金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

見知らぬ人の親切に感謝(落とした財布を拾い主が直接送ってくれた話)(2015年11月)

一昨日の朝8時頃に電話があった。

取引先にしては早いなと思って出ると次男だった。次男は毎朝7時に家を出て8時に予備校に着いてシャッターが開くのを待ち、授業が始まるまで自習する習慣である。

「お父さん、財布をなくした」。

入っていた物は現金1000円札1枚と小銭、スイカ、保険証、予備校の学生証と入館証、家の鍵。9時からの授業に出るのはあきらめ(入校以来初めての欠席)、津田沼駅に届けて西船橋経由で西葛西まで戻り、事情を話して帰宅。スイカは再発行すればよいし、現金の損失も大したことはない。気になるのは住所の入った証明書と家の鍵を一緒に落としたこと。2日たっても見つからなかったら家の鍵を取り替えるしかないな、と話しているところに次男帰宅。

経済的には大した損失ではないのだが、時期が時期だけに「大事な物をなくした」ことの方が本人にはショックらしい。何しろ受験生なもんで。「受験日の当日じゃなくてよかったね」「今『落ちて』おいてこれはむしろ運が良いぞ」な~んて類の慰めの言葉をかけているうちに本人も気を取り直す。西葛西-津田沼間は営団地下鉄、JR、東葉高速線の3社乗り入れなので3社の落とし物係に電話をかけて「みつかってない」ことを確認して午後からの授業に行く。昨日の朝も再び3社に電話しても届けはなく、再発行を決意。予備校に向かった。

昼過ぎに管理組合の事務所に出向いて家の鍵交換をしたい旨を告げて業者を紹介してもらい、「日曜日に連絡しても来てくれるかなあ」と思いながら1階の郵便ポストを除くと「レターパックライト」の封筒が入っている。宛先は次男。差出人は・・・空欄。ピンと来た。

家に戻って「これもしかしたら財布じゃないか?」財布にしては薄い気がしないでもない。本人宛の郵便は原則開けないことにしているが緊急事態ということで開けて見ると・・・財布が開いた状態で入っていた(折りたたみ財布なんです)。お金も、証明書も、家の鍵も全部そのまま。「お~」妻がすぐ次男に電話(次男は予備校で自習中)。スイカの再発行は終わっていたがそれ以外の手続きはまだだった。

夜に次男が帰宅。「いったいどなたなんだろう?」字の感じからすると高校生のような気もする。「あたしは社会人1年生の人じゃないかと思うな~。警察とかに届けると手続き面倒だし、すぐ必要だと思って送ってくれたんだよ、きっと」「世の中まだまだ捨てたもんじゃないね~」「この封筒取っておこうぜ」などと話ながらとりあえず亡き父の遺影の前に置く。次男「誰にお礼言ったらよいだろう?」「とりあえずおじいちゃんにお礼言っとけ。おじいちゃんが返してくれたんだよ」「そうだねえ」チーンと鈴を鳴らして手を合わせる次男。

・・・そこで気がついた。昨日は亡き父の誕生日だったんです。

(後記)現在社会人の次男は、予備校時代はかなり真面目で、1年間のうち結局休んだのはこの日(財布を落とした日)の午前だけでした。それ以外は1日も、1時間の授業も休まずに予備校の全授業に出席にし続けた(IDカードで出席状況がすべて保護者に報告されていました)。あれから6年たちますが、私は今でも名もなきこの方に感謝しており、毎朝お礼を言っています(2021年11月15日記)。