金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

初めて知り合いに営業をかける

昨日は知り合い(かつての上司)が社長をしている某社を訪ねる。元々その方からある仕事を頼まれ担当部署を紹介されて納品し、その担当者の方にご挨拶に行きたいとアポを入れたところそれを聞きつけた上司(つまり社長)から「ちょっと顔出せ」となった。

その社長との話の中で、「この仕事は御社に取ってとても意味があると思うので、もしよかったら拡大した形で引き続き私に手掛けさせてもらえないか?」と持ちかけた。要するに営業をしたわけだ。すぐに担当者に連絡してくれ、話が進みそうな気配となった。

その社長とは20年近くの知り合いだが、こういう形で、つまり元々知っている人に(最初のきっかけは先方の電話からだったとは言え)自分から営業をかけたのは独立10年して初めてである。

この仕事を始めた時に一つだけ決めたことがあった。
それは「知り合いを頼って自ら営業をしない」ということであった。
社会人として10数年のキャリアがあると言っても翻訳者としてはペーペー。そんな人間が最初から「翻訳始めたんでよろしく~」とやったら本当の営業力はつかないと思ったし、また翻訳の実力もないのに知り合いの「顔」で仕事を紹介してもらって、もしうまく行かなかったら紹介者の顔をつぶすことになると思ったからだ。

もちろん殊更に自ら営業をしないとは言え知り合いに会えば翻訳をしていることを隠しているわけではないので「鈴木が翻訳をしているらしい」という話は自然と広がってそこから仕事が来ることはあったが、それでも自ら売り込むことはしてこなかった(つもり)。

でも昨日は明確に「営業」を意識して話したし、その先輩にも「これは営業です」と申し上げた。その後担当者にお会いした時も「社長から振ってきたような話で申し訳ない」と謝った上で「打ち合わせ等させていただき評価していただきたい」とは申し上げたがそれはそれで一般の業者とは異なる扱いを受けるかもしれない。

それでも僕はここからはちょっと積極的に営業をしてみようかなと思ったのだ。
その理由は不遜を承知で言えば、少なくとも今回の仕事は他よりもできるという「自信ができたから」。

今回先方から頼まれた仕事はあるできあがった文書(英文)の校閲だったのだが、ネイティブを使って限られた時間のなかで英文の校閲だけを請け負ったはずが原文の内容から形式に至るまで気がついたことを指摘したら、私から見ればあたりまえのことを先方が全く気がついていなかった。

このレベルだと私が(その会社のホームページの全体を)見た方が単なるIR会社に任せるよりも断然よいと確信したからである。それは知り合いの社長にも当然プラスになるし、私にもビジネスになる。だからやらせてくれ、と言ったわけだ。

今後この話がどうなるかは分からないけれども、独立してちょうど10年。自分の力を積極的に評価し知り合いに自ら営業することが知り合いの顔を潰すどころか利益になる(そして私にも当然利益になる)のではないか、と考え意識して知り合いに当たってみようかと思った次第。

でも帰りがけにその社長から言われた。
「お前、なぜそれを手広くやらないんだ?」
その気はない。自分以外の人間がそれをしたら質を維持できる自信がないし、第一「それ」をやったら私はマネジメントをやらなければならなくなるからだ。
だから商売は広がらない。その社長にも「このビジネスアイデアいいと思うけれども誰でも出来るわけでもないし、私は会社を大きくしたいという欲がないので手広くはできません」と申し上げる。

私はあくまでも職人で行きたい。