金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

AI時代に「達人」を目指すには?ー今井むつみさんの考察

ChatGPTと出会ってそろそろ2年。初めて使ったときの驚きは今でも鮮明だが、時間が経つにつれ、ある印象がだんだんと強まってきた。翻訳をさせるにせよ、それをチェックするせよ、あるいは何かを要約させるにせよ、確かに正確で無難なのだが、トンガッテない(面白くない)のだ。

このモヤモヤ感を見事に言語化してくれたのが一昨日、日本経済新聞の経済教室面「Analysis」に掲載された今井むつみさん(『言語の本質』著者、慶応大学教授)の「AI時代に学ぶ「達人の技」」だ。彼女の主張は、私の疑問に明確な答えを与えてくれた。同時に、「生成AIは無難過ぎて面白くない」という自分の直感が間違い(外れ)ではなかったことを知って少しホッとした。

記事のポイントは冒頭にまとまっている。

○一流の達人の独創は臨機応変な逸脱から
○逸脱を生み出す直観はAIで再現できず
○達人を目指して自ら学ぶ能力こそ必要に

生成AIは正確かつ速い。しかし、その本質は膨大なデータの解析に基づく“平均値”に過ぎず、規範から外れる独創性が欠けている。この点で、AIは“普通の熟達者”と言える。

これに対して、「規範のギリギリの線」から逸脱することこそが人の独創なのであって、これを「一流の達人」と名付け、AI時代にあって我々個人が目指すべきはその達人なのだという。

(以下引用)
「AI時代を生き抜くのに必要なのは、AIを使う能力自体ではない。オンリーワンの達人になるという目標に向かって、自分でどこまでも学び続けることができる能力だ。私はこれを「学力(=学ぶ力)」と呼ぶ」(引用ここまで)

要するに今井先生は、「紙と鉛筆を握りしめて脳髄を絞れ」と仰っているわけ。

さすが。感服しました。できれば全部およみになることをお勧めします(下記は有料記事です)。

www.nikkei.com