金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

Sさんとの対話 ー 「上野さんのご意見に概ね賛成だが・・・」をめぐって

昨日、添付のような記事をこのブログに掲載し、フェイスブックでシェアしたところ、お友だちのSさんからコメントが寄せられた。Sさんはもと英語雑誌の編集者で、お付き合いして15年以上にはなると思う。何度もお会いしたこともあるし、お酒を飲んだことも何回もある。編集者時代からの真摯な姿勢と仕事ぶりをとても尊敬しています。

そのSさんが、私の書いた意見のうち「東京オリンピック開催に反対」については同意されたのだが、「東京オリンピックに参加した選手を責めるのは酷だ。応援したい」と書いた部分について反論を寄せられたのだ。

僕は本来、フェイスブックやブログといった媒体は論争に適さないと思っている。表現している最中に相手の反応が読めないので表現を調整しにくいし、投稿時間のズレや一問一答になりにくいので議論がかみ合わなくなる可能性が高いからだ。ただこの問題に関しては、Sさん、いや佐藤(直樹)さん(ご本人からはどちらでもよいですよと言われているのでここでは佐藤さんと呼ばせていただきます)と同じ、つまり上野千鶴子さんと同じ考え方の方も多いと思うし、私の考え方に共感される方もいらっしゃるだろう。このやり取りをブログで公表すれば、どちらが正しいとか正しくないということではなく、どの部分の考え方が違うのかがわかって、お読みになる皆さんにも何らかの考えるヒントになるのではないかと思った。

そこで佐藤さんご本人の了解を得た上で、フェイスブック上でのやりとりをほぼそのまま再掲することにした。「ほぼ」と書いたのは、佐藤さんが私の連続投稿の一部をお読みにならずにご意見を書かれた部分もあるので、若干順番を入れ替えたからであるが、書かれている文章は「そのまま」。それでも、議論がかみ合っていない部分があるとすれば、それはその媒体の限界だろうと、自分の能力のなさを棚に上げて言い訳しておく。

元の投稿はこれ。

上野さんのご意見に概ね賛成だが・・・ - 金融翻訳者の日記

1. 佐藤さんから鈴木へ
この件については鈴木さんのご意見には賛同できません。これだけコロナ感染が広がり、医療現場は逼迫し、助かる命が亡くなっている状況に五輪の強硬開催は直接、間接含めて影響していると思います。そのことは開催前から予想できたことだったと思います。五輪に参加した選手も社会の一員である以上、いま何を優先させないといけないか考えないといけなかったのではないでしょうか?開催が決まる前であろうと、決まった後であろうと上野さんのように「開催を止めるべき」と言い続けることは必要だと思いますし、参加選手にもそのことに賛同してもらいたいと訴えることは酷でもなんでもないと思います。本来だったら何百人もいた日本選手の中から五輪開催に疑問を表明する人が何人かいてもよかった(アスリート側の人間で開催に疑問を表明したのは山口香JOC理事くらいだったのでは?)。でも、そんな選手は一人もいなかったように思います。とてもおかしなことだと私は思います。人の命を優先させるという当たり前のことをなぜ考えられないのか、とても残念です。

2.鈴木から佐藤さんへ
佐藤さん、ご意見ありがとうございます!いろいろな意見があってよいとおもいます。
ただ、一つお伺いさせてください。佐藤さんは、開催が決定してしまったオリンピックに関して、選手に対しボイコットすべきだという世論を形成すべきだったと思われますか?あるいは、参加した選手を応援すべきではなかったと思われますか?さらに言えば、参加した選手を非難すべきだと思われますか?
この場は論争の場ではないと思いますし、問題は微妙なのでお答えいただく必要はございません。ただ僕はこういう疑問を抱いている、と言う点だけご理解いただければ、それで結構です!!

3.佐藤さんから鈴木へ
私は選手に対してボイコットすべきだという世論を形成すべきだとは思いません。ボイコットするしないは選手が決めることだからです。ただ、コロナ感染が広がる今の状況下にいたら五輪開催に疑問を表明するのが真っ当なことなのではないかと思います。その意味で、選手の中で一人も開催反対の声をあげなかったことは異常だなと思いました。また、同様に参加した選手を応援すべきとも思いません。実際、五輪の放送も観ませんでした。コロナ感染が急拡大しているなかで東京五輪開催はありえないと思っている自分としては放送を観る気にも、選手を応援する気にもなりませんでした。

4.鈴木から佐藤さんへ
もう1点。佐藤さんも僕も、そして日本国民の過半数東京オリンピックに反対していた。にもかかわらず東京オリンピックは開催されてしまった。
その現実を前にして、東京オリンピックに参加しているアスリートを、参加しているという理由でさらに非難(あるいは冷たい目を向ける)するとしたら、それは東京オリンピックを阻止できなかった我々がアスリートたちに責任転嫁をしていることになると思われませんか?(僕はそう思っています)(これもお答えいただく必要はありません。半分自問自答です)。

