金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「本1冊を3カ月で訳す」実体験

某書籍、本文と訳注で78,000ワードの一次訳が終了しました。ノンフィクションで、訳書としては22冊目になります。

編集担当者の方からは「多く見積もって9万ワード」とお聞きしていたので、「1日1000ワードで90日」を目標にしましたが、終わってみれば7月1日から今日までの95日間で計310時間。ならすと1日あたり翻訳時間は3.3時間。翻訳スピードは823ワードでした。大したことないように響きますが、他の仕事もあった中で(以前よりは忙しくはないものの、産業翻訳も手掛けていて、更にもう1冊の本の著者初校ゲラチェックが控えています)、時々休みながらも、毎日こればかりをやっていたというのが実感です。

出版社に電話した際、「そんなに早くできたんですか?」編集担当者の方に感動されました。しかし、初回の電話で「鈴木さん、できれば3カ月。遅くとも4カ月以内で」との切羽詰まった声を思い出すと、もしかしたら若干の「ブラフ」があったのかも。ま、それくらいのプレッシャーがあってよかったですけど。

他の仕事も進行中ですが、明日からは付録の翻訳に取り掛かります。

私にとって、ほぼ3カ月で1冊を訳し終えたのは大きい。

「本1冊を3カ月で?無理です」と、5年前なら即座に断っていました。産業(実務)翻訳者として「私には本業があるため、1冊の翻訳には少なくとも半年から1年、場合によっては1年半程度かかったこともあります」と出版社の方々に話すとドン引きされることも多かった。今回の本にしても、編集ご担当者とのお付き合いはすでに15年で、ご提案いただいた案件が5件ほど。うち2件は、僕から見るとあまりの短納期で泣く泣くお断りしていました(1件は同社の企画会議に落ちて他社に持ち込みました)。ですから今回が実質的には2件目。なかなか実にならないのに忍耐強く僕に付き合ってくれたご担当者には感謝の念しかありません。

そう、産業翻訳者の私にとっての出版翻訳は、あくまで「趣味」だったのです。

tbest.hatenablog.com

でも、今、その考え方は変わってきた。年齢を重ね、子どもたちも大きくなり、金銭的にもそれほど困窮しなくなった今(別に金持ちでもないすけど)、翻訳を楽しむ日々を送りたいと思う気持ちが強くなった。そう考え始めた矢先に今回の仕事の話が舞い込んできた。これまでの僕の常識からすれば「不可能」な短納期でしたが、ベテラン出版翻訳者でヒット作を次々と出されているの方に「1日にどれくらいの時間を使い、何ワード訳すのですか?」等々相談した上で、この仕事を受けることにしたのです。

専業の出版翻訳者の方々の「1冊3カ月」という言葉の意味や重みを、この経験を通じて実感できた気がします。それは僕にとって大きな収穫であり、自信へと繋がったと思う(実際、日本語の見直しや付録の翻訳など、まだやるべきことは残っていますが)。

本が出来上がるまでは、まだまだ作業があるんですけれども、とりあえず節目を終えたので感想をしたためた次第です。