金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

have to とmustを人称別にどう捉えるか(翻訳ストレッチの教材から)

have to とmustを人称別にどう捉えるかという問題。

『翻訳力錬成テキストブック』(柴田耕太郎著、日外アソシエーツ)のp397では、have to を客観的事情、mustを主観的感情と大まかな説明をした後、P400「研究」で「大まかには本文の通りだが、人称により微妙に異なる」として
一人称(mustは内的義務=そうしなければならないから、have toは外的義務=そういう事情だから)、二人称(mustは話者の事情、have to は客観的状況判断)、三人称の例(mustは①話者の命令②規則でそう決まっている、have to は社会的または団体的にそうするのが必要)ごとに単文を示しながら解説している。説明だけを読み進めるとその都度理解したつもりになるが、やや混乱して再現が難しいかも。

これが『例解 和文英訳教本』(小倉弘著、プレイス)p112では
have to =仕方なく~しなければならない(一人称)、「周囲の状況が課す義務」(二、三人称)
must=自発的に~しなければならない(一人称)、「話者が課す義務」(二、三人称)
という関係を、縦軸にhave to とmust、横軸に一人称、二、三人称とするマトリクスで説明してあり、mustとhave toが人称別にまとめてスッキリと頭に入りやすい。

『翻訳力錬成テキストブック』は英和訳の翻訳教科書で長文の中の一部の理解の仕方としての文法説明。解説は概念的、抽象的で、具体的には例文を見てほしいという感じ。『例解 和文英訳教本』は和文英訳なので、この日本語をどう訳すのかというスタンスによる文法説明。解説は具体的、図解的な印象を受ける。例文は短く、少ない。ただし『例解 絵和文英訳教本』のスッキリしたマトリクスを見ると、小倉弘さんがいかに優れた英語教師であるかがよくわかる。

両者を読むと英和、和英からのアプローチの相乗効果か、理解がグッと深まる感じがする。