金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

発売初日に1万4000歩(丸善丸の内本店に感激し、その勢いで書店3軒をはしごする)

昨日は『ベンチャーキャピタル全史』の発売日。

編集ご担当のKさんから、丸善の丸の内本店で書店での展開が始まったとうかがっていたので仕事を午前中に片付け、昨日午後に店頭を訪ねてみた。

お、写真で拝見した通りだ。大きく展開しているんだーと感激し、しばらく感慨に耽った後店内を散策して入り口に来ると何人もの人が動いている。元々あった写真を外して本を動かしている。「あれあれ、もう移動しちゃうの?」とちょっと不安になるがそれは僕の誤解。ちょうどこの特大ポスターと入れ替えるところだった。

書店スタッフの皆さんの様子を写真撮影している方がいらしたのでもしやと思い「・・・もしかして、新潮社さんですか?」とお声がけしたらビンゴ。「営業部のSです」と名刺を頂戴した。

店頭の一番目立つ箇所に大きく展開するには何カ月もかけた書店への働きかけが必要とKさんから伺っていた。「営業担当者が本当によく頑張ってくれたんですよ」との言葉を思い出し改めて心からお礼の言葉を申し上げた。書店スタッフの皆さんにも挨拶。そして記念撮影。Sさんと二人でも取りました。Kさんにもすぐに連絡。驚き、喜んでくださいました。

こういう場に居合わせられたのは実に幸運。「幸先いいぞ~!!」とマジで思った。

その勢いで、その後八重洲ブックセンター丸善日本橋店へと歩いて移動し平積みでの陳列を確認。ポスターも飾ってくれていました。それぞれの店舗を担当されている新潮社営業部の皆さんの熱意とそれに応えて場所をつくってくださった店舗スタッフの方々のご理解とご配慮に深く感激した。帰宅したら歩数計が1万4000歩を超えていました。自分の訳した本の発売初日に書店をはしごしたのは初めてです。

帰宅した後は家族全員で近所の寿司屋へ。私の独立20周年と『ベンチャーキャピタル全史』発売を祝ってもらいました。

忘れられない、よい1日となりました。

関係者の皆様に心から感謝します。ありがとうございました。

 

【第9回】チャーリーの金融英語 – スタグフレーション

日本会議通訳者協会様の連載です。第9回のお題は「スタグフレーション」。

一昨日9月13日に発表された米国の消費者物価指数(CPI)は前月比で0.1%上昇して、エコノミストの事前予想を上回りました。特に変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアCPIが前月比で0.6%、前年同月比で6.3%上昇と、7月に記録した同5.9%を上回りました。その結果、S&P500種株価指数は2020年6月以来の下落率となる4.3%安、ハイテク株中心でより金利動向の影響を受けやすいナスダック総合株価指数は5.2%安、ダウ平均は3.9%、下げ幅にして1,276ドルの大幅安となりました(14日はやや反発)。

本稿の執筆は先月25日ですが、こうした展開の中で改めて「スタグフレーション入りか?」という不安が昨日の報道でも指摘されていました。

好むと好まざると好まざるとにかかわらず(好む人はいないでしょうが)、この言葉の意味を改めて振り返るよい機会かと思います。先日ご紹介した「テクニカル・リセッション」とも合わせお読みいただければ理解も深まると思います。

よろしくお願いします。

 

www.japan-interpreters.org

 

(H+H)MかH+(H+M)か:共通関係(翻訳ストレッチの教材から)

ある程度の上級者(TOEIC850以上ぐらい?)になると、経験的には知っているが何となくあやふや、という文の要素の共通関係があって、その部分を権威ある書籍(辞書でも文法書でも参考書でも)で明言されるとホッとしたりする。今回はその例。

(以下引用)
useful plants and animals(訳に立つ植物や動物)のusefulはplantsとanimalsの双方にかかると考えられる。・・・(中略)・・・ところが語順が変わってplants and animals useful……となると、これは(H+H)Mと解して「有用な植物や動物」とするか、H(H+M)と介して「植物や有用な動物」にするかが大きな問題になる。英語は語句の平行的な対応関係を重んずる言語であるから、この場合は、

