大学生の試験答案を毎日少しずつ採点しながら講評を書いている(これだけで十数時間コースになっております)。
最終問題を授業の感想として100点のうち5点を配したので、皆さん何か書いてくれます。それを読んでいて分かったのは、大学生がいかに産業(実務)翻訳の世界を知らないか、ということだ。いや、もっと正確に言えば、産業翻訳者という職業の社会における認知度がいかに低いか、ということなのかもしれない。
「言われて見れば確かに自分が読む文章の多くが翻訳であることには思い至るのだが、(この職業の存在を)全く認識していなかった」という異口同音の感想が目につく。英語の得意なJ大の学生にしてですよ、皆さん。
学生に取ってみると、実務翻訳って
「どこの誰かは知らないけれど、誰もがみんな読んでいる」
存在なのだ。ここが翻訳学校に来る生徒さんとの大きな認識の違いではないだろうか。
「(私たちの日常を取り巻いている文章)を『実用的な文章』あるいは『実用テクスト』と呼ぶことにします。/実用テクストは、現実を生きる上で必要となる情報を私たちに伝えることが目的です。そしてこの目的が最終的に達せられさえするなら、どのような形で与えられようとかまいません。……(中略)……重要なポイントは、どんな形に訳すべきかを、テクスト自体は要求しないということです。
(山本史郎著『翻訳の授業ー東京大学最終講義』(朝日新書)p87)*/は改行。
僕は今回の講義でこの文章に対して異を唱えて、産業翻訳には実は分野によって多くのルールがあることを指摘した。そして提出課題十数題のうちの一問として次の問いを発した。
「講師の鈴木は、山本史郎さんの著書を引用し、山本さんの述べた産業翻訳(山本さんは「実用テキスト」と言っています)の特徴の1つに異論を唱えています。それはどういうことですか?簡潔に説明して下さい」
問題自体は講義さえ真面目に聞いていれば楽勝だ。ただ僕以外の講師は全員フィクション、ノンフィクション出版、字幕の方だったらしいので、新しい観点を吹き込めたのかな?という実感はある。
やってよかった。