金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

自分は子どもからどう見えているのか?(2018年2月28日)

おはようございます。

出会った言葉:本日は「リアル」2題。
誰もが未来を見通せないから、言葉に詰まったり、表情が曇ったり、行動に迷いが出たりする。人生のリアルはその不確定にある。
(「折々のことば」本日付朝日新聞より)

眉間にしわを寄せて涙を流しても、悲しみの表現にはならない。リアルな人間の振る舞いはそんな単純じゃないですよ。芝居を見て笑っていたはずが、気がつけば泣いている。そんな喜劇をどうしてもやりたくなりました。
小松政夫「人生の贈り物」本日付朝日新聞より)

今朝の翻訳ストレッチ:5:55~7:05までの70分
「春秋、天声人語」『第六 折々のうた』『20週俳句入門』(第6週)(以上音読)『世紀の空売り』『浮世の画家』(原書と訳書音読)『翻訳力錬成テキストブック』(以上学習)(30分)
『公式TOEIC L&R 問題集3』テスト2 Par3、Part7(176-195)(40分)

何かをしたこと自体を忘れてしまうのは痴呆の一症状だと何かで読みましたが、していないことを「した」と確信していたのもその一種なのだろうか?

一昨日に次男の分のTOEIC受験票が届いていて僕の分が来ていなかった。申し込みはバラバラ(のはず)だったので1日ぐらい遅れるかも知れないと思ったが昨日になっても来ない。「ETSに電話しよう!」と言ったら息子が「そんなのETSのホームページで『申し込み履歴』で確認できるよ」。で、見てみたらない!
「申し込もう!」と思ったのは事実なので、ホームページまで行った後で他のことをすることを思い立ちそのまま忘れてしまった・・・というのがたぶん真相だろう。でも何かいやだなあ。年に1度MRI検査を受けているので次回の検査の折に聞いてみることにします。
申し込みをしていないことが判明したとき、息子から言われましたね。
「お父さん、お金使うことあるの?」
「え?う~ん・・・」
「本代とマッサージ代ぐらいじゃない?」
「ああ、そうかも・・・いや、飲み代」
「前回休んだのいつ?」
「ええっと・・・1月3日」
と話していたら、横から相方が
「お父さんは、仕事と遊びの区別がつかないんだよ・・・」
ということを聞いてか聞かずか、息子から
「ちょっと休んだ方がいいんじゃない?」
「ああ、そうだね・・・今の本が終わったら」
「いつもそうだもんね」と妻。
その後しばらくしたら、息子(この春から大学3年)が・・・
「就活考えなきゃなあ・・・」
マジで、自分は子どもたちにどういう影響を及ぼしているんだろうと思いました。
いいとか、悪いとかじゃなくて。
よい1日を!

グリーン組織に傾きかかった頃

今思うと、あれは私のいた会社が「多元型<グリーン>組織」になりかかった瞬間ではなかったか。

1997年、N證券が総会屋がらみの不祥事で社長が交代した折、各営業店の予算が廃止された時期があった。「あの」N證券でだ。

支店長の人事評定も人事部から切り離し、営業担当役員の合議で決めることにしたのだ。当時、僕は営業企画部の営業企画課長。部長のFさんや営業担当取締役の間の「廊下トンビ」としてその実現のための下働きをしていたのである。

米国の大学院を卒業し、まさに棚からぼた餅式に常務から3段飛びで昇進した当時のU社長は部店長会議の席で断言した。「お客さまのために努力した結果として収入はついてくるものであって、上から押し付けるものであってはならない」と。社員の人事評定システムも根本から変わった。やはり、今から振り返ると一歩グリーン組織に近づこうという意志が(動機はともかく)働いたのだった。

