「彼女はこてこての関西弁で次のように尋ねた」という、くだけた物語や随筆の文脈なら、第一候補は in full-on Kansai dialect です。
Then, in full-on Kansai dialect, she asked, "…"
または、
She asked in full-on Kansai dialect, "…"
なぜ full-on なのか
「こてこて」は、単に「強い」「濃い」というだけの表現ではありません。「こてこてのソース」「こてこての化粧」と同じように、薄められていない濃さ、いかにもそれらしい典型性、そして軽い可笑しみを含んでいます。「絵に描いたような関西弁」「これぞ関西弁」に近い語感です。
full-on は、程度が非常に強いことを表す口語的な形容詞です。Cambridge Dictionary の語釈は次の通りです。
full-on — very great or to the greatest degree
(非常に大きな程度で、あるいは最大限に)
(Cambridge Dictionary, "full-on")
そのため、「こてこて」が持つ濃さ、典型性、口語的な勢い、軽い可笑しみを比較的よく表せます。
ただし、full-on Kansai dialect 自体を英語の決まり文句として扱っているわけではありません。一般的な口語表現である full-on を使い、「こてこて」の調子を英語として自然に再現したものです。
また、full-on を使っても、話し手が意識的に関西弁を誇張して演じていた、という意味にはなりません。あくまで語り手から見て、関西弁の特徴が前面に出ていたことを表します。
なぜ accent ではなく dialect なのか
この文では、直後に実際の発話が続きます。そこで問題になるのは発音だけではありません。関西特有の語彙、語尾、文法、言い回しまで含まれます。
Oxford Advanced Learner's Dictionary の dialect の語釈は次の通りです。
dialect — the form of a language that is spoken in one area with grammar, words and pronunciation that may be different from other forms of the same language
(ある地域で話される言語の形態で、文法・語彙・発音が、同じ言語の他の形態とは異なりうるもの)
(Oxford Advanced Learner's Dictionary, "dialect")
文法・語彙・発音のすべてを含む、と明記されています。これに対して accent は主として発音上の特徴を指すため、この場合は dialect のほうが適切です。
なぜこの修飾句が重要なのか
台詞を英語で示す以上、関西弁特有の語尾や言い回しは、通常、そのまま英語には現れません。したがって、「こてこて」という濃さを読者に伝える役割は、主として in full-on Kansai dialect という修飾句が担います。
中立的な strong でも基本的な意味は伝わりますが、「こてこて」の口語的な勢いや軽い可笑しみは弱くなります。
文体による代替案
中立的で説明的な文章
in a strong Kansai dialect
明快で安全な表現です。ただし、「強い関西弁」という中立的な意味に近く、「こてこて」の軽い可笑しみは薄れます。
発音上の訛りだけを強調する場合
in a thick Kansai accent
thick は、強く目立つ訛りについて使われます。ただし、accent が表すのは主として音声上の特徴です。関西特有の語彙、語尾、文法、言い回しまで含めたい場合には、意味の範囲が狭すぎます。
broad を使う場合
in broad Kansai dialect
これも英語として成立します。broad には、方言や訛りについて、地域的特徴が強く、はっきり表れていることを示す用法があるからです。
Cambridge Dictionary は broad をこう説明しています。
If someone has a broad accent, it is strong and noticeable, showing where they come from.
(ある人が broad accent で話すという場合、その訛りは強く目立ち、どこの出身かが分かるものである)例文:He spoke with a broad Australian accent.
(彼は強いオーストラリア訛りで話した)
(Cambridge Dictionary, "broad")
そして Oxford Advanced Learner's Dictionary は、dialect の項の用例に次を挙げています。
She spoke in broad Yorkshire dialect.
(彼女は濃いヨークシャー方言で話した)
(Oxford Advanced Learner's Dictionary, "dialect")
これは無冠詞で dialect を修飾する形です。したがって in broad Kansai dialect は、語法として辞書の用例と同型であり、まったく問題ありません。
それでもこの文脈で第一候補にしないのは、語法の正しさとは別の二つの理由によります。
一つは、この broad の語義が、一般的な「広い」という意味からは推測しにくいことです。Cambridge の語釈が accent を軸に立てられているように、この用法は accent と結びついた形のほうが理解されやすく、読者によっては即座に意味を取れない可能性があります。
もう一つは、broad が地域色の強さは表せても、「こてこて」が持つ口語的な勢いや軽い可笑しみまでは十分に拾わないことです。
実務上の注意
読者が関西を知らない可能性があるなら、台詞を導くこの一文で初めて地理を説明するのではなく、それ以前の初出箇所で一度説明しておくのが最善です。たとえば、
Kansai, a region in western Japan that includes cities such as Osaka and Kyoto
などと説明しておけば、台詞を導く一文は、
Then, in full-on Kansai dialect, she asked, "…"
と簡潔に書けます。
どうしてもこの位置で説明しなければならない場合は、ダッシュによる挿入を使います。
Then, in full-on Kansai dialect—the way people speak in the Kansai region of western Japan—she asked, "…"
ただし、これは台詞の直前に置く説明としてはやや長いため、できれば前の箇所で説明を済ませるほうがよいでしょう。
また、直後の台詞を米国南部方言やコックニーなど、別の英語方言に置き換えるのは避けたほうが安全です。その土地に固有の地域的・社会的含意まで持ち込んでしまうからです。通常は台詞を標準的な英語で示し、地の文の in full-on Kansai dialect で関西弁らしさを伝えます。
結論
「彼女はこてこての関西弁で次のように尋ねた」という、くだけた物語や随筆の文脈での第一候補は、
Then, in full-on Kansai dialect, she asked, "…"
です。
中立的な文章なら in a strong Kansai dialect、発音上の訛りだけを問題にするなら in a thick Kansai accent が適切です。in broad Kansai dialect も辞書の用例と同型で、語法上の問題はありません。
しかし、「こてこて」が持つ濃さ、典型性、口語的な勢い、軽い可笑しみまで表すなら、in full-on Kansai dialect がこの文脈では最も適切です。
Sources:
- dialect noun — Oxford Advanced Learner's Dictionary
- BROAD | English meaning — Cambridge Dictionary
- FULL-ON | English meaning — Cambridge Dictionary