金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

オリンピック動員令秘話(フィクションです)(2018年8月29日)

お断り:以下はフィクションである。

S大臣「ソーリ、ソーリ、東京オリンピックのボランティア促進策ですが、素晴らしいアイデアを思いつきました!!」

草履大臣「忙しいから手短に頼むよ。資料はA4で1枚ね。読み仮名もきちんとつけて」

S「は、はい、『ボランティア促進(そくしん)のための単位授与制度(たんい・じゅよ・せいど)と感想文(かんそうぶん)コンクール』

草履大臣「なになに・・・?で、要点は?」

S「はい、夏休み中の1カ月間、ボランティアに参加してもらった中高生には外国語、体育または芸術科目のうち本人の選んだ1科目の学年評点を最高点(5段階評価なら『5』。10段階評価なら『10』とするのです」

草履「ほほう・・・で、大学生は?」

S「はい、リベラルアーツ科目のうち1科目の学年評定を最高にするのです」

草履「な、なんだその、リ、リベラル・アート?・・・な、何か自民党みたいだな」

S「失礼しました。リベラルアーツ、要するに人文・社会・語学といった文系科目ですね」

草履「で、対象は?」

S「日本の小中高大に通っている学生で、日本人、外国人を問いません。もっと具体的には・・・おい、文科省○○局長、説明せい!!」

草履「いいいい、そういう細かいところは文科大臣に詰めさせて・・・ところでS君、まさかこれ強制じゃないよね」

S「めっそうもございません!!強制などといったらまた偏向報道でなるAやM新聞が『徴兵制の再来だ!』などと騒ぎますから、あくまでも自己申告によります。まま、マスコミ等を通じて、H大臣が『個人的に』お勧めしていただくのはかまわないと思いますが・・・」

草履「なかなかいいんじゃないか?文字通りのボランティアなんだな?しかもメリットもある。・・・その学校教育法等における評定の公平性等々の問題はないんだろうね、ま、その辺はコバヤシに詰めさせればよいか。オッケー、やってる感あるじゃない。詰めてみてよ・・・それと、この『感想文コンクール』ってのはなんだ?」

草履「あ、それはですね、せっかくの50年ぶりの東京オリンピック、様々な文化との出会いの場です。ボランティアに参加いただいた学生さんたちに課す唯一の義務として、『オリンピックのボランティアに参加して』という感想文を書いていただくのです」

草履「ほほう・・・」

S「それでですね、コンクールをやるんです。『内閣草履大臣賞』とか出して授賞式にソーリにその意義をお話しいただければ、大成功で終わる東京オリンピックの素晴らしい閉めになるのではないでしょうか?」

草履「しかし君、毎年夏休みには『読書感想文コンクール』があるだろう?」

S「そんなものは、2020年だけは中断させて、『オリンピック・ボランティア参加感想文コンクールに変えりゃいいんです。簡単です。関係各省庁、部局、協会に官房長官からお電話いただければ一発です」

草履「それで、ちゃんと予定数集まるのかね?」

S「大丈夫でしょう。ソーリがその意義を記者会見で言っていただければソーリの国を思う気持ちに打たれた多くの国民が『僕も、あたしも是非やりたい』って応募殺到するはずです」

草履「でもさー、そんなことするとA新聞あたりが『いっくら自由参加といっても事実上参加が強制される、まるで徴兵制だ』とか言って騒がない?」

S「本当に嫌な人は外国に留学すればいいんですよ。ほら、この資料の右下のカッコ内、8ポイントで書いてある部分を書きお読みください」

草履「なになに?あれ、老眼鏡で読めないな。おーいI秘書官、ハルキルーペもってこい!・・・なになに、対象は平成32年4月1日以降に日本の中学/高校/大学に在籍し、かつ通学している生徒学生・・・?あ、なーるほど、ボランティアをしたくなければ留学しちゃえばいいのか?」

S「その通りでございます。ソーリ」

草履「でも、何かボランティア抜けみたいじゃないかね。昔で言えば徴兵逃れ、みたいな・・・」

S「心配ご無用です。昨今は日本人の留学生が減少して視野の狭さが問題になっております。仮にその動機が死ぬほど暑い夏に無報酬で働くのが嫌な・・・い、『ボランティア逃れ』、あ、失礼いたしました。まあ、動機はともかく、それをきっかけに有為ある若者達が海外に雄飛していただくきっかけになればそれでいいじゃあありませんか!」

草履「なるほどな・・・しかしね、留学してたらせっかくの東京オリンピックを直接観られないじゃないかね、君!!うちの姪っ子は楽しみにしていたんだぞ」

S「心配ご無用です、ソーリ。留学生にだって夏休みはあります。姪っ子のLお嬢様は、平成32年の3 月から留学していただき、7,8月に『夏休み』で帰国いただければよろしいのではないかと」

草履「なるほど」

S「ちなみに・・・偶然ですが、私の娘が来年から留学予定でございまして・・・は、今朝決まりまして、残念ながらボランティアはできないのですが・・・オリンピックの時には帰国させようかと考えております」

草履「ふ~ん。まあいいや。何しろこのペーパー通りにやれば、オリンピックのボランティアは確保でき、留学生も増え、『ボランティア感想文コンクール』で内閣総理大臣賞を奮発すれば、私の人気もまたウナギのぼりかもな」

S「その通りでございます。ソーリ」

草履「そうなりゃ『4選』も確実かもな」

S「ししっ、そ、ソーリ、それはまだ党則の改正がされませんとだめでございます。官房長官とタイミングを図って持ち出しませんと、またこの前涙目で立候補を断念し、『今度は出る!』といっていたKお坊ちゃま君が何をするかわかりませんぞ」

草履「お~スマンスマン。じゃ、S君、官邸の裏側から出て西麻布の高級料理店Lに行こうか」

S「そういたしましょう。会計理事長もお待ちです」

草履「ああ、会計君か。くれぐれも明日の『草履動静』に乗らないよう頼むよ」

S「ご安心ください。そ、それから昨日欧州から帰国しました財務大臣も来られました。大臣、あそこの女将に眼がないんすよ。

草履「あ、そう」

了。