➀まず(H+H)Mという均衡の取れた形で考え、
②この解釈で意味の通らぬ場合に限ってH+(H+M)の解釈をとるべきである。

(例文)Biological science must have begun with observation of plants and animals useful to man.(訳:生物学は、人間に役立つ植物や動物の観察からはじまったにちがいない)

(参考) Her eyes were constantly straying past him to the open window and the lawn beyond. (訳:彼女の定まらぬ視線は、たえず彼の所を過ぎて、開いた窓へ、さらにそのむこうの芝生へと向かっていた)(引用ここまで)
伊藤和夫著『英文解釈教室 改訂版』(研究社)pp274-275)

なお、柴田耕太郎さんは、「英文解釈教室ノート31」で、

「(1) (plants and animals) useful to man
(2) (plants) and (animals useful to man)
どちらをとるかは、文脈・常識・事実依拠」と指摘しておられますが、これは上級者向けの指導。僕は伊藤先生のステップを踏んだ方がよいと思います。

www.kenkyusha.co.jp

ちなみに、この共通関係については、多田正行著『思考訓練の場としての英文解釈(1)』(育文社)では第1章「因数分解型STRUCTURE」全体を使い、極めて難解な英文を用いてこれでもかこれでもかと出てくるので、興味のある方はどうぞ。

"as" のいろいろ:辞書よりも文法書よりも役に立つ受験参考書(翻訳ストレッチの教材から)

文法書は、さまざまな切り口の文法項目(五文型とか関係代名詞とか、品詞とか・・・)によって章立てされているので、一つの語の役割が一冊の中にばらばらに記述される。

一方、辞書は一つの語の意味や役割がすべて同じ語の元に記述されているが、何しろ(その辞書の編纂者が考えつく)すべてなので、その中の濃淡や意味合いを区別しにくい。

そうした時に最も混乱しがちなのが機能語で、その代表格がasだと思う。

僕の持っている参考書類の中で、asについて最も包括的に説明してくれているのが(僕が重要だと思う順番に紹介すると)、

① 中原道喜著『新英文読解法』(現在の版元は金子書房)「"as"の用法」pp76~79
 「”as”は二文字の小さな単語だが、活用度は最も高い。ときには品詞や用法の区別を誤りやすい場合もあり、また英語のプロをもとまどわせる曲者ぶりを示すこともある。そういった注意すべき場合を含め、必要・十分な用法を次にまとめておく」(同書p76)
*各種文法書にバラバラに書かれているasに関する説明を「前置詞」「関係代名詞」「接続詞」に分類し、例文を挙げながら丁寧に説明してくれるので、何度も読めば定着しやすいと思う。

②小倉弘著『難構文のトリセツ』(かんき出版)「3-7 (just))as~, so...」「3-8 対比のas」「3-9 名詞限定のas」「3-10 C(=形容詞)as SV」pp62-69。
「asという語は品詞だけで4つあり、接続詞としての使い方だけでも10個近くありますが、原義は"同じ"(all so)ということです(alsoも同じ語源)。品詞の種分けと判別法は次の通りです。
(1)前置詞:asの直後が名詞化形容詞のみ
(2)副詞:as~as...<原級の一つ目のas>
(3)接続詞:asの直後はSV~(原則的に完全文)
(4)関係代名詞:as節内で不完全分(名詞が欠落している)」
(同署p62)
*文章の読み分け方を懇切丁寧に説明してくれます。非常にわかりやすいけれども4節に別れているので包括感はやや欠けるかも。

③ 柴田耕太郎著『翻訳力錬成テキストブック』(日外アソシエーツ)[課題2-8 研究] 「as it is のいろいろ」pp171~172
「様態の接続詞as=in the waythatまたはin the way in which と書き換えるとわかりやすい・・・itが漠然とした状況下、具体的に指す物があるかで、訳が変わる」(同書p171)
*ポイントをas it isの訳に絞って7つの文例につき(したがってここで説明されるasは様態の接続詞)、まず訳例を示した上で、asは文章のどこにかかるのか。itは何を指すのか、漠然とした状況かを説明してくれる。

④中原道喜著『誤訳の構造』(金子書房)「例文80解説」pp111~112。
「as it is は文脈によってさまざまな意味関係を表す。主な場合を例示:」(同書p111)

