新たなレポートを請け負った場合にはサンプルを見てサンプルの訳文に倣うようにしている。明らかにオカシイ場合には修正を提案するがそうでない限り前例を踏襲する。
A社(ソースクライアント)の株式ファンドレポートの原文では会社(銘柄)が出てくると、その会社の説明(一行紹介)がある場合とない場合がある。書き手は自分または欧米の読者を前提にしているので、彼らの基準でなじみのない会社には会社の説明がついているのだろう。そう考えて原文を活かしつつ、初出の企業は自分で調べてすべて一行紹介をつけていた(原文にはない)。一方サンプルの会社名の日本語訳はすべてカタカナになっていたので日本人になじみのない会社でもカタカナ読みにし原文を残していた。
昨日翻訳会社B社(A社から投信のレポートの一括受注に成功し、それを一括して僕が訳す/僕の都合の悪い時だけ他の人にやってもらうという僕にとって実に都合のよいディールである)がA社から呼ばれた。ちょっとクセのある担当者なので何かクレームか?と気にしていたら貴社したB社の担当者Sさんから、
「次回からは社名はよほど日本で有名でない限り原文のまま。会社の一行説明は止めてください」とのこと。その理由:「原文にないものを書かれると自分が裏を取らなければならず大変なので」。
原文にあるものを訳しているうちはよいが、余計なことをするとコンプライアンス部門からチェックが入るらしい。
「他のお客様の場合はむしろ喜んでもらっているのですが・・・どうもスミマセン」とSさん。「いいっすよー、僕の作業が楽になるんだから。どーもどーも」と電話を切った。
それが私のお客様の(その先のお客様の)ニーズ。
A社ご担当者のご苦労もわかるけれど、これって本末転倒だよな(読者の立場に立っていない)と思った。一事が万事で、こういう些細なことが顧客軽視につながるのではないかなあ、と。他山の石にしよう。