金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

『英語原典で読む経済学史』(2018年11月)

根井 雅弘 著『英語原典で読む経済学史』(白水社)は面白い。

①現代経済思想史の専門家が書いている。
②大学受験英語で得たはずの知識や考え方を生かせないかという問題意識が根底にある。
③訳す時の基本は、英米人の頭の中の流れに沿って、なるべく日本語として素直に読める日本語にするにはどうしたらよいか、という視点に基づいている。
④かといって目的は翻訳家になることではないので、厳密な訳文訳語の検討までは踏み込まない。
⑤なぜこう訳すのかを考える時の参考書として、『英文法解説』(江川泰一郎著)、『翻訳英文法』(安西徹雄著)、『翻訳の技術』(中村保夫著)などが取り上げられている。
⑤1章ごとに経済学の根幹をつくった人たちを挙げ、その人の経済学における歴史的意味合いを説明した上で、代表的著作の一部を取り上げ、「興味があったら、旧訳を頼りに自分で読んでみて」という学習意欲を刺激する体裁となっている。
⑥「旧訳」は山岡洋一さんではなく、岩波文庫の「いわゆる直訳に近い」訳。しかしそれを馬鹿にするのではなく、英文の構成をしっかりとらえた見事な訳であると評価した上で、これを読んだ英米人となるべく同じ流れで読めるように日本語にしてみると、こうなる・・・と紹介している。
⑦書籍の体裁は、柴田元幸先生の『翻訳教室』を彷彿とさせる柔らかい語り口調で、ご自分の訳も「とりあえず自分としてこう訳してみましたが、どうでしょう?」という一歩引いたスタンスが好印象を与える。

・・・てな感じでしょうか。経済金融関係の方には強くお勧めしますが、英語は古くてかなり難しいので、分野違いの方は、書店で一度手に取ってから買うかどうかをお決めになればよいかも。 
書籍として絶妙なポジショニングだ。著者と出版社に拍手。素晴らしい。

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