金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

おひとりさま

先週半ばに「わたしをくいとめて」を夫婦で観に行った。

のんちゃんと林遣都が好きなので期待も大きかったし、橋本愛とも久々の共演で、始まってみたら中村倫也も出演(声だけだけど準主役級)。脇を片桐はいりが固めて僕が嫌いになるはずがないのだが・・・見終わった時には正直言って映画としてはどうかなあ、と思った。物語展開について行けず、何か、高校か大学の映画サークルの映画を見せられたような気がしてちょっとガッカリしたのだ。でも僕たち夫婦は、二人で観に行ったときには、仮にその映画が気に入らなくてもネガティブな感想を自分からは言い出さないことを不文律にしているので(相手が面白いと思っていたら気分が悪くなるので)、僕からは感想を言わずに様子を窺っていたところ、なななんと妻はプログラムを購入したのだ!「こ、これはかなり評価高いな」と発言には気をつけようと思いながら映画館を出ると、妻は僕の感想を見透かしたようにこう切り出した。

「あれ、たぶんお父さんは好きな展開じゃないと思うけど、あたしには最高だった。ああいう女性いるのよ・・・って言うか、女性ならだれにもああいう、つい周囲に合わせてしまって後悔してしまうような、迎合してしまった自分を後になってから罵倒したくなるような(大声で自分を罵倒するのがのんさんで、冷静にそれを受け止めるもう一人の自分=内面の声を演じたのが中村さん)鬱屈した要素があると思う。とても素晴らしい映画だったわ!!!」

な~るほど、そういう見方もあったか、と思いながら相方の話に耳を傾け、プログラムを読んでいるうちに、どうもかなり深い映画を見たのではないかと感じ始めた。つまりは見終わってしばらくしてから面白く感じ始めたという不思議な経験をした。

 当日は映画の後、丸の内のフランス料理店で遅い昼食を取ってのんびり帰りました。まだラッシュアワーにほど遠いガラガラの電車を見ながら、一人または二人で映画を見に行く、レストランで静かに酒を飲み、食事する、ホールに音楽を聴きに行く、公共交通機関を使う、といったことも立派な経済活動だなとつくづく思う。飲んで騒げば感染リスクが高まるのだろうからその部分を規制するのはいい。でも政治家の皆さんは経済活動を「飲み喰い騒ぐこと」と決めつけて、一律に時間で「自粛」(という名の同調圧力を利用した強制)を呼びかけているだけではないのか。自分たちの行動パターンを基準にしないでほしいなあ、とつくづく思った次第。

ここから見ようと思っている映画。

「ヤクザと家族」
「Awake」
ザ・ファブル
KCIA 南山の部長たち」

いずれも「いかにもお父さんが好きそうな映画よねえ」ということで、「おひとりさま」で観に行きます。60歳になったので安いし。

「座右の書」としてのご紹介に感謝

本日の日本経済新聞読書欄に『世界でいちばん大切にしたい会社』(ジョン・マッキー著、翔泳社)が紹介されていました。

(以下引用)
『世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー』はうちの役員連中にも薦めています。変化が激しく課題が噴出する現在、経営の神髄とは様々なステークホルダーの利益や幸福を的確に融合すること。本書はその道筋をナビゲートしてくれる。ホールフーズ・マーケットやイケアなど「意識の高さ」を成長につなげる国際優良企業の戦略を深掘りします。(ここまで)(「リーダーの本棚 ― 東京海上ホールディングス社長 小宮暁氏「利益」と「幸福」融合探る 本日付日本経済新聞読書欄)

*下の参照先は有料記事です。

www.nikkei.com


新聞で紹介していただくのはもちろん嬉しいのですが、今日は本書をお読みになった小宮さんの「座右の書」になっているのを知ったことの方が嬉しかったです。ご紹介に心から感謝します。

ありがとうございました。

 

*なお、『世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー』の翻訳がきっかけとなって『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』を翻訳することになりました。その辺の経緯については、下記をご参照ください。

本当の目利き ー 『ティール組織』(原著)を発見した人 - 金融翻訳者の日記

家事(3年前のFacebookから)

