金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

『ティール組織』でできた意外な(?)ご縁(2019年4月)

最近できたFBの二人の「お友だち」。

Aさん:私にお友だち申請してくれた理由が「『ティール組織にご興味がおありのようでしたので、親近感が湧いて・・・!』
僕「ティール組織の翻訳者です!よろしくお願いします」
Aさん:「あ、そうなんですね!失礼しました」

Bさん:「組織論について興味があります。・・・直接鈴木さんの経験などをお聞きするチャンスをいただけないでしょうか?」
僕「僕は経営者ではないし、組織論の専門家ではありません。ですから、もちろんお酒を飲みながらの雑談程度ならできますが、もしいわゆる「組織論」を僕から期待されていると、ご期待に添えないと思いますが・・・」

・・・と答えたところ・・・

Bさん「まだ、まだ、高校生なので僕も知識が未熟です・・・」

じぇじぇじぇじぇじぇじぇじぇじぇーーーーーー!!!

僕「あなた高校生か!!!じゃ、酒飲めないじゃん!!!・・・まさか、高校生の方とは思っていなかったので、夜にミーティングするのもどうかと思うし、かといって昼間に出る時間はないしで・・・。あなた、しかも学校あるでしょ?」

・・・てな感じで返事をいったん保留させてもらい、数日考えた末に次のように返事した。

「Bさん、「平日の昼間(正午~16時)に西葛西に来れるタイミングがあったら事前にお知らせ下さい。予定が合えば駅前のファミレスで1時間ぐらいならお会いできると思います。試験休み等の時にでも!」

ティール組織』の裾野が広がったというお話でした。感謝

リーディング:レポートではなく口頭試問で出版決定(2019年4月)

昨日は某社でこれから訳す書籍の打ち合わせ。リーディングを始めたものの他社の入札が入ったので急遽編集長との「口頭試問」(本の感想を編集長の前で述べ、質問に答える)で決まった案件だ。当初予定では3週間ほどもらえていて、仕事の合間に2週間で2回ほど読み、さあ、これから1週間かけてレポート書くぞと思った所に出版社から電話。「入札案件になったので明後日本社に来てもらえないか?」「いいですよ」と応えて電話を切ってからが大変だった。自分なりに考えをまとめてノートにメモ書きし、会社にいってみると会議室の向こう側に編集長と担当者のKさん、こちらに私が座って、「では第1章から行きましょう」と言われて「この章は、まず・・・」と私が説明して先方から質問が入る、学術論文の口頭試問てこんな感じではないかと思いながらの1時間だった。冷や汗が出ました。

考えてみると入札で勝ち取った案件を手がけるのも、出版前の書籍というのも初めて。とはいえ、原著の出版に合わせる必要はなく、むしろまだ原稿の変更があり得るので、「慎重に行きましょう」という編集者の方の姿勢には救われる。

このお話(リーディング)を頂戴した時から「僕は本業(金融翻訳)があるので、出版が決まっても時間がかかる」と言ってあったが、昨日のミーティング前の段階では、正直どこまで待っていただけるのかという一抹の不安もあった。だが、「この本の価値は時間で色あせないと思います」と言っていただけ、恐る恐る僕が言った「11月ぐらいでしょうか・・・」に対し「では12月にいったん訳了し、校了が2月でいかがでしょう?」と願ってもないご提案を受ける。もちろん受けました。責任感もグッと増す・・・

そういえば、担当本が昨年ノーベル平和賞をもらったので後回しになっていた(僕も「後回しにしてください!」と言っていた)本のゲラが今手元にある。

3カ月後れとは言え原稿を渡したのが昨年9月。ノーベル賞関連があったにしてもゲラがくるのが遅いなーと思っていたら先月電話が入る。「実は転職することになりました・・・」。遅れていた理由の一つはこれだったのか。転職先も出版社とのことで、彼には僕の遅れた原稿を辛抱強く待っていただいた恩もあるので、西葛西にお呼びしお別れ会をやりました・・・そのゲラ1カ月もらっているので何とかなるかしら・・・

実務翻訳はゴールデンウィーク明けぐらいまでそこそこ忙しい。あ、ビジネス雑誌の論文翻訳もあった(これがすこぶる面白いのだ)。これが来月半ば。そうそう、友人にして超一流通訳者のSM的なSM氏から頼まれた原稿を、いつまでも引き延ばしても仕方ないのでGW明けまでに・・・と言ってしまったのだった・・・。それが終わると来月のマンスリー・・・今回は耳石は落ちないだろうが、やはり目が回る直前ぐらいで何とか踏ん張っていきます。

