金融翻訳者の日記

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

思えば、翻訳界の低迷は・・・ :出会った言葉(昨年~4年前の今日、FBお友だち限り投稿への書き込みより)㉕

(1)昨年の今日
The greatest of faults, I should say, is to be conscious of none.
[意味] 欠点の最大のものは、欠点をひとつも意識していないことだろう。
(佐々木高政著『英文解釈考』(金子書房)p19)
*英語で人生訓を学ぶ本から。受験生じゃないので、何度も繰り返しながらゆっくり進んでいます。

(2)2年前の今日
やはり教師は、時間をかけて報われるもののようです。
金時鐘(きむ しじょん 詩人)
(「人生の贈り物」金時鐘 2019年8月2日付朝日新聞

(3)3年前の今日
思えば、辞書界の低迷は、編者の前近代的な体質と方法論の無自覚に在るのではないか。先行書数冊を机上にひろげ、適宜に取捨選択して一書を成すは、いわゆるパッチワークの最たるもの、所詮、芋(いも)辞書の域を出ない。その語の指すところのものを実際の用例について、よく知り、よく考え、本義を弁えた上に、広義・狭義にわたって語釈を施す以外に王道は無い。辞書は、引き写しの結果ではなく、用例蒐集と思索の産物でなければならぬ。尊厳な人間が一個の人格として扱われるごとく、須(すべから)く、一冊の辞書には編者独特の持ち味が、なんらかの意味で滲み出なければならぬものと思う。かような主張のもとに本書は成った。今後の国語辞書すべて、本書の創(はじ)めた形式・体裁と思索の結果を盲目的に踏襲することを、断じて拒否する。辞書発達のために、あらゆる模倣をお断りする。 昭和四十六年十月  酒井健二等編者
(「新たなる物を目指して」(初版/第二版 序)『新明解国語辞典 七版』より)

*上の「辞書」を「翻訳」に直してあと少し調整するとこんな感じの文章になり、翻訳者の心構えを読んでいる感じがする。

思えば、翻訳界の低迷は、翻訳者の前近代的な体質と方法論の無自覚に在るのではないか。先行書数冊を机上にひろげ、適宜に取捨選択して翻訳を成すは、いわゆるパッチワークの最たるもの、所詮、芋(いも)翻訳の域を出ない。その語の指すところのものを実際の用例について、よく知り、よく考え、本義を弁えた上に、広義・狭義にわたって訳文を作成する以外に王道は無い。訳書は、引き写しの結果ではなく、用例蒐集と思索の産物でなければならぬ。尊厳な人間が一個の人格として扱われるごとく、須(すべから)く、一冊の訳書には翻訳者独特の持ち味が、なんらかの意味で滲み出なければならぬものと思う。

品格とは?:出会った言葉(昨年~4年前の今日、FBお友だち限り投稿への書き込みより)㉔

(1)昨年の今日
① 品格とは、「どことなく感じられる性質のよしあしの程度」
(別宮貞徳著『裏返し文章講座』(ちくま学芸文庫)p17)
② 品が良いとは何か。それは怯えである(立川志らく「芸人論」2017年3月3日付日本経済新聞

別宮さんの本を読んでいたら出てきた「品格」。どこかで見たなと思っていたら、相方のスクラップしてある新聞記事の切り抜きから出てきました。ちなみに別宮さんは引用文の「品格」を抽象的だとしてもっと具体的な定義があるはずだと検討し、英語のdecent=conforming with generally accepted standards; appropriate, fittingが一番ピタリと来るとして、「品格のある日本語」を「しかるべきことばがしかるべき場所でしかるべき用法に従って使われている日本語」と定義し、これを基準に世の中の悪訳を検討していくと述べています。

一方志らくさんは引用文の次にこう続く。「自分は間違っているのではないか、もしかしたら下手なのでは、客に見捨てられるのでは、等その怯えは芸人ならば必ず持っている」。

僕には別宮さんでは冒頭の「曖昧な」定義の方が、そして志らくさんの定義の方がもっとしっくり来ました。

(2)2年前の今日
僕が翻訳するときはまず、英語から日本語に翻訳し、それを何度かチェックして、合っているかどうか確かめて、ある段階で英語を隠して、日本語を自分の文章だと思って直していくんです。 村上春樹さん
(『本当の翻訳の話をしよう』p257 村上春樹柴田元幸著 スイッチ・パブリッシング)

