金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

最高の誉め言葉:Q社の10周年記念パーティーにて

一昨日、お世話になっているQ社の10周年記念パーティーでのこと(実は日付を1カ月間違えて先月の同じ日にパーティー会場に行ってしまった先である)。翻訳チーム設立当初から(つまり、7年前から)加わっていただいてるYさん(金融翻訳者として20年のベテラン)から声をかけられた。

「この翻訳チームのレベル、とてつもなく高いですよ」

我々の金融翻訳チームは当初から、翻訳者と校閲者が毎月少しずつ入れ替わるシステムを採用している(多くの翻訳者がその月は担当分の翻訳と別の翻訳者による翻訳の校閲に当たる。しかも校閲者は校閲が終わるといったん翻訳者に差し戻し、元の翻訳者との間で内容を合意した上で原稿が校閲者から編集担当である僕に回り、僕は疑問があると翻訳者と校閲者との間で質疑応答を行ったり、場合によってはソースクライアントに質問したりして、他の記事(だいたい毎月10ぐらいの記事が載る)との表現や内容の調節をした上で、日本語だけを見てくれる最終チェック担当者のNさんに原稿が回る。編集者と最終チェック者との間でもファイルの差し戻しと質疑応答が行われて完成に向かうというプロセスだ。なお、全員の翻訳ファイル校閲ファイル(各人のコメント付き)、編集ファイル(コメント付き)、完成ファイルは共有フォルダで全員がどのファイルも見ることができる。

だから、Yさんも毎月誰か(毎月変わる)の校閲を受けて、校閲内容や質疑応答で他の翻訳者のレベルも十分把握されているわけだ(超忙しい方なので、本当に人手が足らない時だけ校閲をお願いしている)。

「他社から頼まれて翻訳を見る機会が時折あるんですが、とても見ていられません。経歴を拝見すると有名大学を出て経験も積んでいるはずなんですがねぇ。というか、このチームのレベルが圧倒的に高いんだと思います」「ありがとうございます!」

な~んて話をしていたら、横で聞いていたTさんが

「私、時たま最終ファイル(完成直前のDTP済みファイル)へのNさんのコメントと鈴木さんの回答を拝見するのですが、すんごい勉強になります」と割って入られた。

Tさんは金融のバックグラウンドはないのだが、著名な経営誌のレギュラー翻訳者として何年も活躍されている。確か3年ぐらい前に翻訳者に欠員が生じた時に、「Tさん、お願い!金融ガチガチのものはあまりアサインしませんし、もしそうなったらフォローしますから!!」と平身低頭して参加してもらったのだ。最終チェックご担当のNさんも金融バックグラウンドはないが翻訳者としてのキャリアが長く、他の仕事でも校閲をなさっているのを僕が知っていた。翻訳者の講演会でなさるご質問が秀逸で、日本語の感覚がとても鋭いことを知っていたので、こちらも5年ほど前から「日本語の最終チェック」専門でお願いしている。僕は僕なりに全力を尽くして編集後のファイルを提出するのですが、毎回20カ所ぐらい、かなり手厳しい修正案とコメントが返ってくる。Tさんはそれをご覧になって感動したとおっしゃったわけだ。

「いや~、僕もいつも恥ずかしくてさ。本当にNさん、毎回針の筵だよ~。いつも勉強させてもらってます」
「どうも」といつもながらのクールなお返事。
Tさんは「「本当に鈴木さんがブログでお書きになっていた通りの、理想的な環境でのお仕事だと思います!!」とおっしゃってくださった。(下の「チームで翻訳/校正というプロジェクトから学んだこと(2021年1月)」をご参照ください)。

7年前に始めた時に、「どうぞ鈴木さんの思う通りに、お好きなようにやってください。すべてお任せします」と言ってほぼ100%任せていただいた。もちろん、喧嘩もしたし(原因は僕です(恥))、いったいどうなることかとヒヤヒヤするさせる(?)局面もありましたが、このプロジェクトもかれこれ7年目に突入。

「この翻訳チームのレベル、とてつもなく高いですよ」。同社10年目のパーティーに参加して、個人的には最高にうれしかったYさんの一言と、皆さんとのやりとりでした。

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ChatGPTの活用:翻訳者の英語読解力を英作文力に転換する(2024年3月22日)

ChatGPT(生成AI)を使って行う日英翻訳の成果物の質(「英作文力」と言ってもいい)は、翻訳者のオフハンド(辞書や参考書なしでの)英文読解力に(感覚的には、「加速度的に」)比例する。これは、ChatGPTをある程度使った人なら誰でも実感することだと思う。

