金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

物価に関するトリビア

昨日日銀が「マイナス金利」の導入を発表した。

 

マイナス金利とは何か、とかCPIとは何かは横に置き、翻訳の観点から予備知識として知っておくと有効な点を一つ、二つ。金融/経済関連以外の皆さんにとってはトリビアということで・・・。

 

(1) マイナス金利について
① マイナス金利欧州中央銀行(ECB)(2014 年6月)以外にもデンマークスウェーデンでも導入済み。
http://jp.wsj.com/…/SB1206370700937251453540458140673168326…

② 「マイナス金利」を感覚的につかむには、「一般に物を預けるとお金がとられる。そのモノがお金にも当てはまるようになってきた」と考えるとわかりやすいかも(今回は個人の預金には関係ないのですが)。なぜ私たちはお金を払ってでも物を預けてもよいとおもうのか?その時の預け先を考える時の判断基準は何か?同じことをお金について考えなければならないとしたら、自分のお金の置き(預け)先として何を基準にどこを考えるべきか?・・・そんなことを考えておくとよいかも。

 

(2)消費者物価について
① 日銀が目標にしている「2%」の消費者物価上昇率とは総務省の定義している「コアCPI上昇率」(CPI-生鮮食品)のこと(総務省の定義については↓を参照)。これを一応「日本版コアCPI」ということにする。

② 一方、欧米等で「Core CPI」と呼ばれているのは、概ね総務省の言う「コアコアCPI」(CPI-(食料(酒類を除く)とエネルギー))のことです。
http://www.stat.go.jp/data/cpi/4-1.htm

③ したがって、「『コアコアCPI』は『コアCPI』からエネルギーを除いた指数ではない点に注意してください」と『金融英語の基礎と応用』の翻訳メモで書いた(p19)。

④ ところが昨年11月から日銀は「日本版コアCPI」からエネルギー価格を除いた「日銀版コアコアCPI」(CPI-(生鮮食品とエネルギー))の発表を始めた。これは『金融英語の基礎と応用』の原稿では(タイミング的に)追いきれていません(原稿締め切りはギリギリ10月だった)。
http://jp.reuters.com/article/boj-core-idJPKCN0T90BG20151120

⑤ 以上をまとめると、今の日本には4つのCPIがあることになる。
(a) 総合CPI
(b) 日本版コアCPI(日銀の物価目標であり、総務省の定義とも合っている)
(c) 総務省版「コアコアCPI」=欧米のコアCPIとほぼおなじ定義
(d) 日銀版「コアコアCPI」

⑥ この辺の言葉づかいは結構面倒で、英語のリポートなどを読んでいても、アナリストがこんがらがっちゃっていることがあるので(年度もそうですけど)翻訳者は日本に関してCore CPIという表現をみかけたら「どれ?」と確認する必要があります。

⑦ とまあ、「コア・・・」と書き始めるといろいろ面倒なことが多いと感じたのか、昨日の日経新聞(夕刊)も今朝の朝日新聞も「コアCPI」という言葉を一切使わず、「生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)上昇率の見通しを従来の1.4%から0.8%に下方修正」という書き方をしていました。

⑧そこで実務翻訳者としては今後日本の金融政策に関するレポートが英語で出た場合にCore CPIとあったらその内容を確認した上で、上の日経のような表現を目指すことにしよう(顧客と相談してですけどね)。

⑨英語の原文はECBのマイナス金利から取り、訳文を直して上のような「翻訳メモ」を書く(書き直す)・・・という感じで改訂が進んでいくといいのになあ

 

・・・昨晩から今朝の新聞を読みながら、日本経済はどうなるだろう?ではなくテメエの本の先行きを考えてしまった私です。