金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「犯人の気持ち」- 今日の翻訳ストレッチから(2013年11月)

 

今日は本来原文と訳文の音読だけで使っている『脱線FRB』のある1段落の原文を写し、訳書の訳文をそのまま写すという作業をした。

一昨日この箇所を音読しているときに、自分が英語を読んで出てくる時の日本語の並びと違ったので、書いたら何か参考になるのではないかと思ったからだ。

新たな発見があった。

原文を書き写して、訳文を書き写す。Tradosを使っている関係で、1文節で一旦途切れる。そこで原文のページ数と訳文のページ数を書く。一呼吸入る。バイリンガルファイルのイメージはこんな感じ(↓)になります。

Chapter 4, adapted from a speech I gave in Spain in the summer of 2007 before the crisis flared up, provides perspective by reviewing episodes in the previous twenty years when thing went right.
第4章では、過去20年の好況期の政策を検討する。この章は、危機発生前の2007年夏にスペインで行った講演を土台にしている(Getting off Track xii/『脱線FRB』p6)。

この文節の区切れ目でふと考える時間ができる。村井さんはなぜこう考えてこの訳にしたのだろう?これが勉強になる。上の例で言えば、「episodes」に「政策」を当て、「provides perspective by reviewing」 に「検討する」を当てた理由を考える。adapted from a ・・・を後ろに持ってくるのは大いに参考になる。いずれも第一感では自分では出てこない。なぜ自分では出てこないのだろう、等々3~4分ぐらい考えて次の文節に移る。

(1) 原文だけの音読
(2)訳文だけの音読
(3)原文と訳文の代わりばんこの音読
(4)日本語だけの音読
(5)原文→自分で訳を作る→訳書の日本語を写して比較する(添削はしない)

と色々やってきたが、今日の体験、つまり

(6)原文と訳文をただ写す

という作業は(5)のプロセスでもわかるはずなのに(5)の時はどうしても自分の訳との比較感(巧拙)の感覚が強くて今日みたいに、素直に私が村井さんだったらどう考えるだろう(?)と思ったり考えたりしたことはなかった

昨日、録画した「躍る大捜査線 Final」を見ていて、青島刑事が「自分が犯人だったらどこへ行くだろう?」と考えながら犯人のいる場所に行き当たるシーンがあったけど、それにちょっと近いかなあ。もっとも冷静に考えれば青島刑事の頭の働かせ方は(5)の作業に近いのだが、私が(5)をする時は「僕が村井さんだったらどう訳すだろう?」とは考えていないものね。

とても新鮮な気持ちになったので朝の筋トレにこの作業を入れることにしよう。無論毎日(1)~(6)全部はできないのでメニューを色々変える必要はあるが。

ちなみに今日は

(6)を『脱線FRB』で20分
(1)をECB(欧州中央銀行のことです)のドラギ総裁の記者会見質疑応答の音読で10分
(4)は向田邦子のエッセイの音読10分でした。

(後記)今は、村井さんの別の本で、ノートに手書きで毎日10分間書き写しています(2021年11月9日記)