(1)3年前の今日
「調べればすぐわかるから」と覚えることを放棄した頭脳に創造性は宿るのか。
(「『記憶術全史』 桑木野幸司著―― 面妖な技法の消長たどる」2018年12月22日付日本経済新聞読書欄)
(2)4年前の今日
ノムさんは出てきた料理に箸もつけず、ひたすら野球の話をした。変なおっさんだなあ、と思いながら耳を傾けていると、前年のシーズン終盤の試合で2死満塁のピンチを迎えた時の話になった。ここで自分はわざとフルカウントから、内角高めにボール球を放った。見逃されたら押し出しだが、相手打者の心理を考えたら、ボール球でも絶対に振ってくる。そう確信しての配球だった。空振り三振。
ノムさんはたまたまテレビでこの試合を見ていたらしい。「おまえ、あの場面、意識してボール球を放ったやろ」。このおっさん、えらいところから切り込んできたな、と思ったときにはもう、引かれ始めていたのかもしれない。ノムさんは配球の意図をお見通しだった。(中略)
ノムさん、ついに一言も「一緒に野球をやろう」とは言わんかったなあ――。
(2017年12月22日付日本経済新聞 江夏豊「私の履歴書」)
*「江夏の21球」の本人による回想は、25回(2017年12月26日)に出てきます。