金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

翻訳ツールとしてのChatGPTとの付き合い方(いくつかの仮説:2023年10月29日現在)

*以下の心得(仮説)は順不同です。随時加筆、削減、修正入れ替えしていきます(更新日時はタイトルに書いておきます)

心得1:くれぐれも、ChatGPTの出力結果を無批判に受け入れないこと。なぜならば、ChatGPTはよく間違えるからだ。ユーザーが、対話を通じて自分なりの「正解」に早くたどりつくための最高のアシスタントではあるが、あくまでもアシスタントにすぎず、最終のアウトプットを作成する責任を担うのは人であることを忘れてはならない。

しかしだからと言って、「ChatGPTにこれを尋ねたらこういう結果が返ってきた」というアウトプットをもってこの超便利なツールの是非(訳に立つ、立たない)を論じることはナンセンス。時間の無駄である。なぜならば①ChatGPTは使う時の瞬間に彼(または彼女)が把握・学習している情報が異なるために出力結果が異なる可能性が高く、②バージョンアップによって日々能力が高まっているので、今日間違ったものが明日正しくなる可能性があるからだ。

したがって、今はChatGPTを「使うか、使わないか」ではなく、「どう安全に使うか」を考えて付き合っていくべきだ。「どんなに優秀な人間だって間違えることはあるじゃないか」と一歩引いて考えるぐらいにとらえるのがちょうどよいのではないか。

心得2:ChatGPTはよく間違えるにもかかわらずなぜ役に立つのか?それは、概ね正しい答え(多くは完全な正解)を、人間には不可能なほどの短時間で出してくれるからだ。だとするならば、出力結果を評価できるだけの知識または判断力があれば強力な武器になる。逆に言うと、ある程度の知識や判断力がないととても使いこなせない。超優秀だが知ったかぶりをするツールで、「気まぐれで、気難し屋の名馬」「おしゃべりな耳年増」「優秀な野狐禅(やこぜん)」にたとえることができると思う。

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心得3:ChatGPTは、対話を通じて利用者の知識やノウハウ、能力が高まっていくツールだ、ということもできる。プロンプトを出して返ってきた回答はChatGPTとの「対話の始まり」にすぎない。利用者の学習はそこから始まるのである(ただし、各分野でのある程度知見のある第三者によるコントロールが必要かもしれない:心得5参照)

心得4:ChatGPTの利用は、自転車で(直線ではない)坂道を下りることにたとえられる。自転車さえ操れれば自力で平地を走らせるよりもはるかに速いスピードで、ス~イスイ楽に進むことができる。ただし、坂を上りきるまでは自力で自転車を走らせなければならないし、下り坂に入ったら、(道は曲がっているので)注意深く走らせないと道を外したり、転んで大けがをすることになりかねない。基礎体力と自転車操縦技術は自力でつけなければならないのだ。

もちろん、基礎体力と自転車操縦技術もChatGPTをうまく利用すれば効率的に学べるかもしれない(ChatGPTの教育への応用)。

心得5:ChatGPTは優秀だがよく間違えるので、これを使った学習には、生徒(学習者)の他に、その分野に精通した観察者による観察と助言が必要。学習者がChatGPTと対話しながら学習をしているのをリアルタイムで観察しながら、誤った方向に行きそうだったら修正指示を出すというのはあり得る。ある課題を家庭でChatGPTと対話しながら解決するよう指示し、対話記録(ログ?)を提出させるという宿題は有効ではないかな?

心得6:ChatGPTは日進月歩している。バージョンがいつアップデートしているかわからないため、出力したものを「ChatGPTの出力」として使う場合には「出力年月日」を入れておいたほうがよい。

心得7:ChatGPTを使えば使うほどパフォーマンスは向上するが、肩代わりさせた分だけ利用者のその機能に関する能力は落ちる。

例えば翻訳にChatGPTを使って翻訳をする場合、使い慣れ、あるいは使い方になじめば成果物のパフォーマンスは、とりわけ日英(日本語から英語への)翻訳においては格段に向上する(スピード、質ともに)。それはツールなのだから、当たり前。

では英語力はどうなるのか?-意識的な努力をしないと、使った分だけ落ちる。これもツールなのだから当たり前。ただしその能力を補うための訓練もChatGPTを使ってできる。

心得8:ChatGPTは完全な英語ネイティブ。「めちゃくちゃ頭がよく、日本語が苦手な留学生」(『ChatGPTエフェクト』(日経BP)p314)とのたとえは本質を突いていると思う。ChatGPTが日本語を書くときに助詞の使い方を間違えることはないが、語順や副詞、形容詞の使い方に違和感を覚えることがある。これは鍛えられ方の違いだろう。ただし、日本語ネイティブになる日も遠からず訪れるような気がする。

心得9:今後はおそらく、分野を問わず、ChatGPTを使いこなせるようになった人間と、使いこなせない人間のパフォーマンス格差(受注から成果物が仕上がるまでの時間と、成果物の質の両面において)が格段に広がる。

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