金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「リーディング」について(2019年3月2日)

*久しぶりにリーディングをやっています。

「翻訳することになったら翻訳者。翻訳しないことになったら2万円。期間は2週間」が当初のオファーでしたが、原書が300ページを超え、しかもコピペもマークもできない出版前PDF。「2週間は無理です」とまず答えた。「どれくらいで?」「一カ月ぐらいでしょうか?」。先方はこっちの事情を理解した上で声をかけてくれている。ただ向こうにも事情があるだろう。「版元に問い合わせますので、取りあえずお進めください」。もう一つ質問した。「もし読み終わって『つまらない』と思ったら、レポート書く必要ありますか?」「え?」「・・・と言いますか、つまらなかったら、『つまらなかった』という渾身のレポートは書けないような気がするんです」。

「出すことになったら鈴木さんが翻訳者」というオファーの場合、「本を出すべきだ」という方にバイアスがかかる。謝礼が安いのは、翻訳者の勉強代という名目がつくが、これは建前であって、出版社が翻訳者の足下を見ているオファーに他ならない(そこに出版社は甘えている。「正当な対価のないところにサービスはない」というサービスの法則が通らないから出版業界は堕落しているのだと思う)。そのことはわかっていても、そこはそこ、足下を見られていることを承知で受けてしまう(弱い)自分もいる。ただしこっちも暇ではないので、できないことはできないと言うし、無駄な時間は過ごしたくない。逆に『ティール組織』の時は「何が何でも出したい!」と思ったので採算度外視で40時間かけて10枚のレポートを書いて出版社の会議で落ちた話は以前にも書いた(あの時は立ち直れないくらい落ち込んだ)。

本当の目利き ー 『ティール組織』(原著)を発見した人 - 金融翻訳者の日記

「そうですねえ・・・」「読み終わった段階でご相談てのは?」「それで行きましょう。その場合謝礼は半分ぐらいで・・・」1冊本を読んでレポートを書いて2万円が、そもそも仕事として成立しないのだから、それが1万円になっても、よしんば5000円でも問題ない。「じゃあ、そういうことで」と10日後ぐらいに電話で話すことになった。
「ああ、それと最後に・・・スミマセン。仮に翻訳することになっても、多分出版専業の皆さんより時間がかかるので、もしかしたらLさん(編集者)の間尺に合わないかもしれません」。自分に不利な情報は先に示すのを方針としている。「う~ン・・・」。Lさんはしばらく黙りましたね。「・・・内容的にはそれほど急ぎませんので大丈夫ですが・・・ま、それも後でご相談しましょう」。で電話を切った。

ちなみに僕はこれまで「この本は出すべきではない」というレポートを3回出したことがある。うち1回は「こんな本を出したら御社の歴史に傷がつく」とまで書いた。この出版社は別の本の翻訳の機会をくれました。あと2社はその後ご縁がない。
面白いテーマなので時間を作って読み進めることにします。

よい1日を!