金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「ワン・ツー・スリーで『よかったね』日記」(相方より)(2018年12月6日)

1.毎晩、寝る前に「今日はどんないいことがあったかしら?」と考える。3つ思いつくようにする。素直にいいことがあればそれにする。みつからないなと思ったらどんなことでも「いいこと」にしてしまう。たとえば「今日失敗しちゃったな」と思ったら「あ~こういう失敗ができてよかった。次はそういう失敗をしなくてすむもんね」と考える。

そういう風に考えていくと気持ちが段々明るく、ハッピーになってくる。3つ思いついたら覚えておく。思いつかなくても気にしない。「あ~すてきな気持ちになって眠れて幸せだわ」と思えばいい。
・・・と思っているうちにいつの間にか寝る。

2.朝起きたら最初に、昨晩考えた「よかったこと3つ」を書き出す。書き終わったら1日の活動の始まり。「明日もよかったね日記が書けますように」と願う。どんなことでもプラスにこじつけるので絶対書ける。だから心配ない。
・・・「って毎日やると、まずプラス思考になるよ。それと、寝るときにハッピーな気持ちになるし、『よかったことを覚えておこう!』って思うから老化防止になるし、朝一番に書くので『今日も楽しくやろう!』って前向きになれるよ。お父さんもやってみたら?」「はは~」

たしか1カ月前ぐらいの天声人語で紹介されていた介護士さんのお話にヒントを得たみたいです。「ワン・ツー・スリーで『よかったね』日記」は相方の命名です。

よろしければ、あなたもいかが?(僕はまだ試していませんが)

(後記)僕は今もつけてません(恥)(2023年12月6日)

学卒はポテンシャル、院卒は成果物

ウチの息子、昨日インターン先の先輩(学卒で就職、その後借金して留学)から「院卒なら成果物を見るけど、学卒ならポテンシャルだから、卒業して就職なら『何を学んできたか』を重視した方がいいよ」と言われて帰って来た。なるほど文系と理系は違うなと感心した次第。いや、昔と今の違いかも。

「何も足さない、何も引かない?」(2018年11月)

翻訳とは「何も足さない、何も引かないこと」と言われてしまうと、すくんでしまう。

言いたいことは分かるけど。

せめて、

著者の見たまま聞いたまま言いたいことを母語にするときに「何を足すか、何を引くか」を考えて表現すること、と言いたいな。

出版翻訳雑感

ここ3日ほど、書籍中心の生活を送ってきた(要するに、実務翻訳が暇だったということです)。毎日5~6時間やっていて、なるほどこのペースなら3カ月で1冊は行けるかなと思いました。ただ勝手知ったる(調べ物は確認が多い。調べるポイントも分かっている)実務翻訳とは異なり、書籍の場合、引用文については極力原文を当たるし、訳書があれば取り寄せて、場合によっては全部読む必要があるので、単にワード数でパッと訳すわけにはいかない。引用文の前後を読む必要があるのと、訳書がある場合は訳文の確認をどうしてもしておきたいからだ。

これは僕の印象だけど、原文(原著)はたいていネットで見つかる。特に古い(10年以上たった)本の場合はまず100%ある。新聞雑誌もある程度年数がたっているとほぼ全部読める(アーカイブは公開しているのかな?:未確認)。

訳書は、自分の英文の理解が正しいかの確認用で、自動的にそのまま使うことはない。あくまでも参考程度にとどめる。ただしその訳書を読む人もいるだろうから、そのまま使えるのであれば使うようにするし、似たような文体にするとか工夫はします。越前先生の書籍などを読むと、文芸翻訳の場合は既訳をほぼ絶対視しているような印象を(僕は)抱いていますが、ノンフィクションは村井章子さん方式、つまり「自分が理解した英文をわかりやすい日本語にする」というスタンスが正しく、既訳にとらわれる必要はないだろうと思っている(ある学問分野で定訳が確立しているものは別ですが)。

