金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

読み違え(飜訳会社に押し切られる)(2016年4月)

一昨日、翻訳会社HA社から翻訳の打診があった。

「12000ワードを2週間でいかがでしょう? 昨年鈴木さんに訳していただいたものと同じシリーズです」

HA社はつきあいが始まって2年。数ヶ月に1度仕事の打診が来て、今まで断ったのは1回だと思う。1度大きなミス(というか、細かいミスをたくさん)して謝ったことがある。定期的に仕事はくるけれども継続的(いつも)に来ないのは、恐らく先方は僕を完全には「信頼できる翻訳者」とは思っていないからだろう。

僕の方はHA社とできれば長く付き合いたいと思っている。理由は単価だ。

僕が10年以上付き合っているHB社の単価は、HB社の中では「破格の高さ」(7年ほど前に言われた)らしいが、ソースクライアントの2分の1以下だ。もちろんHB社と付き合っているのはお金だけじゃない。昨年値上げを申し入れていて「Lさん(担当者)、あなたの給料だって10年前に比べりゃ高いでしょ?僕のこの申し入れ10年ぶりですよ。わかるでしょ?」てな会話をして今返事待ちだが、仮に上がらなくても付き合いますよ。

これに対し、HA社の単価もソースクライアントに比べれば確かに安いのだが、実はHB社よりも高いのだ。しかも僕の序列はHA社の中で最低らしい(スタートアップ価格と言われている)。長期的にはソースクライアントの比率を落としていきたい僕としては、HA社と長いつきあいをして少しずつ単価を上げていき、ゆくゆくは(10年後ぐらいには)ソースクライアントの7割ぐらいの単価でゆっくり過ごしたいと思っているわけです(HB社とは腐れ縁を続けていく)。

という、立場はやや相手の方が強い、というかこちらが弱い、というかちょっと遠慮してしまうHA社ではあるが、ちょっと今忙しくてそれどころじゃないのね。

だから、冒頭のような打診だったら、お断りしていたはずなんです。。ところ実際の打診はこうだった。

「未確定案件です。12000ワード、 昨年鈴木さんに訳していただいたものと同じシリーズですが、もし確定したらいつ頃にできますでしょうか?」

「・・・今ちょっと忙しくて・・・そうですねえ、最低3週間。できれば4週間」

僕はどのお客様にも「一つの目安」として「1週間5000ワード」とお答えしている。このペースを飲んでいただければ複数の仕事を抱えたとしても何とか時間をやりくりして対応できてきた。もちろんそうではないこともあるけれども、だいたいこのペースで仕事を受けておけば対応できてきたというのが経験則だ。

電話口ではそういう感覚に基づいて、まあ3週間もあればできるかも?とはいえここまで言っておけば「来ないだろう」という読みもあった。

「はい、わかりました。またご連絡します」と相手の担当者。

直感的に「来ない」と思った。内容的には面白いが他にやらなければならないことが山ほど合って、量的にはかなりきついし、惜しいけれどもまあいいか。と思ったわけ。

昨日の午後になっても連絡も来ないし、「やっぱり来ないんだな」若干寂しい感じもしつつも実はホッとしていたんです。だって大変ですから。これ以上仕事を抱えちゃったら。

・・・・と思っていたところに午後5時頃電話。「鈴木さん、先ほどメールをお送りしましたが確定しました」「じぇじぇ?」

こっちは忙しすぎてメールなんざ見ていない。

「・・・3週間というおはなしでしたので、5月11日納期でいかがでしょう」
「いや僕は最低3週間と言ったわけで・・・」と言いたいところをグッと抑え「す、スミマセン昨日も申し上げたとおり私今かなり忙しくて・・・・せめて数日だけでも・・・延びませんかねえ」

というわけで13日納期になった。身から出たさびというか、何というか・・・。明日からマンスリー始まって、本のゲラ来るし、他の本の翻訳も進めなきゃならないこの時期に・・・でも断りたくない・・・・。完全な読み間違え。

さあて大変だ。それにしても「せ、せめて2週間」と言わなくてよかった。

・・・というわけで、本日も皆さんにとって素晴らしい1日となりますように!!