(後記)「口頭試問・・・」の方が『ベンチャーキャピタル全史』です。予想通りというか何というか(?)予定より大幅に遅れて私の翻訳が終了。担当編集者の方とのやり取りがいよいよ本格的に始まる!となった2020年春からコロナのパンデミックが勃発。さまざまな予定が大混乱に陥りました。そして口頭試問の日から3年半後のいよいよこの9月に出版の運びとなったわけ。実に、実に感慨深いです。その間、本書の「価値」を信じて辛抱強く、じっくりと本書と私(?)に取り組んでいただいた編集者のKさんに心から感謝します(2022年9月3日記)。

こわもてオヤジの悲哀(2019年4月)

「おい、お父さんて怖いか?」

昨日の夕食時に聞いてみた。

「怖いね・・・でも慣れた」と大学生の息子。
「怖いわよ・・・あたし、今でも慣れないもん」と結婚30年超の妻。
「そうか~。僕は普通にしゃべっている(書いている)つもりなんだけどな~」
「お父さんと話してるとね、理詰めなのね。それってあたしからすると『責められている』ように響くのよ」
「そうか~」
「言ってることは正しくても、気持ちがついて行けないの。あなた、そんな調子で年下の女性に接しちゃダメよ。おびえられるだけだから。相手が何か間違ったこと言ってるな~と思ってもニコニコしてなさい。結論なんて変わらないから」
「そうか~」
「でも、慣れたけどね、僕は・・・あ、ただ、就活の面接練習の時にはちょっと付き合ってほしいな、お父さんには」
「いいよ、でもどうして?」
「お父さんとの練習が一番緊張するから」
「・・・」
「マジ、本番より緊張する」

サイボウズ社の株主総会に行ってきたぞ――!

土曜日(30日)の午後、13時~19時ぐらいまで、サイボウズ株式会社の株主総会関連イベント3つに出席した。以下、いくつか印象に残ったシーンを思いつくままに。

(お断り)以下はあくまでも私の感想であって、報告・要約ではありません。「」で括った引用文もあくまで私(鈴木立哉)にはこう聞こえた、私はこう解釈したという意味であって、聞き間違いや誤解があるかもしれません。つまり、ここに書かれている文章の責任の一切は私にあります。 

ティール組織がきっかけで知り合った方々からこの会社を知り、青野社長と嘉村賢州さん(『ティール組織』解説者)との対談等を読んだ上で、この会社はいい!と1月に株式を購入(単位株ですけど・・・)。株主総会とこのイベントを知ったのが2月。12月決算で1月に購入しているので、僕の名前は株主名簿に載っていないのだけれど、何と株主でなくても申し込みをすれば誰でも参加できるということで申し込みをする。「定員を超えたら抽選」とあったので、申込書の備考欄に「『ティール組織』の翻訳者です」と書いたことが効いたのかどうか無事当選した。

まずは青野社長。「利益よりも株価よりも理念を大切にします」なんて、大勢の株主を前にすると、よほど勇気があるか、自信がないとまず言えない。それを青野社長は、パネルを使って堂々と説明しておられた。その姿勢に素直に感動した。

嘉村賢州さん。「600ページの本の中身を15分で要約します」、といつもの通りわかりやすいお話。その後のパネルディスカッションでも組織論/著者のラルー氏の考え方をかみ砕いてご説明いただきました。ありがとうございます!

「私は会社の利益を『うんち』にたとえています。健康な身体で、健全な運動をしないとうんちは出ない。うんちが出ないのも困る。会社経営も同じだと」。これは、パネル・ディスカッション「チームワーク経営とティール組織」で伊那食品工業株式会社の塚越寛会長のご発言。「会社は(人間における食べ物と同じで)利益を出さないとつぶれるが利益を出すことが目的ではない」と断言したホールフーズ・マーケットのジョン・マッキー創業社長(拙訳書『世界でいちばん大切にしたい会社』)に通じると思った。

「ウチはレッドや~!」。同じくパネルディスカッションの岡田元全日本監督のご発言、というか叫び。この自嘲的なご発言は、そうでない姿を真剣に目指している真摯で謙虚な姿勢が垣間見えてとてもほほえましかった。ぐっとお近づき、というか改めてファンになりました。

「社長の周りにおつきがぞろぞろいる会社はダメな企業の印」。経済学者崔真淑さんのご指摘。青野社長は「たしかに~気をつけます」と頷いておられた。

株主総会も極めてオープン。事前申し込み制とは言え、株主でない人も参加できる(ただし株主総会で発言できるのは株主のみ。非株主はネットを通じて質問できる)。写真撮影、SNSでの報告オーケー(ただし動画はNG)。

