金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

音声入力による翻訳を2週間経験して(2020年6月29日段階での感想)

音声入力で翻訳をしようとすると、「話すほど早くは訳せない」という感覚、というか「頭が口に追いついていないような感じ(頭と口がどこかでずれているような感覚)」がしてしまう。かつての僕がまさにそうで、音声入力の技術が発達していなかったこともあって諦めていたんだけれども、今回その意識が変わりました。「頭が口に追いついてないような感じ」は錯覚だということに気がついたのだ。

翻訳は通訳ではないので「話すスピードで訳す必要はない」というのが現時点での僕の結論だ。つまり「話すほどのスピードで訳す」のではなく、「自分の翻訳に合わせたスピードで節ごと、句ごとに頭の中で訳した結果をゆっくり声に出して読めばよい」と考えるのだ。

英文を追いながら、日本語にしたい節(〈名詞節〉〈形容詞節〉〈副詞節〉)句(〈名詞句〉〈形容詞句〉〈副詞句〉)ごとに、ゆっくりと読んでいくと画面上に翻訳が現れてくる。もともと読む方がタイプ打ちするよりもずっと速いので、翻訳を前提に読むと意識すれば、スピードがいかに遅いかが分かってくる。少なくとも僕はそうだ。

2週間ほどの間に少しずつ慣れてくるに連れて気が付いたことがある。それは翻訳という一連のプロセスにおいて、タイプ打ち作業がいかに大きな割合を占めているか、言い換えれば、タイプ打ちがいかに大きな負担になっているか、ということだ。このことはつまり、タイプ打ちをしなくて済むようになった分、翻訳という知的労働にかなり時間を割けるようになった、ということを意味していると思う。

問題は漢字等の変換だ。今は技術が発展して、新聞で見かける漢字や外来語のカタカナへの変換は無理なくしてくれる(昔のアプリではこれがなかなかうまくいかず、いちいち返還しなければならなかったので、結局手打ちのほうがいいということになってしまった)。ただし日本語は同音異義語がたくさんあるので、口頭でさまざまに変換できれば便利だと思う。その方法は今のところ分からないのだが、口述筆記をしながら変換の必要な箇所に来たらワンクリックして手書きに戻し変換し、またワンクリックして口述筆記に戻すという手間をかければそれは可能である。しかも、もともと音読のスピードが手書きよりもずっと早いので、それだけの手間をかけてもタイプするよりも速いというのが僕の実感である。

もちろんこうしたことは、タイプ打ちのスピードと、口述のスピードによって変わってくるはずなので一概には言えない。僕もいろいろ試しながらこのやり方に慣れていきたいと思う。少なくとも僕の場合には、上のような手間暇をかけても、口述による翻訳の方が明らかにタイプ打ちよりも速いし、また指を余計に使わないので疲れない。

ちなみに僕は本日、自分の書いた原稿(翻訳ではありません)をある所に提出したのだが(これはあと2週間以内に公開できると思います)、非常にらくらく感覚的にはずっとゆっくりしたスピードで、かつ結果として手書きよりもずっと早く原稿が仕上がりました。

まだ実験のような段階なので、今後の感想も変わってくると思いますが、とりあえず音声入力による翻訳を始めて2週間の現段階での感想をここに書いておきます。

なお、音声入力のいいソフトはないかと探していたのだが、結局はWindows備え付けのアプリで充分ではないかという気がする。僕はWindows10なのだがWindows11に切り替えれば言語の選択もできるし便利ではないかな、と。