今日の言葉を読んで思ったのは、「あれ、文芸翻訳っぽくないなあ」という驚きだった。文芸翻訳では、『著者の呼吸』をなるべく残せ、という指導をされることが多い。柴田先生の『翻訳教室』でもその点が何度か指摘されていると記憶する。「できれば語順も」、と。「原文が過去だったら日本語でも過去」とか。「話法を合わせよ」とかとか。でも村上さんがおっしゃっていることは、そのアプローチとは違う。

原文を理解したら自分の呼吸に直すとおっしゃっている。

実は柴田さんも村上さんの発言に続いて、「・・・それで、最後の最後は、また原文を忘れて日本語を練る」(同書p258)とおっしゃっている。

これって村井章子さんと同じ、ノンフィクションのスタイルなんだ!と思いました。村井さんは3年ほど前のセミナーで『私の翻訳スタイルは、原文を読んで理解したら、それをなるべくわかりやすい日本語で書くこと』とおっしゃっていた。翻訳に正解はないだろうけれど、この村上さんの言葉にはちょっと驚いた。
もっとも、そういう発言は村上さんや柴田さんのような達人だからこそ言えるんであって、お前みたいな修行者は黙ってろと言われたらぐうの音も出ないわけですが。

(3)3年前の今日
六十年間生きてきて、知り得た真理が一つだけある。
それは「此の世は積み重ねである」ということだ。(全国紙サントリー広告より)
(『山口瞳 江分利満氏、ふたたび読本』KAWADE夢ムック(河出書房新社)P7より)

https://www.amazon.co.jp/dp/4309978290

(4)4年前の今日
色んな男と別れてきたけれど やっぱり福沢諭吉との別れが 一番辛いわ。
(2017年7月28日 哀姫 @koi_ai_himeさんのツイートより)

内容がつまらないからこそ力がつくのかも(TOEIC)

TOEICのテキストって、ビラとかチャットとかプレスリリースとか時刻表とか取扱説明書とかつまらないものが多い。だからこそ「読解力」(基本的な情報収集能力)がつくのかもしれない、と英検1級のテキストをつい「読み込んで(鑑賞して)」しまって思った次第。

もちろんその「読解力」はカギ括弧つき。日本における現代国語的な読解力はその先です。これはTOEICをいくら学んでも身につかない。TOEFLとか英検1級に移らないと。

そしてその先が本格的な読書になるのかな。

東京オリンピックの開催に反対します。ただし参加した選手たちには喝采を送りたい

僕は、平野さんのご意見(下のリンク先を参照してください)に概ね賛成です。東京オリンピックの開催に今でも反対しています。

ただし、五輪に参加している選手にまで一市民として、我々一般人と同じだけの良識を求め、自ら五輪を辞退するよう要請する(彼はそこまで言っていないが含意していると思う)のは無理だと思う。

彼らが東京五輪に参加しないこと、即ち東京五輪を開催しない(日本選手が参加しない東京五輪はあり得ないという前提です)という判断は国家(あるいは各国の五輪委員会?)によってなされるべきで、そしてその判断は彼らを含む日本国民の多数意見によって担保されなければならなかった。

ところが不幸なことに、多くの国民の意思に反する形で東京五輪の開催が国によって決定され、選手は代表であるが故に参加する。国がそう決定したのに、それに出場する彼らだけを批判するのは酷すぎると思う。だって彼らはオリンピックに出場して勝つために人生を賭けてきたのであって、そこには一般国民とは違う意思や判断があっても当然だからだ。我々一般国民は、選手を素直な気持ちで応援し、彼らの姿勢に感動し、メダルを取ってくれれば、不幸にして開催されてしまった東京五輪で実現した「不幸中の幸い」として大いに喜べばいいと思う。

なお、自らの判断でこの東京五輪に反対し、その意思を示すために自ら出場を辞退する自由は選手にはあるし、そういう選手を批判する権利は誰にもない。その一方で、五輪開催に反対する人たちが、参加した選手たちを非難するのは、彼らの置かれた立場や強烈なプレッシャーを考えれば、フェアではないと僕は思う。

