金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

翻訳全般

2019年7月時点での機械翻訳のレベル

(以下引用)「AIがすべてのことをなすには時間がかかるが、現時点で翻訳力は非常に驚くべきレベルだ。とはいえ、機械はまだものごとの『すべての』意味をわかっているわけではない。『いくつかの』意味を分かっているだけだ」――どんな限界があるのでしょう…

仮説を検証しながら進もう:機械翻訳の得意、不得意(2019年5月27日)

翻訳者の皆さんが既にお気づきのように、用語や言い回しに関するルールが厳しい分野ほど、つまり人間にとってこれまでルールの習得が難しかった分野ほど機械翻訳は得意なはずだ。皮肉な話だけど。 一方、「こういう言い回しはあの時のどこかで使われた」とか…

手数料の自由化に襲われた証券業界と機械翻訳に襲われつつある産業翻訳業界

今ふと思ったんだが、機械翻訳の進出を恐れている翻訳者集団は、手数料自由化を恐れていたかつての証券業界と似ている。取引手数料の自由化によって証券ブローカーの本当の付加価値は何かが改めて問われ、淘汰が進んだのだったなあ。 (以下は僕がN証券にい…

「お父さんみたいになっちゃだめよ」(2019年5月)

今日の朝食時、就活中の次男からいきなり尋ねられた。 「お父さん、『今日は仕事やる気にならないなあ』って思うことない?」「う~ん・・・・」「すぐに返事しないってことは、ないんだね、お父さんにはそんなこと」「・・・いやいや、あるある。体調が優れ…

「リーディング」について(2019年3月2日)

*久しぶりにリーディングをやっています。 「翻訳することになったら翻訳者。翻訳しないことになったら2万円。期間は2週間」が当初のオファーでしたが、原書が300ページを超え、しかもコピペもマークもできない出版前PDF。「2週間は無理です」とまず答えた。…

TOEICお勧め著者と「間違いない本」1冊(2019年2月12日)

(大前提)あなたが本当にTOEICの点数アップを狙っているのであれば、狙うべきはTOEIC関連本「しか」書いていない執筆者。彼らはTOEICに人生を賭けている。根性の入り方が違う。TOEIC関連本「も」書いている執筆者の本は玉石混淆。具体的には・・・(1)外…

緊張 vs リラックス(2018年12月)

実務翻訳は色々な意味で、まずは「緊張」の要素が強いのだけれど、書籍翻訳は、緊張よりも「リラックス」が先にないとうまくいかない気がする。

勉強会オタク(2018年12月)

先日講師に招かれたある勉強会の席で、「勉強会出席オタクになったらマズイ」と言ったら、受講者のほぼ全員が一斉にうなずいたのにはびっくりした。そういうことを意識しているのとしていないだけでも違うと思う。

「何も足さない、何も引かない?」(2018年11月)

翻訳とは「何も足さない、何も引かないこと」と言われてしまうと、すくんでしまう。 言いたいことは分かるけど。 せめて、 著者の見たまま聞いたまま言いたいことを母語にするときに「何を足すか、何を引くか」を考えて表現すること、と言いたいな。

気がつけば講師(2018年10月)

「鈴木さ~ン、勉強会とか講演会とか無理ですよね」「無理でーす。でけまへーん」「じゃ、飲み会は?飲み会だけでもどーかなー?」「え~、どうしよーかなー(と思わせぶり)」「費用こちらで持ちますから」「え~そうなの?(デレデレ)・・・じゃあ、僕、…

「素人さん」「アマチュア」「ひよっこ」「駆け出し」

出会った言葉: 校閲者が「日本語のプロ」「日本語の専門家」だと思っている人は、意外に多いようです。…… それは、違いますね。自分を専門家だ、日本語の知識は誰にも負けない、などと思っている校閲者は、はっきり言ってダメな校閲者です。己を疑わない校…

校閲者(チェッカー)が自己主張を始めたら・・・

校閲者が自己主張を始めたら終わりだと思う。 最初の翻訳者をリスペクトし、その翻訳を生かす。自分はあくまで黒子であると肝に銘じ、なるべく元の翻訳に触らず、一定の質を保つために最低限必要な修正案を施す。 そして時間の余裕があれば、その修正案を翻…

翻訳は「作業」か?

以下はあくまでも好き嫌い、というか心理的な抵抗感の問題です。 最近翻訳関連の書籍を読んでいてひっかかるのは「処理する」という表現かな。「〇〇という表現の処理は難しい」とか「ここから先は処理に困る箇所はなさそうです」とか。 同じような意味で、…

実務翻訳におけるチェッカーは「見習い仕事」か?