最近、Facebookの機能が追加されたらしく、「1年前、2年前、3年前・・・8年前(自分が登録した日までさかのぼれるのかな?)のこの日」の書き込みが見られるようになったらしい。以下は3年前、そう、ちょうど『ティール組織』が発売された頃の我が家で起きたつまらないエピソードなのだが、これを読むとちょうどこの頃、我が家における僕の役割に「夕食後の洗い上げ」が加わったことが分かる。ぎゃくに言うと夕食後の洗い上げはもう3年以上続いている(我が家にはディッシュウォッシャーがありません)。今は朝の「卵焼きつくり係」の役は解かれており、その代わりトイレとお風呂場の排水溝の掃除(ま、2~3週間に一度、強めの塩素系洗剤を注入して一定時間が経ってから水洗いするだけですが)が加わっている。

(以下はちょうど3年前の昨日の書き込み)
以下は実にくだらないお話しなので、忙しい方は読んではいけない。
このオレ様が必死に仕事をしていると部屋の後ろのドアが開いた。
「お父さん、大変なことに気がついちゃったの・・・」
いかにも不機嫌そうな声で振り返らずに答える私である。
「な、なんだ・・・」
「お豆腐を買ってくるのを忘れちゃったのよ」
「あ~そうですか」
「時間・・・ないよね?」
「そ、それは、この僕に『買ってこい』っていう意味だね?」
「あら、ばれちゃった?」
こういう時はわざとボケる相方である。
「・・・わ、わかったよ・・・で、風呂は誰かがやってくれるんだろうな?」
風呂洗いは、トイレ掃除、ゴミ出し、卵焼き焼き係、そして最近加わった夕食後の皿洗いと並ぶ私の「5大家事」の一つなのだ。
「も、もちろんよ。Hにやらせるわ」「よし」
「それとね・・・」
(え、まだある?)
「お買い物行ってくれたら、さっきリサイクルで売れたヘッドホン代金の1500円をお父さんにあげる」
「ヨッシャー、では行ってきます!!」「ありがとー」
1500円で簡単に転んだオレ様であった。
では行ってきます。
(ここまで)

幻のコマーシャル(2016年1月)

ちょっとした与太話。

今から25年前、1996年に某社ではコマーシャルにSM〇Pを使うことになった(僕は当時営業企画部門でこの件に間接的に関与していた)。当時の相場は確か、タクヤ君が年間1億円、つよし君が4000~5000万だったはず(出演料とは別の年間契約料)。
「あ~こんなに違うんだ」とは思ったが、ハッキリ言って当時ツヨシ君はまださほど売れていなかった。もっと言っちゃえばS〇APのお荷物的な存在で(ファンの方ごめんなさい。僕の抱いていた印象です)、それくらいの差は当然、いや、もっと大きくてもおかしくないと、少なくとも僕は思っていました。つよし君を使った理由は彼のキャラクターや魅力度ではなかった。人気グループSMA〇の中で一番お値段が安かったからです。

撮影は96年の年末、オンエアされたのは97年の初めだったはず(とハッキリ覚えているのは訳がある(後述))。

コマーシャルは宮〇信子さんとの共演で、居酒屋で二人が飲みながら証券について語るというなかなか洒落たコマーシャル。オンエアを見ると、ツヨシくんの優しい面の出た、とってもほんわかしたコマーシャルで、宮本さんとの雰囲気もよく出ていた。当時証券会社に対するイメージはまだ相当悪かったから、これはいいぞ~、「当社は大スターになる前のつよし君をつかんだ!安い買い物だ」と正直心の底から感動したのを覚えている(そうそう、当時のマネージャーが「いい子だから是非使ってくれ」という話もあったと思う。今考えればそれが5年前の〇MAP解散の時に話題にになったIさんだったんだね)。

ただしこのコマーシャルがオンエアされたのはわずか1カ月だった。

本格的にオンエアされ始め、新聞雑誌広告が派手に出始めて、いよいよだ~!と思った矢先に、いわゆる総会屋スキャンダルが勃発、当時の社長が逮捕される事態にまで発展することになる。

事件が表沙汰になったのは1997年3月。そこから先は全てパー。コマーシャルも、他にも何パターンか撮っていたのも、ポスターも、関連グッズもすべてパー。

今、ウィキペディア見たらつよし君主演の連ドラ「いい人」が始まったのが97年の4月。「全放送回の平均視聴率20%超え、初回の視聴率24.6%を記録」と書いてある。

そう、僕たちは本当に、ベストのタイミングで彼をゲットしていたんだ。そして自ら転んでつかみそこなった(もっとも転んでいたのは経営トップだったんだけどね)。

チームで翻訳/校正というプロジェクトから学んだこと(2021年1月)