平野さんの文章を読んでそう思いました。

www.nishinippon.co.jp

自己愛を捨てる:出会った言葉(昨年~4年前の今日、FBお友だち限り投稿への書き込みより)㉓

(1)昨年の今日
(安定した(水準の)翻訳を続けるコツは?と言う質問に対して)「自己愛を捨てることです」
柴田元幸さん、2020年通訳翻訳フォーラム基調セッション「僕は翻訳についてこう考えています」より)

(2)2年前の今日
向こう岸、見ているだけでは渡れない
(「私の履歴書――コシノジュンコ(1)だんじり祭 「正々堂々、実力で」の魂育む 世界に羽ばたく原動力に」2019年8月1日付日本経済新聞

www.nikkei.com

(3)3年前の今日
そういう経緯だったので、別室の発表記者会見の席は新参者の私が行った。
向田邦子さんという人は、私より小説が上手です」
記者たちの笑い声が起こった。
「それから、随筆も私より上手です。いやになっちゃうね」
ドッと言う笑い声が湧いた。
山口瞳向田邦子は戦友だった」『向田邦子を読む』p71)

https://www.amazon.co.jp/dp/4167917424

(4)4年前の今日
① 言論を大切にしない人を、私は信用する気にならない。
(「言葉の意味ずらす 今の政治 ー 自分を正当化、その場しのぎ、批判逃れ」野矢茂樹さん 2017年8月1日付朝日新聞
②「蓮舫さんは批判ばっかり。でも稲田防衛大臣は核心近くのことを聞かれると、隠すように見えます。私はああいう大人になりたくありません」(2017年7月31日の「子ども国会」参加者が、テレビ東京のインタビューで)

翻訳ストレッチ内訳(2021年7月末時点)

1.英文解釈(毎日):毎日30~40分 
毎日2冊(1冊は20分、1冊を10分が基本)。全て紙に訳文を書いて模範解答を見て添削。5~10回音読。最近は添削、音読に加え、模範解答の和訳を書き写すようにしている。

『英文標準問題精講』(原仙作、中原道喜、旺文社):現在1回終了し、2回目の例題29。本書は2回目なので、毎回10分
『英文解釈教室―改訂版』(伊藤和夫 研究社):第9章「関係詞」P166
『英文解釈考』(佐々木高政、金子書房):「II文章の織りなし 4「形容詞」」P75
『思考訓練の場としての英文解釈(1)』(多田正行育文社):第2章「名詞化表現の解析」p93
『翻訳力錬成テキストブック』(柴田耕太郎、日外アソシエーツ)「第五部 難解な文章を読む」「課題5-6」P510

2. 翻訳関連書籍(次の中から一冊ずつ):毎日5分(ただし、時間のない時は飛ばしているので、平均すると2日に一度ぐらいになっている)
『誤訳の構造』(6周目)『誤訳の常識』(2周目)『誤訳の典型』(3周目)(中原道喜、聖文新社)
『英語原典で読む経済学史』(p156)『英語原典で読む現代経済学』(p56)(根井雅弘、白水社)』*いずれも非常に難解で、5分では数行しか進まない。
『翻訳教室』(柴田元幸新書館)(P228)
『翻訳の技法』(飛田茂雄、研究者出版)(P51)
*『英文翻訳術』(安西徹雄、筑摩学芸文庫)(P147)
*『さらば学校英語 実践翻訳の技術』(別宮貞徳、筑摩学芸文庫)(P274)
・・・基本は線を引きながら読むだけ。*の2冊は訳文を書いて添削している。時間で切る。

3. 原文と訳書の手書き写し:毎日10分
『絶望を希望に返る経済学』バナジー&デュフロー著、村井章子訳、日本経済新聞出版
・・・原文と訳文を一文ずつ手書きで写して読む。時間で切る。現在p71。7mm×30行×100枚のノートがあと30枚ぐらい。

4. 原文と訳書の音読(次の中から1冊ずつ):ほぼ毎日5分(ただし、時間のない時は飛ばしているので、平均すると2~3日に一度ぐらいになっているのであまり進まない)
21世紀の資本』(トマ・ピケティ著、山形浩生訳、みすず書房)P133
『世紀の空売り』(マイケル・ルイス著、東江一紀訳、文藝春秋)P373
『浮き世の画家』(カズオ・イシグロ著、飛田茂雄訳、ハヤカワ文庫)2周目。P220
『特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー』(カズオ・イシグロ著、土屋雅雄訳、早川書房)4周目。P36
サミング・アップ』(サマセット・モーム著、行方昭夫訳、岩波文庫)P27
・・・原文と訳文を段落ベースで音読。