実務翻訳業界でよく読まれている某誌今月号で「チェッカーのトライアル」を特集していた。 その中にチェッカーの要件として「翻訳の経験もあれば云々」という記述があった。 私は毎月校閲の仕事をしており、この業務は翻訳経験がかなりあり、しかも現役で翻…

「自分だったらこの条件で受けるか?」

翻訳会社は翻訳者に発注する時に「自分だったらこの条件で受けるか?」を自問すべきだ。その上で、受けないとしたら「自分は受けないけれどこの人にさせる理由は何か?」を相手に説明し納得させられなければその条件で発注すべきではないと私は思う。それは…

独立翌日(2021年9月2日)の営業日誌

独立した翌日の2002年9月2日からつけている「営業日誌」が51冊目に入りました。 初日にはこう書いてあります。 (ここから)本日買うものMDの機械ADSLの申し込みパソコン(?)秋葉原職務履歴書券面封筒履歴書用写真13時30分 Deodeo:パソコンの見積書送っ…

翻訳の添削業(?)ー複数の翻訳者によるマンスリー・プロジェクトの現場から(2018年6月)

「鈴木さん、翻訳の添削やったら?」と、ある方からアドバイスされた。 毎月某社レポートの校閲(まとめ役)を担当している。 複数の翻訳者の方の誤訳やら訳抜け、数字間違い等を随時直していく(優秀な方々なのであまりありません)のだが、普通の校正とち…

翻訳者の履歴書(2018年5月)

去年から今年にかけて、仕事で10通近くの(職務)履歴書に目を通す機会があった。そこで気がついたことを二つ。 1.8割がワード、2割がPDFだった。2.パスワードをかけてきた人が二人いた(パスワードは別メールで送られてきた)。3.PDFでパスワードをかけ…

交渉なしで単価がアップした話(真面目にやっていればこういうこともある、ということで)

昨日某社からメール。発注内容の説明とともに「なお5月納品分から翻訳単価を〇〇円にさせていただきます。少額のアップで恐縮なのですが、よろしくお願いいたします」とのメッセージ。これまで単価アップ交渉をして上げてもらったことはあるが、こっちが頼ん…

飜訳会社の延長線上にソースクライアントはいない(2021年4月26日)

昨日電話で話したある翻訳志望者の方は「翻訳会社とのつながりを広げ、深めていくとその先にソースクライアントがある」という誤解をされていたがそれはあり得ない。ソースクライアントは、自分で開拓、つまり営業活動をしないとという話をした。 飜訳会社を…

文芸翻訳の難しさ

今この瞬間に僕が訳している経済(市場)レポートについて、僕は歴史的背景も世界情勢もちゃんと分かって、その中の一部としてこの文章も表現も捉えられている。 したがって文章を読めばそこで言いたいことをほぼ正確に分かるし、かつ表現の機微も読みとった…

出版翻訳は「趣味」(2018年3月)

先日、実務翻訳者が集まる会合があって、その席で、「鈴木さんは実務翻訳と出版翻訳の(時間)のバランスをどう取っているのですか?」という質問を受けた。 「取っていません」と答えた。 「僕は食うためにまず実務翻訳に時間をかけます。それで余った時間…

「頑張るしかない」(2018年3月19日)

一昨年の村井章子さん、昨年の土屋政雄さんの講演会を振り返って思うお二人の共通点の一つは、 余裕を持って悠然と仕事をしているようには見えなかった、ということだ。 村井さんは確か昨年5月の連休後から8月(だったと思う)の講演会まで一日も休みがなく…

「機械(ソフトウエア)ができることは機械にさせた」利益は顧客に還元しなくてよいのか?(2018年3月3日)

「機械(ソフトウエア)にできることは機械にさせる」という考え方には僕も反対しない。「てにをは」や誤字脱字のチェック、同じ用語を使わなければならないところにその用語を使う。長い単語の打ち込みを省略する、等々だ。 もちろんそれを機械にさせること…

AIは小説を書けるが小説の解釈はできない(2018年3月3日)

おはようございます。 出会った言葉:「私はあなたが好きです」という文がある場合、AIにとっての「意味」はこの文が真か偽かだけだという。しかし、人間はこの短文にさえ、様々なニュアンスを見いだせる。(「AIVS教科書が読めない子どもたち 新井紀子…

あるべき翻訳教室とは?(2018年1月)

ふと思ったんだが、翻訳を教えるって、自分の生活をある程度さらけ出すことではないか。そうしないと説得力を持たないのではないか、と昨晩から今日にかけて感じた。合理的な根拠はない。 先日の柴田元幸先生も、土屋政雄先生も、一昨年聞いた村井章子先生も…

いわゆる「チェッカー」をやって気がついたこと(2018年1月)

A、B、C, Dさんの翻訳を僕が校閲し、Eさんの翻訳をBさんが、そしてFさんの翻訳をCさんが校閲し、最後にA~Fの校閲済み翻訳の最終チェックを僕がやる、というちょっとあまりない経験をした(僕は翻訳をしていない)。 分野は金融。A~Fさんともかなりの経験を…

柴田元幸先生トークイベント(ハックルベリー・フィンの冒けん)感想(2018年1月)

柴田元幸先生のトークショーでもう一つ感動したのは「率直さ」と「謙虚さ」かな。 ご自分の翻訳に対する姿勢と課題を素直に私たちに語りかけてくれたのには正直に心を打たれました(実は昨年に参加した土屋政雄先生もそうだった。やっぱり本当に偉い人は偉ぶ…

「取りあえず何か書いて先に進む」(柴田元幸先生の講演会から)(2018年1月)

昨日の柴田元幸先生のお話で僕に一番響いたのは、翻訳の難しい箇所に来たら「取りあえず何か書いて先に進む」だった。 「とことん突き詰めないと前に進まない」姿勢では一歩も進まない、と。

原文を聞いて訳文をチェックする(2018年1月)

先日ある翻訳者の方とメールでやりとりしていて、僕が音声を使って翻訳チェックをしているのを勘違いされて「私も鈴木さんにならって日本語を聞いてチェックしている」と書かれていたので誤解に気がついた。 僕は、英語(つまり原文)の音声を聞いて日本語の…