収支予算をなくす。

これは当時としては革命的な判断で、感覚的に言えば、当時の会社は一瞬静かになり、その後に若手を中心に称賛の嵐が起こり、部店長クラスは困惑し、半信半疑ながらも事態を前向きに飲み込んだと思う。しかしそれから3年ほどたって、現場(つまり支店長)から「収入予算を復活してくれ」との声が強くなり結局元の収支予算方式、人事評定方式に戻ったのだという(僕は不祥事が発生し、新方式になってから一年後に退職した)。上からの命令をひたすらやり遂げるという文化から抜け切れていなかった。一見理想型がてきたけれどもいったいどうすればよいのかがだれにもわからなかったのではないだろうか。だから根付けなかった。時代もあったのかもしれない。

(以上の記述は私の記憶の限り、事実だと思って書いているが思い違いはあるかもしれない。文章責任は私にある)。

特に日本の会社は世間体を気にするので、自分の会社がよほど大きな危機に瀕するか(当時の野村はまさにそうだったわけだが)、ティール組織が実際に業績を伸ばしているのを目の前にしないと、特に大きな会社がそちら方向に動きにくいのかもしれない。そして動いても定着までには相当の時間がかかり、根気もいる。僕がその動きを目の当たりにして思ったのは、トップの号令一下は必要だが、十分条件ではない、ということだ。

本当の目利き ー 『ティール組織』(原著)を発見した人

今月初めにJ社Oさんをお食事にお誘いした。

 元々『ティール組織』の原書を発見し(著者は自分で作った出版社で原著を出しているので、ほぼ自費出版。したがって出版直後はほとんど注目されていなかった)、「鈴木さんどう?」と言ってくれた編集者だ。

Oさんは以前私が訳した書籍を担当され、「なかなか良い翻訳書の候補がなくて・・・」とおっしゃりながら、出版後も時々連絡をくれていた。2014年の『世界でいちばん大切にしたい会社』(ジョン・マッキー著、翔泳社)をお読みになり、僕に合うと思って提案してくれたのだ。

ちなみに『世界でいちばん大切にしたい会社』は、先頃アマゾンに買収されたホールフーズマーケットの創業社長ジョン・マッキーが

「人は食べないと生きられないが食べることが生きる目的ではない。ビジネスも同じだ。利益を上げなければ生き続けられないが、利益を上げること自体が目的のはずがない」

という考え方でアメリカで創業した会社の経営理念を解説した書籍だ。組織論ではなく経営論で、その基本的な思想は原著のタイトルに著されているとおりConscious Capitalism、つまり「意識の高い資本主義」。ただし各支店ではほぼ完全な自主経営[セルフ・マネジメント]が徹底されており、『ティール組織』内では多元型[グリーン]企業として紹介されている。

さて本書の原著Reinventing Organizationをザッと読んで感動し、この本はホールフーズマーケットの次の段階の組織について語った書だと確信した僕は、すぐにReadingレポート10枚を気合いをいれて書いたのだが、Oさんの熱意にもかかわらずJ社の企画会議を通らず、二人で残念会をやったのが2015年の春。

 その時、あまりに悔しいので

「他社に持っていってもいいですか?」と切り出した。するとOさん、あっさりと

「どうぞどうぞ。僕も悔しいからこの本どこかで花を開かせてほしいです。ウチの社名さえ出さなければ」。

 との返事。

「どこだろう?」

「この手の良書をじっくり育てる姿勢を持っているのは英治出版さんだと思います」とこれもOさん。

ところが私はもちろんOさんも英治出版に何の伝手もなく、突然の電話もどうかと思ったのでホームページの「読者お問い合わせ」ページから「・・・こういう企画がありますが」というメールを送って今に繋がったわけだ。最初に連絡をくれたSさんがすぐに対応してくれて、メールを送った二週間後ぐらいにはゴーサインがでた。もちろん、応募の段階から「これは他社(社名は明かせません)の企画会議で落とされた案件です」と伝えてある。英治出版さんはそれを承知で検討し、結論をだしてくれたわけだ。最初に応対してくれたSさんがそのまま本書の編集担当になった。

「さすが英治出版さん。大英断です!!」とOさんは我がことのように喜んでくれた。

 それから二年半。いよいよ本も出たのでお礼の会をしたいと僕からOさんに申し入れた。Oさんが現在、さる超有名人の著書を手がけている関係で食事会は会社の近くの、Oさんの行きつけの店ですることになり。昨日午後6時に同社を訪ねた。