一般にオフハンドでの英作文力は英文読解力にかなり劣る。ところがChatGPTを使うことによって、その英文作成能力を、あたかも「はしご」あるいは「てこ」を使ったかのように、翻訳者の英語の読解力に一気に近づけることができるのだ。なぜならば、英文を作るのはあくまでも英語ネイティブの仕事であって、(日本人である)翻訳者に求められるのは、そこに出力された英文の質を判断して、より優れた表現を選ぶことになるからだ。そのときに鍵となるのは、翻訳者の英作文力ではなくて、英文読解力、あるいは英文解釈力なのである。

だから、生成AIを使った日英翻訳の成果物の質を高めるには、英文読解力を高める努力が必要だと思う。そのためには大量に読みつつ、紙と鉛筆を使った英文解釈の勉強がベスト。デジタルな時代だからこそアナログな努力が重要なのだ、との思いを強くしている。

もっとも僕のこの意見は経験に基づく仮説にすぎない。とはいえ検証もできるのではないかな(もうどなたかがやっておられるかも)。

以上を踏まえ、僕の英文読解力(TOEICのReadingが満点/4年前ですけど)も踏まえてあえて断言しておこう。

今や僕は自分が理解できる日本文(特に経済・金融分野および一般企業のIR関連文書)であれば、ChatGPTを用いるだけで、原文の意図を正しく反映した、並みの米国人以上に自然で読みやすい英文を、業界随一のS社よりも安く、しかも早く仕上げる自信がある。見積り依頼は直接メッセージを!(アドレスは、tbest.backupとgmailドメイン名)
(お断り:ネタでも冗談でもありません。まじめな営業用文章です。頼むで)

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"AI"(機械)翻訳について考えるときの三つの前提

4月14日のウェビナー(ウェブによるセミナー)。僕の担当部分の話す内容がほぼ固まりました。基本的な前提は以下の通りです。

① 「AI(機械)が翻訳した出力」と「AIの出力した翻訳を利用して人間が完成させた成果物」を区別する。
② 外国語→母語の翻訳と母語→外国語の翻訳を区別する。
③「対話型の AI(機械)翻訳」と「非対話型の AI(機械)翻訳」を区別する。

の三つです。

よろしくお願いいたします。

https://tsuhon12.peatix.com/?fbclid=IwAR1L-lszEKmbbDPg4eejNYrHtQ3p-iJirKWa7X4018MEdBNXu5h2YMuW-8k

「AI・機械翻訳」の意味/ The Ambiguity of "AI & Machine Translation"(2024年3月19日)

「AI・機械翻訳」という言葉を見たり、聞いたり、読んだりするとき、それが

(1)「AI・機械が出力した翻訳」という意味なのか、

(2)「『AI・機械が出力した翻訳』」を利用した翻訳という意味なのかがはっきりしないで使われている印象を受ける。

4月のウェブセミナーの準備をしていて、自分がブログに書いたものを読み直すと、僕は主に(2)の意味で使っていたようだが、正直言って、最近まであまり意識していなかったことに気づいた。

言うまでもなく(1)は機械が出力したもので、(2)機械の出力した翻訳を利用して人間が完成させた作品だ。この点をよく意識したいと思う。

When we come across the phrase "AI & Machine Translation," there is often ambiguity about whether it refers to:

  1. Translations produced directly by AI and machines, or
  2. Human-generated translations that leverage translations produced by AI and machines.

In the process of preparing for an April webinar and reviewing my previous blog posts, I realized that my use of the term had primarily aligned with the second interpretation. I must admit, however, this was a detail I had not fully considered until recently.

It is evident that the first refers to output directly generated by machines, while the second pertains to translations refined or completed by humans, leveraging initial outputs produced by AI and machines. Moving forward, I intend to be more conscious of this distinction.