A、B、C, Dさんの翻訳を僕が校閲し、Eさんの翻訳をBさんが、そしてFさんの翻訳をCさんが校閲し、最後にA~Fの校閲済み翻訳の最終チェックを僕がやる、というチーム制の翻訳プロジェクトがスタートして4年目に入った。

分野は金融。A~Fさんともかなりの経験を持った実力者揃いである。僕は普段は翻訳をせず、量が突然多くなったり、翻訳者の誰かが都合が悪くなった時にピンチヒッター的に翻訳をする(その場合はどなたかに校閲をお願いする)。現在は、僕の2回目の翻訳チェックが終わった後で、日本語だけを見て不自然な点を指摘してもらう仕事も他の方(この方もベテランの翻訳者)にお願いしている。

この3年間で感じたことを5つ書いておく。

1.結局(金融)翻訳者の実力の違いは、①事実とロジックをどこまで理解しているか。その上で②(原文の)書き手の不備(事実誤認やロジックの甘さ)をどこまでとがめられるか、③そこを補って日本の読者向けにどこまで筋の通った読みやすい日本語にできるか、に尽きる(ここが文芸翻訳との決定的な違いだと思う)。

2. 校閲者は翻訳者と同じぐらいの経験と知見のある人が当たった方が良い。少なくとも新人の仕事ではない。以前何かの講演会で「翻訳志望者ですが、最初はまずチェッカーから始めようと思っているのですが……」という趣旨の質問をいただき「それは順序が違うと思います」と答えたが、その結論は今も変わらない。

3.きちんと調べる、ミスをしないようにするというのはいわば翻訳者にとって当たり前のことだ。その翻訳者に対し「ミスをするな」「きちんと調べ物をせよ」という追加的なプレッシャーをかけることは余計な負荷をかけていることにならないか?人間はミスをする動物だ。しかしミスを防ぐために翻訳者が3回チェックするよりも、翻訳者が1回、校閲者が1回見直した方がはるかに仕上がりは良くなると思う(なお現在は、校閲担当者は、納品前に翻訳者にいったん修正案を見せて翻訳者の意見を求めるというプロセスを追加している)。

4.翻訳者は、自分の翻訳文に愛着とこだわりがある。一方校閲者は元々の翻訳文を自分がつくっていない分だけ、新しい視点や思い切った表現を思いつくことがある。あくまでも翻訳者の元の翻訳を尊重するという方針の下で事実を確認し、日本語を補正していくことは付加価値を生む。

そうだ、もう一つ大切なことがあった。

5.翻訳者と校閲者は適当に入れ替わった方がよい。翻訳者は校閲者の、そして校閲者は翻訳者の陥りやすい問題点を理解しやすいし、何といっても相手の立場や気持ちが分かる。これは大きいと思う。
以上。

翻訳業務もティール組織化できそう - 金融翻訳者の日記

翻訳の添削業(?)ー複数の翻訳者によるマンスリー・プロジェクトの現場から - 金融翻訳者の日記

うっかり口を滑らせた話

「愛ちゃん解説上手よね~」
日曜日の全日本卓球選手権シングルス女子決勝のテレビを見ながら妻がこう呟いた。
たしかに愛ちゃんの解説は、卓球のど素人にも大変分かりやすく、見ていても次の展開や選手心理を興味をもって想像できるほどの深い解説だった。その後にやった男子決勝での元全日本監督によるプロ向き解説が分かりずらかっただけにその思いを一層強くしたのだったが、その時僕は、思わず、
「そうだな~、原川愛ちゃん」
と答えてしまったのだ。
「え、福原でしょ」「そうそう、福原愛ちゃん」
で事なきを得た。
宇野浩二」のことを「宇能鴻一郎」(いずれも文学者:学生時代。多分亡き父は気づいたが知らん顔をしていた)、「原節子」と言うべきところをついうっかり「原悦子」と言ってしまった(いずれも俳優:小津安二郎の映画を見ていたときだったと思う。妻は気づかなかったはずだ)時の気まずさほどではなかったが、ほんの数秒、背筋がちょっと寒くなったのであった(なお、誤解のないよう付言しておくと、我が家では私の風呂上がり後に、朝録画しておいた「テレビ体操」をするのが日課になっている)。