金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

日本経済新聞「私の履歴書」は社内報にあらず

(以下引用)
その経緯について私がとやかく言うことはない。いろいろ解説する人がいるのは知っている。成否は歴史が決める。(引用ここまで)
(古賀信行 私の履歴書(24)サブプライム 野村ホールディングス名誉顧問)

僕は同社の元社員(1998年に退職)であり、著者を直接存じ上げない。けれども僕の知る多くの人が彼を尊敬していたので大いに期待をもってこの「履歴書」を読み始めた。文章は素晴らしく、格調も高いなあと思っていた。元いた会社のトップの方の文章として幾分誇らしくもあった。だが、残念ながらよかったのは高校を卒業するぐらいまで。

大学時代の記述はなし。会社に入ってからも、その内容はご自分がどういう部署に配属され、そこにはどういう上司や同僚がいたか、だれを採用したか、という内輪受けはするかもしれないが外部の人は置いておかれるような社内報的な内容ばかり。ご自分がそれぞれの部署で「何を、どうしたか」「どういう成果を上げ、あるいはどういう失敗をしたか」に関する記述はほとんどない。

リーマンショックに関しても実に評論家的だ。

当時経営に携わっていたご本人が「自分はこう思ってこういう決断をし、こういう指示を出した」、「自分はこう考えた」、「当時の自分としては事態をこう評価していた」、そして「今はこう総括している」といったことに触れることなく、「成否は歴史が決める」と言っちゃあおしまいではないだろうか。

関わり合いのある人の多くが現役(しかも存命のはず)なので、差し障りがあるのかもしれない。しかしこの連載を引き受けたからには、そこをこそ書いて記録に残すことで著者の覚悟を示してほしかった。また、しがらみがあるから書けないのであれば、そもそもこの連載を引き受けるべきではなかった、とさえ僕は思う。

1カ月の間に僕の中の評価がここまで振幅した「私の履歴書」は初めてかもしれない。

こころから残念だ。

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