金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

子どもから「マスクしてない!」と糾弾(?)された話

昨日のお昼頃のこと。

雨の中、マスクをせずに傘を差して歩いていると、どこからか「あ、マスクしてない!」の声が。女の子と思われる。

あれ?と思って周囲を見てもだれもいない。すると

「おかあさん、あのおじさんマスクしてない!!!」

と二車線の道路を隔てた向こうのバス停のある場所から、幼稚園生かな、小さな女の子が俺様を指さしているではないか!!!

そうしたら隣に立っていたお母さん、僕の方を見ないで(一瞬見たのかも知れないが、僕が気づいた時にはその子の方を向いて)こう仰いましたね。

「いいの。いろいろな人がいるのよ」

いや~、離れていたとは言えかなり気まずかったです。

それで思い出したのが今から60年ぐらい前の話。

当時、3~4歳だった僕は母と電車に乗っていた。季節はわからない。何しろ昼間で、車内はすいていた。

ある駅に停車し、動き始めるや否や、僕が突然叫び始めたのだという。

「お母さん、ほら悪人がいる!!」

その瞬間に母は誰が「悪人」かをすぐに分かったという。前の駅で乗ってきて僕たちと通路を隔てた向かい側に座った男性がサングラスを掛けていたからだ。

当時我が家でメガネをしている人はいなかった。そしてドラマに登場する悪人は決まって「サングラス」をかけていたのである。

「え、どこどこ?どこにいるの?」

ウチの母もまだ若かった(当時まだ20代)。「申し訳ございません。この子メガネをかけている方になれていないものですから・・・」とでも一言その人に頭を下げれば済む話だが、パニックになった母親は「気づかないふり」をしたのである。

「お母さん!!ほら、このオジサンだよ。この人!!!」

いきり立った僕は、目の前にいるその人を指さしてさらに大きな声で叫んだのだという。「ほら、ここにいるよ~!!!!」

さらに焦る母。と同時に、まだサングラスを掛ける人への偏見もあったかもしれない。

「あ~らタツヤ何言ってるの、どこにいるの?」とその方の後ろをわざと探したふりをしたそうな。電車が走っていて、オジサンの後ろに見える外の景色に人なんか見えるはずもないのに。向かい側の方から因縁をつけられるのではないかとの恐怖もあったとのこと。

「おかあさん、この人だよ。このひと~~~」

周囲の人も当然何が起きているのかをわかっているが見て見ぬ振りだね。(あ~大変、どうしよう~)と恐怖にうちひしがれているうちに電車は次の駅に止まる。向かいのオジサンは?

静かに立ち上がって降車したとのこと。

もちろん、以上の話を僕が覚えているわけではなく、後になって(僕が大人になってからも)「ほ~んと、こわかったんだから」という言葉とともに何度も何度も聞かされた話である。

昨日、小さな女の子の「オジサン、マスクしてない!!」に答えて「いろいろな人がいるのよ」と答えたお母さんは、もしかしたら当時のウチの母の心境だったのかもしれない、と思ったらちょっと気の毒になった。

・・・とここまで書いてきて気がついたことがある。あのとき、僕が糾弾(?)したおじさんはいい人だったのではないか、と。そうでなければ文句の一つぐらい母か僕に言っただろう。きっと彼も昨日の僕と同じで、おおいにまごつき、気まずくなって次の駅で降りざるを得なかったのではないか。

だとしたら本当に申し訳なかった。同じ立場に立たされて初めて気がついた。おじさん、あのとき嫌な思いをさせていたとしたら、ゴメンなさい。