金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

敵対的TOBのBeforeとAfter:昨日の「ジョブチューン」大戸屋対一流料理人(7名)対決を見て

昨日のジョブチューン、大戸屋対一流料理人(7名)のリベンジ・マッチは、テレビを見ている我々とは違う意味で、大戸屋社内ではかなり真剣かつ深刻に注目されていた回だったと思う。

なぜか?1回目が、敵対的TOBによるM&A騒ぎの「前」だったからだ。

つまり昨日の対戦は、1回目とは経営陣が代わり、調理方式が、従来の各店舗調理方式から、セントラルキッチンからの配送方式に(同社の社内の人々から見れば)革命的に変わったことによって、大戸屋の味が「上がったのか?」「落ちたのか?」を試されるという、言わば買収後の経営陣の威信がかかった対決だったのである。

当時の社長を含め、M&Aに反対していた前経営陣の主な理由は「大戸屋の良き伝統が失われるから」というものだった。端的に言えば、セントラルキッチン方式によって「お客様にお出しする商品の質が落ちる」点にあった。この旧経営陣の主張に対し、セントラルキッチンの方が無駄が少なく、しかも「質も落ちない」というのが買収側の主張だったと思う。

企画の内容は、大戸屋の従業員が一押しするメニューの上位10品目を、超一流シェフ7名が採点して4名以上が「合格」の旗を揚げれば「合格」となる、という判りやすい内容だ。

番組内の最初のテロップが「1回目の合格数を絶対超えて見せる!」だった。で、1回目の成績は?10品目中8品目が「合格」だったのである。

僕は1回目の対戦を見ていないが、1回目の時が前経営陣だったことは番組の中で確認できた。1回目に「8品目合格」を喜ぶ(当時の)スタッフの中に当時の社長が映っていたからだ。1回目には社長自身が出演していたのである。

で、今回の結果はどうだったか?7品目合格。つまり前回よりも合格数が少なかったのだ。しかも従業員ダンゼン押しの第3位のメニュー、10年以上のロングセラーだという絶対自信の商品「梅おろしチキンかつ定食 830円」が「全員不合格=0点」による失格だった。

これは現経営陣とスタッフにとってかなりショッキングな内容だったはずだ。とりわけこの商品の開発と販促に当たってきたスタッフは買収前から同社に勤め、M&Aにも反対していた人も少なくなかったかもしれない。「だから(反対だといっただろう!)」と悔しさ半面、「ざまあみろ」と思った社内の人もいたのではないかな。

収録3日後に代表スタッフが社長に報告に行ったシーンを放映したけれども、かなり気まずい雰囲気に見えた。そりゃそうだろう。あれは「前経営陣の時よりも成績が下がりました」という報告に他ならなかったからだ。

実は、僕はあのTOB騒ぎがあった時、大戸屋株が2日連続でストップ高買い気配となった2日目の寄り付きで同社株を売り、結構儲けた(単位株ですよ、念のため)。その後2度ほど大戸屋に出向き、味とサービスが落ちていると思ったので、「売りは正解だった」と確信していた。大戸屋の大ファンだったウチの家族は全員がパフォーマンスの悪化に失望し、それ以降は行っていない。

でも昨日の大戸屋の「(前回よりも)負け」放送を見て印象が変わった。

この「リベンジマッチ」企画をよくぞ現経営陣が受けた、と逆に感心したのである。

ジャッジの後には審査員のコメントがある。その厳しいコメントを真摯に受け止めて、分析して商品や製造プロセスを改善しようという姿勢と気概が番組中に悔しがる(泣いている人もいた)スタッフの皆さんにもあったし、結果を報告した気まずい雰囲気の中で社長が述べた一言二言や表情に見えたのは光明である。

「負けっぷりがよかった」とでも言うべきか。

株価を見て再参入を考えてみようかしら(あ、株価戻ってきてたのね。僕の売値には届いていないけど)。

最後に:企業が提供している商品の質が上がった、下がったというのは評価が非常に難しいと思うのだが、昨日の番組のように、世間で超一流と呼ばれている本当のプロフェッショナルが(恐らく)忖度なしで、しかも公衆の面前で評価した内容って、証券アナリストの皆さんにも、今の売り上げや利益の伸びやその傾向だけでない、「長期的な評価」の観点から参考になったのではないかと思った。

いい番組でした。わが家は今晩、実に久しぶりに行くことにした次第。

「今晩行ってきての感想」

家族全員が昨日の放送で完全合格(7名の審査員全員が合格を出した)「国産牛のすき鍋定食」を食べた。

配膳されてすぐに妻が「あ、糸こんにゃくが入ってる!」と叫んだ。
「え、それがどうした?」
「昨日、審査員のお一人が『あえて課題を申し上げれば、糸こんにゃくのようなものが入っているともっといい』と言ってたのよ。すぐに対応したのね」

これだけでも印象度かなりアップした。店員の皆さんの対応も明るく清々しかったし言うことなし。もちろん、すき焼きはとても美味しかったです(関西の方はちょっと濃いめに感じるかも)。会計の時に「テレビの影響ありました?」と尋ねたら店長らしきお兄さんが「おかげさまで、本日は・・・」とはにかむように答えてくれた。

2年半ぶりにポイントカードももらいました。

めでたし、めでたし。

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