そんなこんなで、訳している時間もさることながら調べ物が実務よりも多くなるので、1冊訳すとどんどん参考文献が増えていく。全部買っていたら結構金がかかるし、一行を確認するために一冊買うのももったいない。しかも初版を前提とすれば印税は安いので、まずは図書館で取り寄せます(我ながらセコい)。図書館にない場合、あるいは極めて重要で残しておきたい場合にのみ購入する。

お金がかかるということで言えば、僕は書籍を訳す場合は、英語のネイティブ・スピーカーにお金を払って(もちろん自腹です:『金融英語の基礎と応用』の時は1300強の英語原文の校正をお願いした関係で、編集部に交渉してお金を出してもらいましたが、あれは例外)質問をぶつけて答えてもらうようにしています。毎回、1冊いくらで契約して、わからない箇所につき意見を求めるわけです。

以上書籍翻訳に関する余談まで。今日から年末まで実務翻訳が忙しくなってくるので、気を引き締めないと。

よい1日を!

『英語原典で読む経済学史』(2018年11月)

根井 雅弘 著『英語原典で読む経済学史』(白水社)は面白い。

①現代経済思想史の専門家が書いている。
②大学受験英語で得たはずの知識や考え方を生かせないかという問題意識が根底にある。
③訳す時の基本は、英米人の頭の中の流れに沿って、なるべく日本語として素直に読める日本語にするにはどうしたらよいか、という視点に基づいている。
④かといって目的は翻訳家になることではないので、厳密な訳文訳語の検討までは踏み込まない。
⑤なぜこう訳すのかを考える時の参考書として、『英文法解説』(江川泰一郎著)、『翻訳英文法』(安西徹雄著)、『翻訳の技術』(中村保夫著)などが取り上げられている。
⑤1章ごとに経済学の根幹をつくった人たちを挙げ、その人の経済学における歴史的意味合いを説明した上で、代表的著作の一部を取り上げ、「興味があったら、旧訳を頼りに自分で読んでみて」という学習意欲を刺激する体裁となっている。
⑥「旧訳」は山岡洋一さんではなく、岩波文庫の「いわゆる直訳に近い」訳。しかしそれを馬鹿にするのではなく、英文の構成をしっかりとらえた見事な訳であると評価した上で、これを読んだ英米人となるべく同じ流れで読めるように日本語にしてみると、こうなる・・・と紹介している。
⑦書籍の体裁は、柴田元幸先生の『翻訳教室』を彷彿とさせる柔らかい語り口調で、ご自分の訳も「とりあえず自分としてこう訳してみましたが、どうでしょう?」という一歩引いたスタンスが好印象を与える。

・・・てな感じでしょうか。経済金融関係の方には強くお勧めしますが、英語は古くてかなり難しいので、分野違いの方は、書店で一度手に取ってから買うかどうかをお決めになればよいかも。 
書籍として絶妙なポジショニングだ。著者と出版社に拍手。素晴らしい。

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『ティール組織』が「日本の人事部 HRアワード」書籍部門の優秀賞を受賞

昨日のお昼過ぎ、編集後担当の英治出版の下田さんからご連絡があり、受賞を知った。

良い本だという確信はあったけれども、正直言ってここまで話題になるとは思っていなかった。訳している最中に、妻に「間違いなく素晴らしい本なんだけど、今回もたぶん売れないかも・・・」と言っていました(今、妻は「やっぱりお父さんの勘は当たらなかったね、いつも通り」と言っている)。

もちろん、これだけ話題になったのは時代の流れみたいなものが味方してくれたのだとは思うのだが、まずはなんと言っても、無名の翻訳者からホームページへの一通の「企画があります」メッセージを拾い上げてくださった、ご担当者下田理さんをはじめとする英治出版の皆様、そして本書の価値を早くから認め各種のセミナーで取り上げご紹介いただいた嘉村賢州さんのご尽力が起爆剤になったことは間違いなく、ここに改めて御礼申し上げたい。ありがとうございました。

また、昨日あわててツイッターフェイスブックでご報告したところ、多くの皆様からお祝いの言葉や「いいね!」をいただきました。ありがとうございました。

精進しよう。

 

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