(後記:10時10分記す)

たった今に先方から電話。

「お客様がやや急いでおりまして・・・」
(お、これはキャンセルやむなし?)
「・・・分納は可能でしょうか?」

はい、受けました。

どこまでお人好しなんだか・・・。でも感謝。

「上がる」「下がる」関係については英語の表現の方が日本語よりも豊富(『金融英語の基礎と応用~』の裏話)(2016年4月18日)

『金融英語の基礎と応用』では、相場の動き(上がる、とか下がる)の表現をかなり取り上げています。

これは本をつくっていた3年間、毎朝30分ぐらいかけて読む新聞(日経と朝日)とテレビ東京の「モーニングサテライト」で見かけた、ちょっと気にとめておきたい表現をメモっていたからです。特にある時期から本書を意識して「前日の相場が上がったのか、下がったのか」の表現だけを2年間近く拾いまくったので(毎日「上がる」か「下がる」か「横ばい」しか出てきません)、少なくともFTに関しては「上がる」「下がる」関係で使われている表現をほぼ網羅しているのではないかと思います。

こと経済記事(レポート)に関する限り、「上がる」「下がる」関係については英語の表現の方が日本語よりも豊富、というのが私の印象。

『金融英語の基礎と応用~』の裏話(2016年4月)

『金融英語の基礎と応用』をつくっていたほぼ3年間、普通に日本語で書かれ、話されている経済用語の中で「これは!」と思う表現を毎日メモっていました。日本語で自然と目や耳に入ってくる言葉が英語でどう表現されているかを確認(←これは自分の仕事の中から)作業の一環で習慣化していたものですが、年度が替わるのを機に3月末から作業だけ再開してみました。

ただ今回は、別に本をつくるという明示的な目標があるわけではないので、経済用語が中心とは言え範囲を限定せず、「その単語を知っているようで知らなかった(意味を調べます)」「表記が確認できた(仕事に使える)」をポストイットに書き留めて、今年初めから使い始めたevernoteに転記しています。もちろん、特に見つからなければ書きません。

ちなみに『金融英語の基礎と応用』では、相場の動き(上がる、とか下がる)の表現をかなり取り上げています。これは本をつくっていた3年間、英語の媒体としてFTの市場概況を毎日音読してメモっていたからです。途中から本書を意識して「前日の相場が上がったのか、下がったのか」の表現だけに注目して2年間近く拾いまくったので(毎日「上がる」か「下がる」か「横ばい」しか出てきません)、少なくともFTに関しては「上がる」「下がる」関係で使われている表現をほぼ網羅しているのではないかと思います。こと経済記事(レポート)に関する限り、「上がる」「下がる」関係については英語の表現の方が日本語よりも豊富、というのが私の印象。

壁に耳あり・・・(?)

今朝の翻訳ストレッチから

「コテージでじゃ壁に耳ありでさ、何も訊けやしないから」(カズオ・イシグロ著『わたしを離さないで』土屋雅雄訳 原著はKindle No.2862)。

舞台はイギリス。「壁に耳あり」の先を書いたら翻訳として不自然になる(イギリスに障子はない)。訳者は当然わかっているだろう。ただ微妙なところだなと思った。

在宅勤務は子への過干渉を招きやすいというお話-「子離れの季節」(2016年4月)

入学したばかりの大学から帰宅した次男が帰るなり私にこう言った。

「お父さん、生協でもう売り切れていたよ」

カッチーン。

「だから言ったろ、入学手続きの時に『パソコンだけはなくなる前に買っておけ』って!!!(怒) 」
「そんなこと言ってたかなあ」
「言ってたよ、おい、入学関係書類持って来い!!!・・・おらおら、ここに丸つけてあるじゃねーか。理学部だろ!!パソコンヘビーユーザー用のこれだよこれ!!!生協を通すといろいろ割り引きやら特典が多いの(怒)(怒)!」

「でもね、お父さん」「な、なんだ(怒)(怒)(怒)!!!」
MACだよ、MAC

「な、なに~!!!!(怒)(驚)」
「今日の理学部の新入生説明会でも、新入生用ラインでも、MACを買えと言われた」
「そ、そんなはずは・・・(怒)(驚)(恥)」
「お父さん、これ見てよ」

と言われてもう一度そのパソコンの僕が丸をつけた2ページ前に学部ごとの説明が書いてあり、「理学部数学、情報数学科は学部のコンピューターがAppleなので、MACがお勧めです」としっかり書いてある。

私が丸をつけたのはマイクロソフトのパソコンの欄と、理学部はヘビーユーザーというところ。

そこで妻がしらーっと
「お父さんの言ってた通りにウインドウズ買ってたらもっと大騒ぎだったわね」

「・・・(恥)(恥)」

「もう一々口出すの止めなよ。大学生なんだからさ」

「・・・(恥)(恥)」(大反省)