僕の知っている「株主総会」のイメージは警備に囲まれ、前3列は社員株主が席を占める物々しい雰囲気の「儀式」だ。あらかじめ分厚い想定問答集を作り、不慮の発言に備えて議事進行を進める練習までする(リハーサルまである)という20年前のイメージだったのだが(実は私は社員株主として1回、想定問答集作りで1回、某証券会社の株主総会に関わっている)、サイボウズ社の株主総会のあまりの明るさと開放感に、「やはり時代が変わったからか~」と思っていた。ところが株主質問の中に、「私は某社で株主総会を担当していますが、今日は唖然としました」とおっしゃっていたので、あ~なるほどサイボウズが進んでいるんだと確信した。

株主総会の後は別室に移り、軽食を取りながら「株主のから騒ぎ」。大阪弁丸出しのM副社長が司会になって、あらかじめ選ばれた6人の株主さんたちと丁々発止のやり取り。「社長、株価については絶対ツイートしないでください!」「スミマセン!!」なーんて会話が飛び交っていた。

40分ほどでこのイベントが終わって解散。せっかく来たので社長に挨拶して帰ろうと思ったが、さすがに敷居は高いだろうと、念のため自分の名刺に挨拶文を書き、すべてのイベント終了後に後片付けをしているスタッフの方に名刺を見せて「青野社長にご挨拶できませんか?」と恐る恐る申し出ると、「あ~その辺にいらっしゃると思います・・・ほらそこ!」とあっさり教えてくれ、すぐに近づけたのでメモ付き名刺は要りませんでした。こういう社員の皆さんの仕草や参加者への発言に会社の”雰囲気”が出ていると思った。

社長に名刺を渡し、自己紹介したら「本当に素晴らしい本を訳してくださってありがとうございました」と、NHKの歌のお兄さんみたいな、実に腰の低い、優しい方で、ご挨拶に伺ったことを心から喜んでくれたように思え、嬉しかった。

その後に「株主のから騒ぎ」の司会をしていたY副社長にも名刺をお渡しする。「あ~あなたが・・・」と絶句され、「とっても意義深い株主総会と楽しいイベント、どうもありがとうございました!」と挨拶して帰りかけると、「鈴木さん・・・・Sさんご存じですか?」

「え、S・・・ああ、旧姓Sの翻訳者Iさんですね?」「はい、実は僕、前職の時の同期入社なんです。先日『ティール組織を訳したのは、私がよく知っている翻訳者なのよ』って教えてくださっていたので、いつかお会いできるかと楽しみにしていたんです」「それはそれは・・・」なーんて新しいご縁もできました。

このイベントに半日費やして本当に感動し、同社の株を買って良かったと思ったし、来年以降もずっとこのイベントに参加し続けようと思うほど、僕の「株主総会」観を完全にぶち破る、開放的で明るく、株主にも参加者にも優しく、しかも無駄のないイベントでした。・・・というわけで、私は本日(4月1日)に妻を説得してサイボウズの株を買ってもらい、来年からは夫婦で株主総会に出席する予定である。毎年ね。

最後に、出席者への案内から後片付けまで、裏方として奮闘されていた同社スタッフの皆様、土曜日出勤ご苦労様でした。株主総会という特殊な日に、出席者にフラストレーションを全く与えることなく「何も事故が起きなかった」状態を実現したご努力は並大抵のものではなかったと思います。心から感謝!ありがとうございました!!

 

 

https://cybozu.co.jp/events/symposium/

嫌われる理由(2019年3月12日)

「いいか~、このシーンを見ろ。安藤サクラがやや猫背になっているだろ」「ホントだね」
「ここに60歳という年齢をさりげなく出してるんだ。立ち居振る舞いの一つ一つに『60歳』が出てるだろ?しかもこの髪のネット。この年齢の女性は寝る前にこれをつけてたんだ。確かにおばあちゃんはそうだった」「なるほどー」
「そして、今度は松下奈緒だ。シャキッとしてるよな?どこからどう見ても安藤サクラの方がズッと老けて見えるだろ?」「確かに」
「ドラマの設定では松下奈緒安藤サクラの姉貴なんだぞ。なのにこの若さ!要潤もおんなじ。小学高学年の孫までいるのに、どうみても40代」「そうだねー」
「・・・ここに安藤サクラ松下奈緒の演技の差が出てるのさ。松下奈緒は所詮お飾りの美人女優。要潤はイケメン俳優。安藤サクラは演技で飯食ってんだ。格が違うんだよ~二人は」

・・・と話してたら、

「お父さん、それぜーんぶアタシが教えてあげたことじゃん(そうだったかなー)。あなたってホントに、そうやって他人からの聞きかじりを、さも自分が前から知っていたように、上から目線で話すのよねー。あなたそれお友だちにしたら嫌われるよ!」
「・・・」

初めて挨拶を返してもらって嬉しくなった話

毎週火曜日と金曜日の朝にボランティアで公園の掃除をしているおじいさんたちの横を通る。

その度に、お一人お一人に「おはようございます」「ご苦労様です」「いつもありがとうございます」と言い続けてきた。

最初のうちは返事をしてくれる方も、してくれない方もいらしたが、そのうち「おはよーす!」と元気よく、あるいは「おはようございます」と静かに返してくれる皆様がすこしずつ増えていきました。もちろん、いまでもお返事をいただけない方もいらっしゃいます(聞こえていないか、ご自分のことだと思ってないのかも)。

朝の散歩を習慣化してからずっと続けているのでもう2年、いや3年かな?

それが今朝。

私が散歩をしていたらお二人の方が休憩していた。その側を通りぎわ、いつもの通り「おはようございます」と言ったら、

「おはようございます。あったかくなりましたねえ」

と返された。

初めてです。

別に何かの見返りを期待していたわけではなく、心からの感謝のつもりで言い続けてきたのだけれど、それでも嬉しかった。

こういうコミュニケーションて大事だなあ、とマジ思いました。

今日も頑張ろう。

「リーディング」について(2019年3月2日)

*久しぶりにリーディングをやっています。

「翻訳することになったら翻訳者。翻訳しないことになったら2万円。期間は2週間」が当初のオファーでしたが、原書が300ページを超え、しかもコピペもマークもできない出版前PDF。「2週間は無理です」とまず答えた。「どれくらいで?」「一カ月ぐらいでしょうか?」。先方はこっちの事情を理解した上で声をかけてくれている。ただ向こうにも事情があるだろう。「版元に問い合わせますので、取りあえずお進めください」。もう一つ質問した。「もし読み終わって『つまらない』と思ったら、レポート書く必要ありますか?」「え?」「・・・と言いますか、つまらなかったら、『つまらなかった』という渾身のレポートは書けないような気がするんです」。

「出すことになったら鈴木さんが翻訳者」というオファーの場合、「本を出すべきだ」という方にバイアスがかかる。謝礼が安いのは、翻訳者の勉強代という名目がつくが、これは建前であって、出版社が翻訳者の足下を見ているオファーに他ならない(そこに出版社は甘えている。「正当な対価のないところにサービスはない」というサービスの法則が通らないから出版業界は堕落しているのだと思う)。そのことはわかっていても、そこはそこ、足下を見られていることを承知で受けてしまう(弱い)自分もいる。ただしこっちも暇ではないので、できないことはできないと言うし、無駄な時間は過ごしたくない。逆に『ティール組織』の時は「何が何でも出したい!」と思ったので採算度外視で40時間かけて10枚のレポートを書いて出版社の会議で落ちた話は以前にも書いた(あの時は立ち直れないくらい落ち込んだ)。

本当の目利き ー 『ティール組織』(原著)を発見した人 - 金融翻訳者の日記

「そうですねえ・・・」「読み終わった段階でご相談てのは?」「それで行きましょう。その場合謝礼は半分ぐらいで・・・」1冊本を読んでレポートを書いて2万円が、そもそも仕事として成立しないのだから、それが1万円になっても、よしんば5000円でも問題ない。「じゃあ、そういうことで」と10日後ぐらいに電話で話すことになった。
「ああ、それと最後に・・・スミマセン。仮に翻訳することになっても、多分出版専業の皆さんより時間がかかるので、もしかしたらLさん(編集者)の間尺に合わないかもしれません」。自分に不利な情報は先に示すのを方針としている。「う~ン・・・」。Lさんはしばらく黙りましたね。「・・・内容的にはそれほど急ぎませんので大丈夫ですが・・・ま、それも後でご相談しましょう」。で電話を切った。

ちなみに僕はこれまで「この本は出すべきではない」というレポートを3回出したことがある。うち1回は「こんな本を出したら御社の歴史に傷がつく」とまで書いた。この出版社は別の本の翻訳の機会をくれました。あと2社はその後ご縁がない。
面白いテーマなので時間を作って読み進めることにします。

よい1日を!