金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「実務に詳しい専門家だからこそ判断を誤ることもある、という自分の専門性への恐れを失った組織や人間はこわい」(深代淳郎さん)7月18日に出会った言葉

(1)2019年7月18日  
一例がブルース・リーの代表作「燃えよドラゴン」だ。リーの没後25周年劇場版(1998年)の字幕には、聖書に関する文言が出てくる。……
敵役がある男の非常さを試すため、ギロチン台に置いた猫に刃を落とせるかを問うシーン。「An act of faith」と言う敵役に、男は「I’m a man of little faith」と答える。
翻訳者は最初「誠意の問題だ(An act of faith)」「そんなものはないね(I’m a man of little faith)」と訳した。が、私は注文を付けた。「An act of faith」はキリストが弟子を叱る際の決まり文句だから「誠意」は誤訳である。そこで「信じることだ(An act of faith)」「至って不信仰でね(I’m a man of little faith)」と直した。
欧米の観客はこのセリフを効けば宗教的含意に気づく。日本の観客にも同じ感覚で見てほしい。
(「「燃えよドラゴン」と聖書 字幕の中のキリスト教文化 ――宗教的含意を読み解き翻訳 小川政弘=元ワーナー・ブラザース映画製作室長」2019年7月18日付日本経済新聞より)
**今日の言葉は、僕らの仕事ではよく指摘される話題。ただ僕はこの文章を読んで、時間が経過すると文章からはいろいろな情報や常識が抜け落ちていくが、これは、外国語、母国語に限らない。だから僕らは明治の文章を読むときに解説や注がいる。ただ、翻訳はその度合いが多いのだなあと改めて感じた次第。
なお著者には『字幕に愛を込めて (私の映画人生 半世紀)』(イーグレープ、2018年)という著書があるそうです。日経電子版でこの記事を見るとご本人が出演している短いプレゼンテーションを見ることができます。

www.nikkei.com

(2)2017年7月18日 
実務に詳しい専門家だからこそ判断を誤ることもある、という自分の専門性への恐れを失った組織や人間はこわい。
(『深代淳郎の天声人語』深代淳郎、朝日新聞社)p41「保安処分」)

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