*③と同じ例文を使ったas it isに関する中原さんの説明、というより『翻訳力錬成テキストブック』が『誤訳の構造』を出所として同じ例文について説明している、とうのが正確。


僕が辞書や文法書よりも受験参考書の方が参考になることが多いと思うのは、以上のような説明を読んだとき。いずれも書店で手にとって読んでからご判断を。

 

 

敵対的TOBのBeforeとAfter:昨日の「ジョブチューン」大戸屋対一流料理人(7名)対決を見て

昨日のジョブチューン、大戸屋対一流料理人(7名)のリベンジ・マッチは、テレビを見ている我々とは違う意味で、大戸屋社内ではかなり真剣かつ深刻に注目されていた回だったと思う。

なぜか?1回目が、敵対的TOBによるM&A騒ぎの「前」だったからだ。

つまり昨日の対戦は、1回目とは経営陣が代わり、調理方式が、従来の各店舗調理方式から、セントラルキッチンからの配送方式に(同社の社内の人々から見れば)革命的に変わったことによって、大戸屋の味が「上がったのか?」「落ちたのか?」を試されるという、言わば買収後の経営陣の威信がかかった対決だったのである。

当時の社長を含め、M&Aに反対していた前経営陣の主な理由は「大戸屋の良き伝統が失われるから」というものだった。端的に言えば、セントラルキッチン方式によって「お客様にお出しする商品の質が落ちる」点にあった。この旧経営陣の主張に対し、セントラルキッチンの方が無駄が少なく、しかも「質も落ちない」というのが買収側の主張だったと思う。

企画の内容は、大戸屋の従業員が一押しするメニューの上位10品目を、超一流シェフ7名が採点して4名以上が「合格」の旗を揚げれば「合格」となる、という判りやすい内容だ。

番組内の最初のテロップが「1回目の合格数を絶対超えて見せる!」だった。で、1回目の成績は?10品目中8品目が「合格」だったのである。

僕は1回目の対戦を見ていないが、1回目の時が前経営陣だったことは番組の中で確認できた。1回目に「8品目合格」を喜ぶ(当時の)スタッフの中に当時の社長が映っていたからだ。1回目には社長自身が出演していたのである。

で、今回の結果はどうだったか?7品目合格。つまり前回よりも合格数が少なかったのだ。しかも従業員ダンゼン押しの第3位のメニュー、10年以上のロングセラーだという絶対自信の商品「梅おろしチキンかつ定食 830円」が「全員不合格=0点」による失格だった。

これは現経営陣とスタッフにとってかなりショッキングな内容だったはずだ。とりわけこの商品の開発と販促に当たってきたスタッフは買収前から同社に勤め、M&Aにも反対していた人も少なくなかったかもしれない。「だから(反対だといっただろう!)」と悔しさ半面、「ざまあみろ」と思った社内の人もいたのではないかな。

収録3日後に代表スタッフが社長に報告に行ったシーンを放映したけれども、かなり気まずい雰囲気に見えた。そりゃそうだろう。あれは「前経営陣の時よりも成績が下がりました」という報告に他ならなかったからだ。

実は、僕はあのTOB騒ぎがあった時、大戸屋株が2日連続でストップ高買い気配となった2日目の寄り付きで同社株を売り、結構儲けた(単位株ですよ、念のため)。その後2度ほど大戸屋に出向き、味とサービスが落ちていると思ったので、「売りは正解だった」と確信していた。大戸屋の大ファンだったウチの家族は全員がパフォーマンスの悪化に失望し、それ以降は行っていない。

でも昨日の大戸屋の「(前回よりも)負け」放送を見て印象が変わった。

この「リベンジマッチ」企画をよくぞ現経営陣が受けた、と逆に感心したのである。

ジャッジの後には審査員のコメントがある。その厳しいコメントを真摯に受け止めて、分析して商品や製造プロセスを改善しようという姿勢と気概が番組中に悔しがる(泣いている人もいた)スタッフの皆さんにもあったし、結果を報告した気まずい雰囲気の中で社長が述べた一言二言や表情に見えたのは光明である。