5.佐藤さんから鈴木へ
アスリートを非難するのは責任転嫁だとは思いません。上にも書いた通り、私は選手にボイコットを強いたり、選手のみに開催による災禍の責任を押し付けようとは思っていません。ただ、「いま、何を優先させないといけないのか、そうしないと国民の命が危険にさらされてしまうかもしれない」ということを少しでも考える選手がいてもいいのではなかったかということは強く思います。その意味では何も考えていない(ように見える)選手たちのほうこそ、責任転嫁していることになるのではないでしょうか。「責任転嫁」というよりも「責任放棄」というべきでしょうか。

6.鈴木から佐藤さんへ
佐藤さん、あ、そうそう。「選手の中で一人も開催反対の声をあげなかったことは異常だなと思いました」。僕もそう思います。でも選手も何か言いたかったんです。でも言えなかった。そのことはオリンピック後のNHK放送で、実は少なからぬ選手が「自分はオリンピックに出ていいのか?」と悩んでいた声を拾っていて確信しました。むしろ異常なのは「そういう声を上げさせなかった」オリンピック村、ひいては日本社会の空気ではないかと思った次第です。

7.佐藤さんから鈴木へ
「自分はオリンピックに出てもいいのか」と悩んだ選手は悩まない選手よりもまだましかもしれませんが、結果的に出ているのであれば同じことなのかと思います。圧力をかける周辺が存在するのはわかりますが、目に見える行動を起こした選手が皆無だったことは異常に見えます。このことはもっと選手自身で深く考えられていい問題だと思います。そうでなければ「責任放棄」と言われても仕方ないと思います。

8.鈴木から佐藤さんへ
佐藤さん、ありがとうございす。佐藤さんとの対話を通じて一つ気がついたことがあります。

それは東京都庁の役職員(以外にも官民問わず多くの方がかかわっていらっしゃるでしょうが、一応彼らを関係者の代表的な集団とみなします)、なかでも東京オリンピックを担当している東京都の役職員の皆さんも、本人がそもそもその職務を選んだかどうかは別にして、アスリートと同じような立場にあるのではないかということです。

彼らも個人的には様々な意見があるでしょう。しかし少なくとも私は、東京オリンピックに公然と異を唱える東京都職員の声を耳にし目にしたことはありません。この事態は異常か?当然異常でしょう。自分の職務とは別に、一人の市民としての意見を持ち、当然世論と同じ程度の反対意見の東京都役職員も存在し、それを公に述べる権利は彼らにもあったはずだからです。でも誰一人声を上げなかった。彼らは異常か?僕は彼らの多くを異常だとは思わない(もちろん、このオリンピックは市民の命を犠牲にしてもやる意義があるのだと考える文字通り異常な人もいるでしょう)し、責める気にもならない。

東京オリンピックの開催以前ならともかく、開催が決まってから五輪関連業務の当事者にその職務への参加の是非を問うのは酷だと思っています。彼らには「ご苦労様でした」と慰労したい。

同じことはボランティアのスタッフにも言える。先日のNHK特別番組で「東京オリンピックに対する賛否はともかく、開催されてしまう以上、目の前に苦しんでいる人がいたら助けるのは我々の役目」と仰っていた東京オリンピックのボランティア医師団の方も同じです。患者を目の前にしている彼らに「あなたはそんなことをしている暇があったらコロナ対策に時間を取らないのか?」とは言えない。当事者にその判断を求めるのは無理だし酷だ、その意味で彼らもアスリートと同じ立場に立たされていたと思います。
異常なのはむしろ彼ら(東京都職員やボランティア)にそういう声を出しにくくさせている東京都庁のトップの醸し出す雰囲気だと考えます。

最後に、山口香さんの件。彼女は五輪後に選手達を讃えて「変節した」と批判されていたようですが、僕は東京五輪に反対していた山口さんも、その後に日本選手団の検討を讃えた山口さんもその立場を支持しています。その点についてはすでにブログに書きました。

長々とお付き合いいただきありがとうございます。結構頭の中が整理できました。佐藤さんに感謝です。ご意見どうも有り難うございました!

山口香さんの姿勢を支持します:東京オリンピックの開催に反対。ただし参加した選手たちには喝采を送りたい② - 金融翻訳者の日記

 

ここまでです。貴重なご意見をくださったばかりか、この場へのシェアにご賛同いただき、どうもありがとうございました。今後ともご意見・指導のほどよろしくお願いします。