金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

訳書の書評が出る(2014年6月1日 )

日経新聞の書評欄見開きの左側上に『世界でいちばん大切にしたい会社』の書評が出た。超嬉しいです。

新聞の書評なんて出版社と新聞社あるいは書評者のコネで決まるのだろうと昔は思っていたのだが、「それが全くわからないんですよ。当然本が出れば贈るんですが」とは『ブレイクアウトネーションズ』の編集者の方から伺っていた。唯一の例外は朝日新聞だそうで、書評に出る前の週の水曜日か木曜日に朝日新聞のウェブに「今週の書評」として予告が出るとのこと。それ以外は全くわからないという。つまり本書の書評が出たことは、まだ編集者の方もご存知ないと思われる(臨月が近づいておられますので、まだ就寝中でしょう)。

昨年出た『ブレイクアウトネーションズ』は出版が昨年の2月下旬、日経に書評が出たのが4月下旬、朝日もその1週間後ぐらいだった。「だいたい出版されてから2カ月は見る必要があるでしょう」とも聞いていた。たしかに書評者にはありとあらゆる出版社から無数の献本があるはずで、それを整理するだけでも大変な作業。そこから選んでいくのだろうからそれくらいはかかるだろうとは納得できる。したがって仮に書評が出るとしても6月の下旬以降だと思っていた。だから今日もいつもの日曜日と同じようにお湯が沸くまでの間も何も期待しないで日経を開くと・・・・あった。

これは広告何回分の価値があるだろう?何しろ書評欄に出ると大手書店では「今週の書評」欄に平積みされる。つまり本の扱いが変わるのだ。

翔泳社の方針は「細く長く売る」とのことで新聞広告が出ないことは知っていただけに喜びもひとしおである(ちなみに『ブレイクアウトネーションズ』は出版日に日経の最終面に小さな広告が出ただけで相当の効果があった。メインの新聞広告はこの1回だった)。

とは言え油断は禁物である。

ブレイクアウトネーションズ』は、新聞書評の後もいくつかの雑誌にも紹介されたがまだ増刷1回。8年前に出た『成長の賭け』なんか日経書評欄のトップに囲み記事で紹介されたのに増刷(初版5000部)にならなかった。出版業界は実に厳しいのだ。ただいずれも書評者は日経新聞編集委員だった。同じ書評でも編集委員よりも書評委員の方がインパクト(書評の重み)は大きいとは聞いている。今回は小川進先生。イノベーションの権威だ。

ただ本書は市場ではなく、会社のあるべき姿を扱った「息の長い」本なので、本の存在が知られれば幅広く売れてくれるのではないかとスケベ心は広がる。「花子とアン」の花子の想像の翼のように。

ルンルンの気分です。「鈴木から金が取れるか!」と無報酬で解説をしていただいた野田稔さん、すぐにブログでベタ誉めしてくれた坂野 尚子さん、関係者の皆様、どうもありがとうございました。

 

(以下は書評です。有料記事です)

(以下引用)
『世界でいちばん大切にしたい会社』
J・マッキー、R・シソーティア著
「意識の高い企業」の経営を紹介

本書は自然食品スーパー、ホールフーズ・マーケットの最高経営責任者(CEO)が経営学者の手を借りて書き上げた啓蒙書。同社は米国で自然食品小売業の代表的企業だ。

著者が伝えたい内容は本文で紹介される次のエピソードに凝縮されている。時は1981年のメモリアル・デー。ホールフーズに社名を変えて間もないころ、店舗が現地で70年ぶりの大洪水に見舞われる。店は水浸しになり、何もかも破壊され資金的には破産、残された壊滅状態の店舗を目前にし著者は失意のどん底に落とされる。

そうした状況で予想外のことが起こった。何十人もの客や近所の住人たちがバケツやモップを持って店に駆けつけ店の掃除を始めたのだ。その後、数週間止むことはなかった。どうして客たちはそれだけのことをしたのか。ある客の言葉を借りれば、店が無くなってしまうとそこに住む価値を見いだせないほどホールフーズが生活の中で大きな存在になっていたからだ。

手を差し伸べたのは客だけではない。社員は無給で働き、サプライヤーはツケで商品を供給し、投資家や銀行は資金的支援を申し出た。その結果、店は奇跡的な早さで再開を実現する。

企業は株主に資するためにあるのではない。客、社員、サプライヤーといった主要ステークホルダーと同じ立場で全員の利益に奉仕することでこそ存続できるのだ。ホールフーズはそうした「意識の高い企業(コンシャス・カンパニー)」だからこそ洪水の被害を乗り越え売上高110億ドル以上の地位にまで上り詰めることができたのだと著者は主張する。

本書が一人の経営者の自慢話で終わっていないのは他にも「意識の高い」企業が多く存在することを実例とともに紹介し、圧倒的な実績をあげていることをデータで示しているからだ。

グーグル、スターバックスサウスウエスト航空、タタといったなじみのものが含まれる。同時多発テロ被害にあった際のタタの対応は誰もが深い感動をおぼえる好事例だ。本書では日本の読者にあまりなじみのない企業も紹介されている。これをどういかすかは読者次第だ。無視してもよし、日本企業の未来を先取りした経営上のヒントを得ようと周辺情報を探ってみてもよいだろう。

利益や株価の向上に心を奪われ、自社のあるべき姿や取り組む仕事の意義を見失いかけた時にこそ、手に取ると多くのヒントが詰まっている書である。

原題=Conscious Capitalism (鈴木立哉訳、翔泳社・2200円)
*マッキー氏はホールフーズ・マーケット創業者兼共同CEO、シソーディア氏はペントレィ大学教授

(評)神戸大学教授 小川進
(引用終わり)
日本経済新聞平成26年6月1日)23面
*引用者は訳者です。

世界でいちばん大切にしたい会社 J・マッキー、R・シソーディア著
「意識の高い企業」の経営を紹介

神戸大学教授 小川 進)

日本経済新聞朝刊2014年6月1日付]

www.nikkei.com