時間ちょうどに会社に着くと、Oさん社屋の外でソワソワと僕を待っていた。

 「鈴木さん、何度かメールをお送りしたんですが・・・実は紹介したい人がいます。もう出ちゃうんでちょっと急いでもらっていいですか?」

「あれ?」

実は僕はスマホの電源が切れていたので気がつかなかったのだ(恥)。

会議室に通されて「ちょっと待っててください」と慌てて出て行くOさん、二,三分すると若手のバリバリ陽性営業マンみたいな方が、

「なになに、O、新しい企画?・・・ああ、どうも編集部長のMです」

と私に気がついて名刺をくれる。Oさんは手に『ティール組織』の原書をお持ちだ。

この瞬間に、僕はシチュエーションと自分の役割を理解した。

「実はMさん、先週ある話題の翻訳書が出まして」とOさん。

役割が分かっている僕はすかさず鞄から『ティール組織』を取り出し、「スミマセン、これOさんへのプレゼントで、まさか部長にお会いできるとは思っていなかったものですから」と怖ず怖ずと差し出す。

「あー、これ見たぞ!紀伊國屋にもガンガン積んであった本じゃないか。英治出版さんね。日経新聞にも広告出てましたよね」
「そうです」とOさん。「実は原書がこれでして・・・」
と言ってこれまでの経緯の説明を始める。M部長は赴任して2年。現状は翻訳書は消極的だ、と聞いていた。

「・・・そして、これがその時鈴木さんが当社に提出された企画書(Readingのレポート)です」

「う~ん・・・」と『ティール組織』と私のレポートを代わる代わる眺める部長。

「・・・まあ、そういうわけで鈴木さんに今日、これをお持ちいただいた次第です」
「前回Oさんと食事をさせていただいたのが、その企画会議を落ちたときでして、今日がそのお礼の会なんです」と合いの手を入れる僕。
「あ~、そうだったのかーーーー!」と部長。
「いや、何しろ当時の企画会議では『今は組織物は受けない。ましてや翻訳なんてもってのほか』と言うスタンスで・・・」と当時の社内事情を説明するOさん。
「そうだったんですか、O、お前も悔しかったろ」
「そりゃ、悔しかったです。そして、今はもちろん嬉しいですが、悔しい気持ちもあります・・・でも良かった」
「鈴木さん、私はいろいろな分野に目を広げ、広角打法のつもりなんですが、うまく絞り切れていないという悩みもありましてね・・・でもこういう本、さすが英治出版さんは長期に物を考えてるよなあ」
「実は私は本業が金融翻訳なので、出版翻訳にはなかなか時間を割けず、出版社の方とお会いしても、『本業があるので1冊訳すのに半年~1年ぐらいかかります』と言うと名刺交換した瞬間にどん引きされる編集者の方も多いのです」と僕。

こっちもせっかく編集部長に会えたので、「今後何かにつながるかもしれない。チャンスだ!」と思いつつも、できないことはできない(専業の出版翻訳者の方のように「3カ月に1冊なんて絶対無理」)という点ははっきり言っておかないと、という思惑も働く。

「それも分かります・・・しかし、本当にいい本、価値のある本を見きわめられれば時間がかかったって構わないわけです、なあO」うなずくOさん。
「僕は貴社の企画会議を落ちて英治出版さんに拾っていただいた話をいろいろな所で書いたり話したりしています。Oさんが『社名は出してくれるな』と仰ったので、約束は守っていますが、自費出版に近い形の本を見つけ出して『これしかない!』と三年前に気づいた話、企画会議を落ちた後に英治出版さんのご英断で出版が決まった経緯は、既に美談だと思います。その中で『いったいその目利きは誰なんだ?』『それは言えません』てな会話もあるぐらいで」

そしたらMさん。
「え~、お前そんなこと言ったの、O?」(「いや、当時は色々関係者もいまして」)・・・鈴木さん、名前出しちