金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

悩ましい三角関係(2016年3月)

ソースクライアントのSA社(大手金融機関)は私以外に翻訳会社を使っている。そして僕はそのうちの一社がどこかを知っている(Hb社)。Hb社がたまたま僕の顧客で、私は以前同社を通じてSA社の案件を訳したことがあるからだ。そして僕がそのことを知っていることをSA社の担当者は知っている。しかしHb社はそのことを知らない。

それぞれと守秘義務を結んでいるけれども、ある時Hb社とあることがあってやむを得ずSA社の担当者にそのことを打ち明けたのが2年半ぐらい前だった。それは以下のいきさつによる。

SA社から1件頼まれている時に、「鈴木さん、今これをお願いしているから、さすがにもう1件、XX日まで・・・無理ですよね」「スミマセン・・・」との電話を切って1時間後にHb社からその同じ案件についての翻訳の打診があった。つまり僕に断られたSA社の担当者がHb社に依頼したわけだ。

翻訳会社なのでHb社のレートは半分だし、そもそもSA社を断っているので当然断った。その時はそれで終わったと思っていたら、翌日にHb社からメール。「品質管理をやってくれないか?」で、これを受けた。で思い切ってSA社に電話していきさつを話した上で、「この案件、僕が品質管理しますから」。「助かった。よろしくお願いします!!」。SA社の担当者からすれば、Hb社に翻訳を依頼したものの、その後ろで僕が品質管理をすることを知っていればやや安心というわけ(光栄なことです)。

SA社担当者の方はむろん私に「この件はHb社に翻訳を依頼したので品質管理をよろしく」とは言ってきません。Hb社が品質管理を僕に依頼するかどうかはわからないし、さらにHbからの仕事を断る権利は僕にあることを担当者はわかっている。ただし、僕がHb社からSA社の案件を品質管理で仕事を受けた時は「これ、僕がやっていますから」と伝えるようになった。

SA社がすべての案件を僕に依頼するわけはないので、こういうことは十分にあり得るのだが、基本的にHb社からのSA社案件の翻訳は受けないことにしていた。同じことをやってレートが半分ではまったく割が合わないからだ。品質管理は受けて、そのときだけ「伝える」。

なぜ今日こんなことを書いているかと言うと、昨日似たようなことがあったから。

SA社のX案件を手がけている最中にHb社からSA社のY案件について翻訳の打診があった。実はこれは(お金以外の理由で)つきあおうかと思ったのだが、「週末まで」は物理的に無理と思って断った。いちいち断った話までSA社にはしない。

ところが2時間後にSA社からY案件で翻訳をしてくれないかとの打診の電話があったのだ。Hb社では僕に断られた後、結局翻訳者が見つからずにSA社が見切ったのだろう。そこでSA社担当者に「実は2時間前にその案件お断りしたところで・・・」。結局どうなったかというと、その案件の元々の締め切りを3日延ばしてもらってY案件も僕が訳すことに。

「量をかせぐ方法はないでしょうかねえ」と担当者。SA社から見ると僕に頼んでも量がさばけないので翻訳会社に注文するのだが、Hb社に頼んでも結局そのケツを僕が拭くことになっているわけだ。僕も、大本がSA社だからともかく、できればHb社に不義理をするような形で仕事を続けるのもどうか、と思っている。やっぱりこれは不健全な関係だと思うから。僕の翻訳が遅いことも原因の一つであることは間違いないのだが、仕事ははしょれないので量には限界がある。・・・

いろいろな可能性を話した後、「あるとすれば・・・私が下訳を使うことかもしれません」「当社も検討してみます・・・」で電話を切った。

いろいろな意味で悩ましい半日だった。