家にいると、ついいろいろ目に付いちゃうので口を出してしまう悪い癖は自覚しており、高校を卒業したときに、予備校の選択も、志望校の選択も、勉強法も一切口を出さず、聞かれたときだけ答える姿勢を貫いてきた。

わかってるつもりだったんだが、パソコンに関しては、少なくとも俺の方が詳しいと思っていたので、つい・・・。

動かなければ、始まらない。やってみなければ「限度」はわからない(2016年4月)

昨日の書き込みと皆さんのコメントを読んでいるうちにふと思い立ち、先方から何も言われていないのに、私にメールをくれた方に職務履歴書を送り、「ご紹介者の方にご転送ください」と書いてみた。

「図々しすぎる」と取られる可能性はある。

「これをすると相手から図々しいと思われ、悪印象を与えるのではないか?」

というのが今一歩の行動を阻む要因の一つだと思う。この辺の「リミット」は自分自身の性格や表情、物の言い方、書き方、相手の性格や状況によって変わるので一概には言えない。ただ一つ言えることは、ある程度やり過ぎないと(失敗しないと)その辺の限度がつかめないということではないか。

つまり、何もしなければ何も起きない。良い仕事をしていれば仕事が自然に(口コミで)降ってくるなどと考えるのは、(本が売れれば本が自然と宣伝してくれる出版とは異なり、実務翻訳の場合は)幻想でございます。

もちろん常識的に考えてあり得ない(実は常識の範囲も人によって異なるんだけど)ことはしないにしても、昨日の職務履歴書添付は「お、そこまでやるか?」と思われるかもしれないが、それ以上の嫌悪感を与えないと思うし、私の側からすれば元々取引のないところなので最悪でもなしのつぶてになるだけだ。失う物はない。礼を失しないようメールの文章には気をつけつつ「ままよ」と送ってみた。

すぐに「ご丁寧にありがとうございます」と返事。一昨日の「よろしくお願いします!」のメールには返事がなかった。とういことは効いたのかな?すぐに「よろしくお願いします」とメール。

ここまでで、後はじっと待ちです。

殻を破る:自営業者になるということ(2016年4月7日)

お昼頃に某出版社の編集担当者からメール。この方とはあるパーティーで名刺を交換し、その後書籍のオファーを一度受けたことがあるが、こちらの都合でお断りしたことがある。

「お、書籍のオファーかな?」

と普通思いますよね。

メールの内容は・・・

(引用)
付き合いのある外資の投資会社が、「英語で作成された金融ビジネス文章を日本語にする」仕事ができる訳者の方を探しているそうです。(引用終わり)

関心があれば推薦してくれるとのこと。
当然、「よろしくお願いします!」とメールしました。

この手のご紹介が実際の仕事に結びつく確率は、経験的に3割ぐらい。コールドコールによる営業の確率が1%ぐらいなのでかなり高い。とはいえ、「紹介してくれる」と言ってくれてもその方もお忙しいし、依頼した側の会社もいろいろな人に声をかけている可能性もあるので過度な期待は禁物である。

とはいえ、名刺は配っておくべきだ、とメールを送りながらあらためて思いました。

今度(と言っても半年ぐらい先)、ある会で20名くらいの方にお話をする機会がある。「お話」とはいっても勉強会というよりは「質問会」という形式で、事前に質問を頂戴してそれにお答えするという談話会みたいなものかな。その質問の中に「性格的に営業ができないけれども、どうやってお客様を増やしていけば良いでしょうか?」というものがあった。

簡単には答えられない質問です(だからこそ談話会のテーマになるんだけどね)。営業って、それをしたことのない人には、今までの自分の殻を一つ破る行為であることは間違いない。その殻の一つが「照れ、とか恥ずかしさ」だと思います。

もちろん殻の厚さは人によって違う。

僕は証券会社の営業だったので、とてつもなく厚い殻を思いっきりこじ開けないと生きていけませんでした(文字通り人生観変わります)。そのインパクトは強烈で、あそこまで行っちゃうと「向き」「不向き」はあると思いますが、もちろんだれでもちょっと意識すれば割れる薄い殻もあります。

その一つが、クラス会やOB、OG会で友達や昔の知り合いと久しぶりに会った時に名刺を配りまくる、ということではないかな。もちろん、それだって恥ずかしい。それを破る口実は「ごめんね。僕は自営業なので久しぶりに会う人にはとりあえず名刺をくばっちゃう癖があるんだ」というアプローチじゃないかな?

自分が恥ずかしい、照れちゃうと思うのは自意識過剰。そう思えば少しは気楽になるでしょ。

お試しあれ(・・・ていうようなお話をする予定)。