「負けっぷりがよかった」とでも言うべきか。

株価を見て再参入を考えてみようかしら(あ、株価戻ってきてたのね。僕の売値には届いていないけど)。

最後に:企業が提供している商品の質が上がった、下がったというのは評価が非常に難しいと思うのだが、昨日の番組のように、世間で超一流と呼ばれている本当のプロフェッショナルが(恐らく)忖度なしで、しかも公衆の面前で評価した内容って、証券アナリストの皆さんにも、今の売り上げや利益の伸びやその傾向だけでない、「長期的な評価」の観点から参考になったのではないかと思った。

いい番組でした。わが家は今晩、実に久しぶりに行くことにした次第。

「今晩行ってきての感想」

家族全員が昨日の放送で完全合格(7名の審査員全員が合格を出した)「国産牛のすき鍋定食」を食べた。

配膳されてすぐに妻が「あ、糸こんにゃくが入ってる!」と叫んだ。
「え、それがどうした?」
「昨日、審査員のお一人が『あえて課題を申し上げれば、糸こんにゃくのようなものが入っているともっといい』と言ってたのよ。すぐに対応したのね」

これだけでも印象度かなりアップした。店員の皆さんの対応も明るく清々しかったし言うことなし。もちろん、すき焼きはとても美味しかったです(関西の方はちょっと濃いめに感じるかも)。会計の時に「テレビの影響ありました?」と尋ねたら店長らしきお兄さんが「おかげさまで、本日は・・・」とはにかむように答えてくれた。

2年半ぶりにポイントカードももらいました。

めでたし、めでたし。

www.tbs.co.jp

 

 

奥井潔先生の授業を追体験できるYoutube

このビデオから、奥井先生の「授業」が追体験できる。

まずは示された英文を自分で紙に訳してから聞くと良さがじわ~っとわかるはず。

特に、harlots for whom it was a point of honor to give good value for money以下の説明とたとえ、文構造の説明、そして、一通りの説明を終わり、改めて訳文を読み上げた後の(雑談という名の)「解釈」こそが奥井さんの真骨頂。今も絶賛に値すると思います。言うまでもなく翻訳の勉強になる。

このYoutuve、休日にかまけて色々探しているうちに昨日見つけた。主催者であるMichiさん、相当データを持っておられますね。僕と同じ(1960年生まれ)か、少しお若いぐらいだろうか。この講義を選んだ見識の高さに感服、そして公開してくれたことに感謝します。ありがとうございました!!

 

www.youtube.com

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英文を通じて教養を身につけ、学習意欲を高められる本:『英文読解のナビゲーター』(翻訳ストレッチの教材から)

奥井潔著『英文読解のナビゲーター』(研究社)の本領は、語句、文法、構文解説、訳文の後(または合間)に発揮される。たとえば第10章のテーマは「独創性とは?」で、英語の原文の前に、著者の「前説」がある。

(引用ここから)
この本の「はじめに」の中で、私は行間に隠れている意味にも時には立ち入って考えてみようと申しました。そのためにも一行一行の文構造をもつかめないようではそれは論外のことだとも付言しました。次の英文は行間に隠れている意味を読まねばならない好例であります。(引用ここまで)(奥井潔著『英文読解のナビゲーター』(研究社)p87)

そして、次の英文が続く。

I claim no originality for them, or even for the words in which I have put them((my thouthts). I am like a tramp who has rigged himself up as best he could with a pair of trousers from a charitable farmer’s wife, a coat off a scarecrow, odd boots out of a dustbin, and a hat that he has found in the road. They are just shreds and patches, but he has fitted himself in to them pretty comfortably and, uncomely as they may be, he finds that they suit him well enough. When he passes a gentleman in a smart blue suit, a new hat and well-polished shoes, he thinks he looks very grand, but he is not so sure that in that neat and respectable attire he would be nearly so much at his ease as in his own rags and tatters.

www.onlinereadfreebooks.com

 