5. 英文法と英作文:英作文を毎日10分。英文法を2日に一度ぐらい5分に変更(←2日に一度ぐらい。英文法、英作文を1冊ずつ。計10分)
英文法:次の本を毎日交代で。
『表現のための実践ロイヤル英文法』(綿貫陽、マーク・ピーターセン、旺文社)
ヘミングウェイで学ぶ英文法 2』(倉林秀男、今村楯夫著、アスク出版)
TOEIC, L&R 990点突破ガイド』(アスカ)
『英検1級長文読解問題120』(旺文社)
『英検1級語彙・イディオム問題500』(旺文社)
東工大英単』(研究社)
*『東工大英単』は7月下旬から追加。『TOEIC, L&R 990点突破ガイド』は現在3巡目。
**『英語正誤マニュアル』は著者の姿勢に疑問を抱いたため外した。

英作文:次の本を毎日交代で。
『表現のための実践ロイヤル英作文法問題演習-解答と解説』
『表現のための実践ロイヤル作文のための暗記用例文300』(綿貫陽、マーク・ピーターセン、旺文社)これは現在27巡目・・・いずれも英文の丸暗記です。
『英文表現力を豊かにする例解 和文英訳教本』(小倉弘著 プレイス)。考えながら訳して添削、暗記。

6. 日本語文章の音読:毎日。1冊当たり5分×2~3冊。計10~15分(3~4冊、15~20分より1冊分ぐらい短くなっている)
毎日、日本経済新聞の「春秋」と朝日新聞の「天声人語」を音読している。現在20冊ほどが本棚に並んでおり、それを順番に読んでいるが、日本語をきちんと読みたいと思い、『大学入試システム現代文 ベーシック編』(出口 汪著 水王舎)は2回終了。『システム現代文 バイブル編』に進む。

3月から始めた日経/朝日30分+Time誌15分は完全に起動に乗った。

なお、4月からNHK「ラジオビジネス会話」を始めたが、5月以降テキストは買っているもののできていない。元々オンラインの英会話教室に入ろうと思っていた。ただ、いくらワンレッスン当たりの単価が安くても続かなければダメだろうと思い、前哨戦としてNHKの番組から、と思って始めたのである。毎日15分、取れるようで取れない。これがちゃんと3カ月続いたらオンライン会話講座を考えたい。

勉強中の皆さんの参考になれば。

tbest.hatenablog.com

出会った言葉(昨年~3年前の今日、FBお友だち限り投稿への書き込みより)㉒

(1)昨年の5月13日
「社会は、百人百様の『要と急』で成り立つものなのかもしれません。……社会の『要と急』は、多くの人の事情が組み合わされてできています。それを最大公約数的に分けると、多数派で強い人の『不要不急』観だけが正しさとなりがちです」 ―末井昭さん(エッセイスト)
(「正しさ」に苦しむ弱者も 2020年5月13日付朝日新聞

(2)2年前の今日
「正義の人」より「ただの人」たれ、声高に運動するより、礼節ある無関心の方がどれほどましかわからない。関川夏央(随想集『「ただの人」の人生』から)
(「折々のことば」本日付朝日新聞
*確かにそうなんだけど、この言葉は世の中全体に対する楽観論というか性善説に立っているから言える言葉ではないか。つまり、「世の中には変な人もいるけど、全体としてはよい方向に向かっている」という前提だ。今はそうなのだろうか?とこの文章を読んで思いました。僕ならこう言うかな。
「正義の人」より「ただの人」たれ、声高に運動する必要はないけれど、礼節を失わず関心を持ち続けたい。その方がどれほどましかわからない。

(3)3年前の今日
 会社に限らず、「私の職」に出合うには、好奇心が欠かせない。好きでたまらない何かを見つけるのを助けてくれる。そんな仕事について経験を積めば、「生きていくのに必要な充実感や人間としての誇り」(『新13歳のハローワーク』)も得られる。

 その際、私個人が主導権を取りもどすにつれて、仕事と趣味や遊びの境界は、限りなくあいまいになっていく。
(「会社で働くって何?――『私の職』との出合い 生きる手応え得る」 編集委員 玉利伸吾 2018年7月30日付日本経済新聞