金融翻訳者の日記

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

『新英文読解法』は社会人の英語の学び直し、または翻訳の基礎固めに格好の書

2年ぐらい前に買ってあった『新英文読解法』(中原道喜著、金子書房)を4月から3日に1度、15分ずつ学び始めた。翻訳ストレッチの一貫。すべて手書きで訳文を書いてから、著者の解説、解答を見て赤ペンで添削すると言う作業を地道に進めている。以下は2022年5月4日時点でp40(Part 1の半分弱)まで来た時点での感想(ちなみに僕が持っているのは、版権が動く前の、聖文新社版)。

本書、受験生向きには「帯に短したすきに長し」だと思う。

例えばPart1は、順に(1)主語、(2)目的語、(3)形式主語/形式目的語・・・等々文法項目に従って単文を訳していく形式になっているが、学習者はそれぞれの文法事項を「すでに学んだもの」として解説が始まっている。構文そのものを説明している訳でもなく、講義の内容は語句説明中心で構文の説明はあまりないので一見不親切に感じる。受験生にはそこが物足りないように思えるかもしれない。

その一方でさすが中原先生、翻訳が素晴らしい。翻訳を学ぶという観点で本書(のPart1)を見直すと本書の「見え方」が変わってくるのだ。。

たとえば:

(原文)The greatest mistake you can make in life is to be continually fearing you will make one. (本書p38 「代名詞・承前語句」)という英文がある。

この英文自体は簡単だ。一読して意味がわかる受験生も多いだろう。大学受験生の場合、まずは意味がわかれば、あとは「意味の分かる日本語」になっていればよいのだから、それでサラッと次の問題に移るのが勉強効率からも正しい方法だと思う。

しかしこれを翻訳の勉強として、「なるべく自然な日本語にしよう」とすると様相が若干異なってくる。中原先生の訳文はこうだ。

「人生において犯しうる最大の誤りは、誤りを犯しはしないかと絶えずびくびく恐れていることだ」(同書p39)

もう一つ。
(原文)Physical force has never subdued anyone: it is the conquest of the heart that makes conquest complete and final.  (本書p36 「強調構文」)
(訳文)腕力が人を制圧したためしはない。心を征服してこそ、征服は完全で決定的なものになる。(p37)

どうだろう。英語の理解が全く間違っているのは論外としても、まあまあ合っていればよい=これが受験生の勉強方法だが、大人の(あるいは翻訳者の)勉強方法は違うと思う。

まずは自分で日本語に訳す。それを上の模範解答と比べて「てにをは」、句読点に至るまで違う点をチェックする。そしてどうして自分の日本語訳と中原訳が異なるのかを考えることを通じて、英語の理解、自分の日本語について、語彙のクセ、語順のクセ、わかりやすさを比較するのだ。間違いチェックというよりも、差の理由を考えるのだ。こうすることで得られる学びは(特に時間制約のある社会人の場合は)かなり大きいのではないか。

というわけで、本書は英語のできる社会人向けには相当いい。僕が出版社なら本書を大学受験生用の棚ではなく、最近流行の(社会人を想定読者にした)社会人向けの「英語独習法」「読解力養成」「翻訳入門」をターゲットにしたマーケティングをすると思う。本書はそこにピタリと合っているという印象だ。マーケティング次第でいかようにでもヒットすると思うんだけどなあ。
(*私は金子書房さんの回し者ではありません。念のため)。

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