 

血圧測定器のこと

新しい血圧測定器が来たんですけどね、妻が言うんですよ。
「お父さん、そんなに朝晩血圧測んなくてもいいんじゃない?」
「いやいや、朝と晩にちゃんと記録してその日の活動を調整するのはとても大事なんだよ」
「ほんとかしら~」
「ホントホント。だってさ、朝血圧が高かったら食事とかを考えて昼間も血流を意識して運動するようになるよ」
「うそだね。お父さんはきっと血圧が高いと『ま、そういうこともあるさ。気にしない気にしない』って言うのよ」
「そうかなあ」
「そうよ、そして血圧が下がると『よっしゃヨッシャ、今日はお酒をタップリ飲んで、間食もし放題!!』てなる」
「・・・んなこたね~だろ」とちょっとムッとする俺様である。
「朝晩3回ずつちゃんと平均とって、結構気を使ってんだ僕は」
「そう、それがお父さんの『やってる感』なのね。そうやって『僕は健康に気を使ってます』ってアピールしてんだからね。そうして自分に都合よ~く測定結果を解釈するんだよねぇ」
「そうかなあ、そんなことないと思うがなあ」
「いや、絶対そう。あたしお父さんとの付き合いも、もうずいぶん長いのよね」
「そうだなあ」。この4月で結婚38年になるんです、実は。
「あたしが『お父さん、そんなことしてるとこうなるわよ。気をつけなさい』って言って間違ったことある?」
「な、ないかも」「でしょう?」
「・・・じゃあ、どうすりゃいいんだ・・・」
「だ~から、あたしの言うことを黙って聞いてりゃいいの。わかった?」
「じゃ血圧測定器使わなくていいのかね」
「買ったんでしょ?使いなさいな。もったいないじゃん・・・でも気にしすぎちゃだめよ」
「は~い」
な~んのために血圧測定器を買ったんだろう?とつい思った今日の午後であった。
おしまい。

プロンプトの二の矢、三の矢(naturally translatable Englishを巡る生成AIとのやり取りの例)(2024年3月18日)

最初のプロンプト:The US economy is only one recession away from deflation.をnaturally translatable Englishに書き換えよ。
(注:この英語の出所は小倉弘著『英語難構文のトリセツ』(かんき出版)p285)

(1)ChatGPT4
The US economy is very close to experiencing deflation; it would only take one more recession to get there.

(鈴木の評価)わかりやすい。これを直訳するとわかりやすい日本語になる。

(2)Claude3

Here's a natural way to translate that sentence into English:

"The US economy is just one recession away from deflation."

プロンプト②
あなたは僕の最初のプロンプトを誤解している。僕が知りたいのは単なるonlyの書き換えではなくて、この文の全体で何を言いたいかだ。書き直せ。

Claude3の回答②

ごめんなさい、プロンプトの意図を誤解していました。この文全体で言いたいことは:

"The US economy is in a precarious state where just one more economic recession could potentially trigger a period of deflation."

つまり、米国経済が非常にデリケートな状況にあり、もう一つの景気後退が起これば、デフレ(物価下落)局面に陥る可能性が高いということを指摘しています。現在の経済状況がデフレに陥るリスクが高まっているという警告を示しているわけです。

プロンプト③:precariousをもう少しわかりやすい英語に書き換えよ。

Claude3の回答③

おっしゃる通りです。もう少しわかりやすい表現に直しますと:

"The US economy is in a fragile state where just one more economic recession could potentially trigger a period of deflation."

fragileの方がprecariousよりも一般的で、米国経済が非常にもろい状態にあり、景気後退がもう一度起これば、デフレに陥るリスクが高いということがより明確に伝わると思います。

(鈴木の評価と感想)こういうやり取りになったのは、Claude3からすると最初のプロンプトが曖昧すぎた(僕が尋ねたいポイントを絞り切れていなかった)からだろう。

あくまでも僕の印象ですが、いわゆる生成AI翻訳(生成AIを用いた翻訳)に否定的な方は、今の例におけるClaude3の最初の回答だけを見て「使えない」と断じている節がある。生成AIは「対話」によって問題解決を図っていくのだから、プロンプトの「二の矢、三の矢・・・」を放って自分の求めている回答に近づくまで論点を絞っていくことができるはずだ。そこが「自動翻訳機(アプリ)」と根本的に異なる点だと思う。

なお、『英語難構文のトリセツ』p285に出ていたこの英文の日本語訳は次の通り。
アメリカ経済はほんの一回不況になるだけでデフレに陥る」(同書p287)。

なお、naturally translatable Englishについては次の記事を参照のこと。

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ご参考まで。生成AIのご利用は自己責任でお願いします(2024年3月18日現在)

ChatGPTは昨年11月から現在までに進歩したか?:ChatGPTの自己評価と私の見立て/ 使い方に対する反応(2024年3月17日)

昨年11月に翻訳ツールとしてのChatGPTについての感想を書いた。あれから4カ月がたち、この間ChatGPT側に何らかの進化があったのかを尋ねるとともに、そもそも昨年11月時点で私が考えた翻訳ツールとしてのChatGPTがどの程度正鵠を射ていたのかを尋ねることにした。

鈴木のプロンプト:
以下は昨年11月に私があなたと行った問答とそれに対する私の感想である。ChatGPT(つまりあなた)の能力に対する評価についてお尋ねしたい。現段階では当時と比べて何かの能力が変わった、あるいは向上した箇所はあるか?あれば日本語で示せ。

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ChatGPTの回答
立哉さんのお尋ねに対して、私の能力についての自己評価としては、2023年11月以降も、技術的なアップデートやデータの拡充を通じて、さまざまな言語でのパフォーマンスが徐々に向上しています。特に、多言語の理解と生成能力において、以下のような進展があります:

言語モデルの精度向上:レーニングデータの量と質の向上、アルゴリズムの改善により、言語モデルの全般的な理解力と生成能力が向上しています。これは、日本語を含む多くの言語での性能に寄与しています。

コンテキスト理解の改善:より複雑な文脈やニュアンスを捉える能力が強化されています。これにより、特に日本語のような文脈依存の強い言語での自然な表現生成が向上している可能性があります。

エラー訂正とフィードバックの取り込み:ユーザーからのフィードバックやエラー訂正を学習データに組み込むことで、特定の誤りや不自然な表現を修正することができます。これにより、日本語の生成能力が特に向上している可能性があります。

ただし、英語と日本語を含む全ての言語での能力は依然として不均一であり、日本語のような複雑な言語特有のニュアンスや文化的背景を完全に理解し反映することには限界があることを理解しておいてください。

具体的な使い方として、立哉さんが以前に述べたように、翻訳プロセスにおける私の活用方法については、依然として有効です。英語と日本語の理解・生成能力の差を活かしながら、それぞれの強みを利用することで、より精度の高い翻訳が可能になります。例えば、翻訳の粗案を作成した後、最終的な日本語のニュアンスや文化的な適切さを考慮して手直しを行う、というプロセスは引き続き有効なアプローチでしょう。

私の能力を最大限に活用するためには、英語と日本語の両方で質問を行い、それぞれの言語での回答を求めることが有効です。特に複雑な翻訳作業では、原文の意図を正確に理解するために私を活用し、最終的な表現の調整は人間の翻訳者が行うことで、高品質な翻訳が実現可能です。

鈴木のプロンプト:
英語対日本語に絞った場合、昨年11月時点での私のあなたに対する評価は正しいか?誤りがあるとすればどこか?

ChatGPTの回答
立哉さんが昨年11月にお持ちだった私に対する評価は、大きく分けて以下の点について考えられます:

英語の読解力と日本語の表現力の比較:英語の読解力においては、私が高いパフォーマンスを発揮するとの評価は依然として正しいです。英語はトレーニングデータが豊富であり、多様な文脈や表現を理解する能力が高いためです。一方で、日本語の表現力については、改善が進んでいるものの、ネイティブレベルの自然さやニュアンスを完全に捉えることは依然として挑戦的な側面があります。そのため、この評価も基本的には正しいと言えます。

コミュニケーションの方向性によるパフォーマンスの変動:英語での質問と回答を基本とすることで高いパフォーマンスが得られるという観察も、一般的には正確です。これは、英語データの量と質が他言語に比べて豊富であるため、より精度の高い理解と生成が可能になるからです。日本語でのコミュニケーションにも随時改善が見られますが、英語と比較すると、特に生成面での挑戦が残ります。

翻訳の利用方法:立哉さんが提案された翻訳プロセスに関する評価も、引き続き有効なアプローチと言えます。特に、英文の理解については私に依存し、最終的な日本語表現については人間の翻訳者が行うことで、高品質な翻訳が可能です。このアプローチは、私の英語と日本語における能力の差を最大限活用することを意味しています。

誤りというよりは、立哉さんの評価は当時の状況を踏まえた上で非常に的確な分析であり、その基本的な枠組みは現在も有効です。ただし、私の能力は継続的にアップデートされているため、日本語の生成能力や理解力に関する改善が進んでいます。したがって、時とともに私のパフォーマンスの変化を定期的に評価し直すことが重要です。(ここまで)

感想:4月のウェブセミナーを1か月後に控えてチェックした私の見立てはおおむね正しかった模様。進捗を慎重に見極めつつ、あくまでも自己責任でChatGPTを利用しつづけようと思った次第