金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「生成AIで誰でも高収入」は眉唾――語られない前提と限界(2025年7月2日)

生成AIは、「とてつもない効率化をもたらし、時給何万円、何十万円の仕事を一瞬で生み出す」といった宣伝文句とともに語られることが多い。だが、それは本当に現実を正確に反映しているのだろうか。

現在、私は20世紀初頭の英語論文を生成AIを活用して翻訳している。こうした作業は、AIがなければそもそも着手をためらうような難物だ。そういう意味で、「本来は数カ月から数年かかっていた作業が、数時間〜数日で完了する」という効率化の実感は確かにある。

より身近な例として、私が4000字ほどの日本語原稿にまとめた考えを、英米人にも趣旨が十分伝わるような知的な英語にしようとする場合、丸一日では終わらないのが普通だ。しかも、それをネイティブスピーカーにチェックしてもらえば、さらに1〜2日を要することになる。生成AIを使えば、自分自身によるチェックも含めて2〜3時間で済むと見込める。これはまさに、革命的な効率化である。

ただし、「人間のチェックが不可欠である」という前提を踏まえると、「あらゆる作業が数分で済む」「誰でもAIで時給10万円」といった言説には疑問が残る。仮に、時給1,500円の作業をAIで百倍のスピードで終えられたとして、単純計算では時給15万円となる。しかし、それは効率化を可能にしたノウハウや設計の価値によるものであって、作業そのものの「スピード」の価値とは言いがたい。

実際、私の翻訳(日英)体験で言えば、確かに生成AIに英訳をさせると、その初期出力は一瞬で得られる。しかし、その英文が日本語原文の内容を正確に反映しているかどうかを確認し、必要な修正を加えるには、相応の時間と労力がかかる。言い換えれば、英訳作業はむしろそこからが本番なのだ。生成AIを使った場合、翻訳全体にかかる時間は確かに短縮されるが、AIを使わなかった場合の1/10や1/20になるようなことは、まずありえない。そもそも、AIが出力した英文を評価し、適切に修正できるだけの英語力がなければ、効率化どころか、作業そのものが成り立たないのである。

要するに、「AIによる高効率=高時給」といった主張には、前提や条件を明確にせずに飛びつくべきではない。

AIによる生産性向上を「単なる時間短縮効果」として語ることには、大きな違和感がある。むしろ、「作業プロセスはどう変わったか」「品質保証にどれだけ時間がかかるか」「それを効果的に使いこなすには、どれだけの知識や経験が必要か」といった現実的な指標を総合的に評価しなければ、それは絵に描いた餅にすぎず、誇大広告のそしりを免れない。