「ところでもう一つ聞きたいのは、会食時のマナーなんだ。例えば僕が務めることになる学校の校長先生や教頭先生と会食して解散するとき、店の出口まで見送るべきなのだろうか?」
「そこまでしなくてもいいと僕は思う。上司が帰る時にはせめて起立してありがとうございましたプレイのちょうどいいんじゃないかな。もっともさすがに座ったままではまずいよ。先日、国際会議の場で日本の首相が座ったままほかの首脳と握手して非難ごうごうになった話知ってるだろ」「知ってる知ってる」
「それさえしなけりゃ大丈夫だ。ただ、この手の礼儀的なことは、どこまでを無礼と感じるかは人によって微妙に基準が違うから、ちょっとやり過ぎかなキムという程度で踏み込んでおいたからリスクは少ないと思う。『そこまでしなくていいよ』と言ってくれるはずだから」「なるほど~」
「・・・今の話をしながら思ったのだが、酒席では気にしておいた方が良い点がもう一つあるかもしれない」「それは何?」
「例えば僕が若い時には、つまり今から30年から40年ぐらい前だけど、上司と飲みに行って相手のグラスや盃が空になると部下がお酌するのが暗黙のルールだった」「な、なんと」
「つまりさ、上司のグラスがずっと空のままだと、『ちゃんとその人がサービスされていない』という雰囲気が醸し出されるわけだ」
「ただし、その習慣は今はかなり変わってきていると思う。だって酒飲むペースなんて人によって異なるわけだろ。部下が上司のグラスにビールを注ごうとすると『手酌でやるからいいよ』なんて人も僕の若い頃にはいた」
「ま、最初は安全策がいいと思うから、気がついたら注ぐぐらいのつもりでいいんじゃないかな。」「そうか~」
「ところで君の事前講習会の講師というのは日本人か?」
「いや、在日経験30年のアメリカ人だ」
「じゃ、彼の常識はほんのちょっと古いか、ずれているかも・・・まあ基本を押さえた上で、最初は若干ここまではやりすぎ?ぐらいの気を使ってあとは相手の反応を見て調節していくというのが現実的じゃないかな。ましてや君は外国人だ。相手もそこまで期待しないと思う」
「そうか~。いや、大いに参考になったよ。ありがとう。あ、もう時間だ。テキスト全然すすまなかったね。ゴメン」
「ぜ~んぜん問題ない。またいつでも聞いてくれ」