金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

『冠詞のトリセツ』の勉強の仕方についてのご提案

小倉弘著『冠詞のトリセツ』かんき出版 (2020)、昨年の8月15日から毎日5分ずつ取り組んで12月22日に一通り終わった。現在2巡目だが、冠詞に関して私がこれまでに学習したあらゆる参考書や解説本の中でダントツのベスト本である本書を今後も2回、3回、4回とボロボロになるまで復習します。

本書の良さは、我々が慣習とか口調とか、慣用語だから、とつい丸暗記してしまう冠詞の使い方(無冠詞か、不定冠詞か、定冠詞かを、極力言葉(理屈)で説明しようとしている点にあると思う。

本書が前提としている「3大条件」(出発点)は以下の通り。
(1)名詞には可算(像)名詞と不可算(像)名詞がある。
・可算(像)名詞とは、イメージしやすい、境界線が明確な名詞
・不可算(像)名詞とは、イメージしにくい、境界線が不明確な名詞。
*著者は、名詞を「数えられる(可算)か、数えられない(不可算)か」ではなく、「はっきりとイメージしやすい(可像)か、イメージしにくい(不可像)か」で分けて考えた方がわかりやすいと主張する。
(2)aとtheのちがい
・a:いくつかあるうちの一つ
・the:自動的に唯一に決まる
(3)総称(一般論)とそれ以外の区別
・無冠詞の複数形:総称「~というもの」
  cf. the +複数形:特定の集団
・無冠詞の不可算(像)名詞:総称「~というもの」
  cf. some+不可算(像)名詞
(同書「あとがき」p270より)

以上を出発点にして、具体的な文を比較検討しながら極力「なぜか?」を追求しようとしているのだ。

それと、本書は単文の英語と日本語の組み合わせ(冠詞部分が穴あきになっている)になっていて、プロのネイティブスピーカーのチェックが入った英文と、和田さんの簡潔で優れた日本文の組み合わせになっている。つまり英文解釈、英作文の本としても非常に優れていると思います。

(本書の勉強法に関する一提案)

今、2巡目をしている僕が実感する、冠詞を身に着けるための本書のベストの勉強法は以下のとおりである(私は現在下の(2)を毎日5分取り組んでいる)

(1)1巡目は普通に取り組む。ただし、単に流し読みするのでなく、紙と鉛筆を用意して、短文を書き写しながら(  )に入れるべき冠詞を(選択肢の記号ではなく)書き込みながら回答し、その後解説を見ながら自己添削する。翌日同じ問題にもう一度取り組んで(ただし、時間節約のために口頭で行う。一分もかからない)次に進む。このやり方で最後まで終わらせる(私の経験では、1日あたり毎日5分かけると、1日あたりで見開きの2ページ取り組め、1巡目がおよそ4か月で終わる)。

(2)2巡目は、各問題の日本語を読んで、自分で英作文してから自己添削する。我々が冠詞に悩むのは、「英語を書いたり、話したりするとき」だ。だから、与えられた日本語に対する英語を考えるときに冠詞を意識せざるを得ない、この本は冠詞の本なのだから、そういうキモの問題しかない。しかも、与えられる日本語はかなり基本的な、英作文にしやすいものばかり。英訳するときに悩むポイントの多くは冠詞になっているはずだ。そうして自分で云々うなって英作文をノートに書き、解説を見ながら自己添削する。

大事なことは、まずは自分で英作文をするということだ。日本語と(  )、選択肢を与えられてそこに適切な冠詞を入れるのと、最初から英語を考えるのでは頭の鍛えられ方が違う。

ダンゼンお勧めする。

(余談)世の中に参考書、問題集の類はくさるほどあるが、それぞれの本を、どういう順番で(どのページから、あるいは1回目は~2回目は~)、何を使って(紙と鉛筆とか)、どれくらいのペースで(1日何分ぐらいをかけて、何ページ分を)、どう読んでいくか(自己採点するのか、ただ読むのか、何を書き写すのか、写さなくてよいのか)に関する提案が書かれている本を僕は見たことがない。なぜだろう?僕は不思議でしようがない。もしかすると、その理由の一端は、利用者ないし学習者としてその本に全部取り組んだ編集者がいないからではないか?もしいれば、「それを本の前書きに入れましょう」と著者に提案するはずだからだ。