金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

出版翻訳者の皮算用(2014年3月12日)

書籍が一通り終わって大事なことを聞いていないことに気づく。即編集者に電話。「スミマセン、印税の基礎となる初版の部数は何部になるのでしょうか?」「あ、まだ決まってないんです。来週正式に決まります」(じぇじぇじぇじぇじぇ!)「で、だいたいどれくらいに?」「恐らく5000部に・・・」一応皮算用通りなのでほっとするが、初版だけで終わると実務翻訳に比べると何分の1かなのだ。

「初版だけで終わると」

なーんて生意気なことを書いたが、自慢じゃないが私がかつて訳した12冊の中で増刷になったのはわずか2冊である(本当に自慢じゃないね)。そのうち1冊目は巻末にユニクロの柳井さんへのインタビューが出ていたのでそれで売れたのだろうと言われている(そして2冊目は『ブレイクアウトネーションズ』です)。

まあエコノミー的には全く合わんのですが、本1冊訳すと得るものの方が多いので納得しているんだけどね。それと何かの間違いで売れちゃうかも!というスケベ心も当然あるし(これまで10年近くもスケベ心が空振りしてきたので鼻の下がかなり長くなっちゃったんすけど)。

今度の本の想定読者層は(私がこれまでに訳した本に比べると)かなり広い。出版社の方針は「細くても長く売れ続ける本」ということで、本書もこれに沿った良書だと思う。解説は知り合いの経営学者にお願いし素晴らしい文章を書いていただいた。この手の謝礼は文字通り薄謝(って払うのは僕じゃないんだけど)なのだが、編集者と挨拶に行った時におそるおそるその話を切り出したら「鈴木君の本だったら金いらないよ」と言ってくれたのには涙が出た。「金はいらんから本が出たら焼肉おごってくれ」。喜んで!!

そういった意味から多くの経営者、会社員に読んでもらいたいと思っているし、読んでもらえれば価値をわかってもらえると思うのだが、売れるかなあ。

……あ、定価聞いてなかった!

(後記)
『世界でいちばん大切にしたい会社』(翔泳社)翻訳直後に書いた文章です。実は当時、私は印税が初版分を除くと実売方式であることを知らなかった(もちろん出版契約にはちゃんと書いてありましたが、恥ずかしながらまともに読んでいませんでした)。数カ月後に増刷が決まったのですが、いくら待ってもお金が入ってこないので「増刷分の印税が入って来ないのはどうしてですか?」と電話をして恥をかいたのでした(それ以前の出版社は刷り部数でくれていた)。

解説も30年近くお付き合いいただいている野田稔さんが謝礼なしで引き受けてくださり(しかも出版直後に50冊注文いただいたとのことで、翔泳社さんはそのお気持ちに打たれ「謝礼代わり」でお贈りしたと聞いています)、本書があったおかげでこの4年後に『ティール組織』が「何かの間違いで(!?)」大ヒットしたので、僕にとっては思い出深い本です。(2021年3月13日記)