金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

実務翻訳におけるチェッカーは「見習い仕事」か?

実務翻訳業界でよく読まれている某誌今月号で「チェッカーのトライアル」を特集していた。

その中にチェッカーの要件として「翻訳の経験もあれば云々」という記述があった。

私は毎月校閲の仕事をしており、この業務は翻訳経験がかなりあり、しかも現役で翻訳をしていないとできない仕事だと実感しているので大いに違和感を抱いた。

一昨年、某所で講演会のようなことをした時にも、質問の中に「私はこれから翻訳を仕事にしたいと思っています。まずはチェッカーから・・・」とのご質問があったので、「それは順番が逆だと思います」とお答えしたことも思い出した。

あの特集はミスリーディングだと思う。「チェッカーは見習い仕事」という印象を翻訳希望者に与える可能性があるからだ。

他人の翻訳って自分の翻訳よりも突き放して見られるので、翻訳の質を上げるという点から校閲(チェック)には大きな意味がある。

だから、翻訳会社は翻訳経験の乏しい者を雇ってチェッカーにするよりも、翻訳者にチェッカー料金を払って翻訳を仕上げる体制を作った方がはるかに質の良い翻訳に仕上がると思う。翻訳者とチェッカー間で質疑応答も認めればなおよい。

では、費用(報酬)はいくらか?経験的には(実はそういう体制で翻訳を仕上げるチームに参加している)チェッカー料金は翻訳料の半額が適正だ、というのが肌感覚だ。

同じくらいの経験を持った者同士が、相手をリスペクトしつつ、間違いを指摘しあって良い物を作っていくのだ。他人の訳を校閲していてよく出会うのは、英文の理解は正しいのに英文の形(構造)に引っ張られて日本語が不自然になっているケースだ。伝えるべきは正確な情報と筆者の主張であって形ではない。もっとも、僕にもその傾向があることが自分の訳文を校閲してもらうと分かる。

もちろん、翻訳をしたこともない人にそんな仕事はできない。