれば、

"The Japanese government and the Bank of Japan (namely, Mr. Kuroda, the governor at the time) termed this policy 'the monetary easing policy in a different dimension'."

とでも言ったでしょうが、そこまで注釈を入れる意味がないと英米の記者たちは判断したのかもしれません(これ、本文に書いてもよかったかも)。

これまでChatGPT関連で書いたブログ記事一覧(4月14日のセミナーの基礎資料として)(2024年4月8日)

4月14日(日)のセミナーでは、基本的に下のページに書かれていることのエッセンスをお話しします。記事はタイトルの下に「ChatGPT」と書いてあります。私の話す時間は限られていますので、あらかじめ読んでいただければと思いまとめてみることにしました。

tbest.hatenablog.com

ChatGPTに直接関連した記事で一番古いのが
「ビジネスに役立つ経済金融英語 第19回:いまさら聞けない(!?)ChatGPT入門」(2023年3月29日)です。

で、その後英日合わせて90数本の記事を書いてきました。ChatGPTの使い方を試行錯誤しながら覚えてきた過程や結果、その時々に思ったことや僕なりの結論(検証されていないので仮説にすぎませんが)を文字通りそのまま書いてきましたので、複数の記事の間には矛盾したものや間違った内容もあると思いますが、ライブ感を重視したいので一切手を入れておりません(僕はよくある「成功体験記」方式が嫌いなんです)。矛盾や間違いがあったら、それは「鈴木の考え方はそうだったのか(そう変わったのか)」と思っていただければと思います。

英語で書いた(ChatGPT関連)記事が20数本ありますが、これはすべて日本語の記事をChatGPTに一次訳させて修正したものです。したがって正味のChatGPT関連記事は70本ぐらい。またこれ以外にテーマはChatGPTとは関係のないもので日本語で書いたブログを英語にしたものが40本ぐらいあります。タイトルの下のEnglishをクリックしていただければ出てきます。すべてChatGPTに一次訳させて修正したものです)

当日までまだ数日ありますので、お時間のある方は、できれば古い方から読んでいただければ、当日私のお話しする内容を深くご理解いただけると思います。

では当日お会いしましょう。 

tsuhon.jp

生成AIに関する仮説二つ(翻訳/英語教育関連)(2024年4月7日現在)

  1. 総花的な1回のプロンプトよりも、ポイントを絞った複数回のプロンプトを繰り出していくが「正解」(質問者の求めている答え)に近づきやすい。
  2. 原文の日本語を工夫して(内容を曖昧にする、対象の原文をかなり長いものにする、等)「やり取りのスクリーンショットをすべて提出せよ」と義務付ければ、生成AIの理由を認めて英作文の課題(テスト)を出せるはず。当然採点基準はAIがない頃よりも格段に厳しくなるはずですが。

『Q思考』はプロンプトエンジニアリングに関する最高の副読本だ!(1万5千部突破記念)

『Q思考――シンプルな問いで本質をつかむ思考法』5刷決定!!
先ほど編集部からご連絡ありました。
2016年に出た本が、コツコツ売れてきて累計で1万5000部突破しております。
これはジワーッとうれしいです。
生成AIブームで質問の重要性が大きく見直された結果なんだと思います。
編集部と読者の皆さんに心から感謝!

・・・で改めて本書の目次を見たところ、生成AIの今の時代にピタリだと思いいたりました。出版が時代よりも8年早過ぎたのかも。出版元のダイヤモンド社様に、出版当時に掲載されたオンライン記事が見つかりましたので、こちらをお読みいただければ、本書が最高のプロンプト・エンジニアリング用副読本になると確信した次第。

いよいよここから、大ベストセラーへの道をまっしぐらだ!!!

まずは記事を読んでみてくださいな。

 

1.「出世のスピードは質問の多さに比例する」

diamond.jp

2.ブレストはこんなに無意味だった!研究で判明した真実とは?

diamond.jp

3.全米で流行中!人生が変わる「1行の質問」って?

diamond.jp

4.コレで頭がよくなる!ヴジャデ発想法のすごい効果

diamond.jp

 

tbest.hatenablog.com