金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

有名参考書だって間違えることはある。

紙と鉛筆をもって、次の英文を訳してみよう。制限時間は5分。

(15.2.3)I had imagined, what most pacfists contended, that wars were forced upon a reluctant population by despotic governments.(伊藤和夫著『英文解釈教室 改訂版』(2000年9月25日 改訂版6刷)p301)

(訳文1:伊藤訳)
たいていの平和主義者が主張したことだが、戦争は専制的な政府がいやがる国民に押しつけるものだと、私も考えていた。

これは伊藤和夫さんの訳です。

この訳に問題ありと指摘したのが柴田耕太郎さん。何が違うのか?ポイントはI had imaginedだと。

(以下引用)
挿入されている (a) most pacifists contended の過去形に対し、(b) I had imagined は過去完了なので (b) 「私は元から考えていた」 (a) 「平和主義者はあとから主張した」の順番を訳に出さねばならない。(引用ここまで)

として、次の訳文を提示している。

(訳文2:柴田訳)
たいていの平和主義者も主張したことだが、戦争は専制的な政府がいやがる国民に押しつけるものだと、私は考えていた。(引用ここまで)
(『英文解釈教室』ノート35 Chapter 15 挿入の諸形式 ② 節の挿入――what と as)

柴田さんは伊藤さんのこの本を高く評価しているので言葉を選んでおられるが、要するに伊藤さんの訳を「誤訳だ」と指摘したわけです。僕が持っているのは(2000年9月25日 改訂版6刷)。あれから23年がたっているのでもう直っているのだろうか(手元にある本で比較したので、書店に行って確認していません)。

「が」と「も」、「も」と「は」を入れ替えただけだが、この指摘は深く、勉強になる。さすがです。

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