金融翻訳者の日記

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

総称のtheについてのメモ(翻訳ストレッチの教材から)

総称のthe=「学問のthe」、「同じ情報のthe」という非常に興味深い視点が見つかったので、下に(8)として追加した(出所は小倉弘著『例解 和文英訳教本』(プレイス)pp198-200)(追記:2022年5月22日)。

文法書を単独で読んでいても気がつかないことでも、英文解釈の参考書で説明されている文法事項を出発点に文法書を改めて紐解くと、それだけを読んでいただけでは退屈だった(?)説明が活き活きと見えて勉強になることがある。今回がその例。


(1)総称のtheに関する『英文解釈考』の説明。以下の原文と訳文は佐々木高政著『新訂 英文解釈考』(金子書房)からの引用(①、②、③の算用数字は鈴木がつけた)。
(原文)I wonder if the mirror isn’t the world’s worst invention. The optimist looks into a mirror and becomes too optimistic, the pessimist too pessimistic. Thus mirrors increase conceit or destroy confidence. Far better is seeing ourselves as reflected in the expressions on the faces of the people we meet during the day. The way you look to others is apt to be nearer the truth than the way you may look to yourself. (同書p67)

① the mirror、the optimist、the pessimist、during the dayのtheをいずれも「もの」の中にある特定のものを指すのではなく、「全体」を「個」で代表させている、つまり「総称のthe」だと説明している。このtheについては他の文法書にも似たような説明が見つかる(後述。(2)以降を参照)。
② 一方、the truthの方は(以下引用)’truth(=that which is true)’という一般的、抽象的な概念をこの場合は’the reality’つまり’the true estimate of your personal worth’といったものに具象化するためtheをつけている。
③ その他の’the’は「限定」の働きをしているだけで取り立てて説明するまでもない。(ここまで)

以上を踏まえて示された訳文は以下の通り。
(訳文)鏡はこの世の最悪の発明品ではないかと思う。楽天家は鏡を覗き込んで楽天的になりすぎるし、悲観屋や悲観的になりすぎる。こうして鏡は自惚れをつのらせたり、自信をぶちこわしたりする。それより遥かにすぐれているのは、一日の間に出会う人々の顔の表情に写されたわが姿をながめることだ。自分がほかの人にどう映るかの方が、自分自身にはどうみえるのかしれない様子よりも、ややもすれば真実に近いのだ。(同書p68)

(2)『翻訳力錬成テキストブック』(柴田耕太郎著、日外アソシエーツ)からの引用。

このtheは総称用法で、「・・・なるもの」(と訳す。またはという意味)
(引用ここまで。同書p465)

せっかくなので、手持ちの文法書にも当たってみることにした。

(3)『英文法解説』76 「定冠詞の特殊用法」から。
特定のものを指す形式「the+普通名詞」を使って、実はその種族全体を代表する用法である。多少抽象性を帯びた表現で、その種族の用途・特殊・作用などの記述に多く使われる(江川泰一郎著『改訂新版(64版)英文法解説』(金子書房)p116)

(4)『改訂版 英文法総覧』11.3.1.6 定冠詞の用法―種類一般を表す場合(文章体)
種類・種族一般を総称的に表す場合で、総称の定冠詞(generic article)と呼ばれている。(参考)総称の表現としては①「定冠詞+単数形(e.g. The beaver builds dams)、②「不定冠詞+単数形」(e.g. a beaver builds dams)、③「無冠詞+複数形(または単数形[物質名詞・抽象名詞の場合])」があるが、真の意味で総称的と言えるのは①の表現法である。②の不定冠詞はanyの意味で(①より)口語的な、直接的な、実際的な言い方である。③の表現法は、その種族を指すというよりは、その成員のすべてを指しており、口語体では、通例、この表現法が用いられている(同署p136).

(5)同じ総称でもthe とaの比較
杉山忠一著『英文法詳解』(学研)には「種類全体のa とtheの相違点」として次のような記述がある。以下の(参考)には例文がほとんど示されていないので、説明だけではピンと来にくい。特に⑥の説明は面白いが、我々がこのような誤解をしてしまうことが多いのは、やはり読み手が悪いのだろうか。
(以下引用)
(参考)両者の使い分けは概略次の通りである。
① 主語のときはa, theどちらも用いるが、主語以外の場所ではaを用いることはまれ。
② 一般にaの方がtheよりも口語的でくだけた言い方えある。
③ 各種のタイプに属する人間(詩人・軍人などのように)、動植物名、文化的諸産物(機械的製品・楽器・度量衡の単位など)、宝石類などはtheを取る方が多い。
④ Mountain, lake, house, brotherなどは、もっぱらaをとる。
⑤ 比較の時はa が通例。<例> as busy as a bee, etc.
⑥ その他、前後関係からaでは「(ある)一つの意味に誤解されたり、theでは特定のものと誤解される恐れのあるときは、誤解の生じない方(または無冠詞の複数形)を用いる(ここまで。同書p49)。

(6)綿貫陽、マーク・ピーターセン共著『表現のための実践ロイヤル英文法』(旺文社)は

「176 B 定冠詞の拡大用法」として次の説明(以下引用)

The dolphin is a marine mammal.(イルカは海の哺乳動物です)
イルカという種族全体を一つの種類として樋揚、それについて述べている。a dolphinというよりも抽象的で、改まった形なので、理科の説明などに向いている。
(ここまで:同書p373)

以上、総称のtheについてメモ風に。

結局「種類/種族」「やや抽象的」「文語風」という総称のtheの特徴をもっとも簡潔に説明したのは、柴田さんの「・・・なるもの」という訳語(意味)ではないか。一つの切り口から複数の文法書を読み比べると学びは大きいと思う。
なお(1)の②の用法について説明した文法書は見つからなかった。

(7)総称のa(an)について『表現のための実践ロイヤル英文法』にあったので追加しておく。

175B 不定冠詞の拡大用法(5)
「不特定の1つ『1人』を想定して、それを代表例として取り上げ、「~というものはどれも」の意味で、その種類の持つ特有の性質を述べる。anyと似た意味を持つと思ってょい」として、the +単数名詞との違いとして、「<a[an]+単数名詞>は、漠然と1つを代表としてそれを一般論として述べる形なので、個体の説明には適しているが、その種族を一括して言う場合には用いない」と説明。「パンダは絶滅しかけている」を「A panda is becoming extinctとすることはなく、Pandas are becoming extinct.か、The pana is becoming extinct.とする」とまとめている(同書p369)。

(8)「学問のthe」「同じ情報のthe」という視点を追加する。
「学問のthe・・・世間で言う<総称のthe>について考えてみたい。そもそも<総称のthe>を用いるときは、学問的に物事を述べるときであるから、筆者はこれを<学問のthe>と呼びたい・・・(<学問のthe>を使う文章は)堅い文章体である。しかも・・・<発明品>か<動物>か<体の部分>である。

……

・・・さて(総称のtheの)用例にはもう一つある。例えば「天気予報」(the weather forecast)に着くtheである。・・・それは<どの天気予報でも情報は同じ>・・・<情報は唯一に決まる>というわけだ。・・・「新聞」や「辞書」の監視もthe になることが多い。(小倉弘著『例解 和文英訳教本』(プレイス)pp198-200)