金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「受験テクニック」とAIの類似性(2019年9月)

(以下引用)
指示語やゼロ照応(同じ事を繰り返さないために「それ」「これ」などの指示語で置き換えること)が文章に出現したときに、何を指すのかわからなければ正確に読み進めることができません。照応先を正しく認識することを照応解決と呼びます。
……
ところで、AIは照応解決をどう解くのでしょう。AIは文章の意味を考えながら照応解決するわけではありません。大量の文章と教師データを学習して答えを導きます。その中に、比較的単純な方略がいくつか知られています。まず、「その国」と書いてあれば、指しているのは国に決まっているので、文中から国名を探す。また、「それ」と書いてあれば、直前に出てくる名刺を指すことが多いので、直前の名詞を選ぶ。この2つだけで結構当たる、と言われています。
それでも、なかなか解けないような文もあります。
1とそれ自身以外の約数を持たない、1より大きな整数を素数という。(引用ここまで)
(『AIに負けない子どもに育てる』P85-86 新井紀子著、東洋経済新報社

*いわゆる「受験テクニック」ってAI的なのだな、というのが最初の感想。つまりそれで身につけられる“力 ”だけを養っても読解力が身につかず、その力に頼ることが期待される分野はAIに置き換えられることを示唆している、と思った。

単語カードで単語を覚えることはそれ自体意味のないことではないが、それだけでは読解力は身につかない。でもそういった類いの暗記(語呂合わせによる年号の暗記なども含まれる)だけでも試験でそこそこ良い点を取れるので、情報化の進展とともに、基礎的な読解力を身につける必要性に迫られないままで大人になる人が増えてしまったのではないか、と著者は問題提起している。

本書の後(P166)で、RST(リーディングスキルテスト)のドリルを使って読解力を鍛える自治体が現れたことを著者が嘆いているのは示唆的だと思った。

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