その後、一文ごとに語句や構文の解説が続いて[全訳]で本章が終わるわけだが、[全訳]の前に奥井さんによる次のような解説が入る。

(引用ここから)
自分の思想も文体も何ら独創性などないと謙遜して、自分の思想も文章も全部、他人からのもらいもの、借り物であることを乞食にたとえ、その乞食の服装にことよせて説明してるこの文章が、実は自分の思想と文体の独創性を言外に誇示している文章であることが読み取れたでしょうか。文章の要は、この乞食(筆者である作家)が、すべてもらい物であるズボンに、上着に、靴に、帽子に自分の身体をぴったりと合わせて、いかにも乞食らしく着こなしてしまった、そしてこれが自分にはいちばんお似合いだと信じていると言い切っていることにあります。もらいものをすべて自分のものとなしおわせて、この服装が自分にはいちばんよい、これ以外の服装は考えられない、と豪語していることにあります。

こと思想・文芸の世界においては真の独創性などは皆無に等しいと言ってもよいのです。天の下に新しい言葉などは見出しようはなく、いかなる思想も既に、先人によって考えられ表現されていると言ってよい。私たちはただ乞食のように先人たちから思想や言葉を借り、もらうことができるだけなのですが、しかしその数多くの借り物を、自分の身体に合わせて自分らしく着こなして使うことはできる。自分らしい言葉の組合せや思想の組合せを作り出してこれを表現することはできましょう。もはやそれらがもらいもの、借り物とは見えなくなるほどの、いかにも自分らしい組合わせを作り出すことはできましょう。思想・文芸の世界では、これをなしとげることをoriginalityと呼んでいるのです。……これは借り物だ、ここはもらいものだとはっきりわかるような下手な着方や表現の仕方を恐らく模倣とか剽窃とか呼んでいるのであります。

これはサマセット・モームの文章ですが、この作家が自分の文体と思想の独自性に対して持っている自負心が一見謙遜を装っているこの文章の行間に隠れているのであります。(引用ここまで)(奥井潔著『英文読解のナビゲーター』(研究社)p91)

英文解釈の参考書で、本文の言わんとするところをここまでかみ砕いてくれる本は他にないと思います。奥井さんが「サマセット・モームの文章」と書いてくれたので検索したところ、この文章はThe Summing Up(要約すると)と第66章の最終段落であることがわかりました(日本語訳は本書、または行方昭夫訳『サミング・アップ』(岩波文庫)p298を参照ください)。

本書にはすべての英文に、短いもので数行、長いもので1ページ以上におよぶこの手の解説がついている。英文を読みながらこういう教養を学べるのがこの本の独創というか特徴だと思う。僕が駿台予備校に通っていた頃、奥井さんの授業に必ず入る「解説」(僕らは「雑談」と呼んでいた)が聞きたくてカセットレコーダーを持ち込んで授業に参加し、雑談部分だけを録音して編集したものです。

伊藤和夫さん的な構文分析はありません。恐らく英文も奥井さんが一流を言われる大学の入試問題から個人的に気に入ったもの、学生(10代後半)の人生に役に立ちそうだと判断した文章を選び、内容からテーマごとに分類・編集した本と推測します。出所も恐らく調べていない。この文章をモームだと断言したのは、奥井さんがこの文章をたまたまご存知だったから(実際、駿台予備校ではモームの作品を中心とする「choice」というテキストを長年担当されていました)だと思われる。

したがって、本書はこれ1冊を読み上げたからこういう文法事項が身についたとか、こういう構文の理解が進む、という体系的な組立には鳴っていない。ただ「英語を通して教養を身につけよう」とか「英語を深く学ぼう!」という気を起こさせてくれる良書だと思います。

往年の奥井ファンには、当時の教室を彷彿とさせる、痺れるような本です。よろしければどうぞ。

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tbest.hatenablog.com

(後記)英語講師のMichiさんという方がYoutubeで奥井先生の講演を公開しておられます。僕が受講したころより10年以上後の声ですが、ググッと想い出しますね。第5回まであるうち、第3回のテーマはWork とLabor。Michiさんのご指摘通り、本書の最終章の内容を紹介しています。それは仕事の内容/質ではなく、それに携わる人の気持ちで決まる、と奥井さんは言う。
PlayerとWorkerとLaborer。
WorkerとLaborerにとってのLeisureの意味合いについての語り。
我々にとっての仕事とは何かを改めて考えさせてくれる名講義です(他の回もどうぞ)。

www.youtube.com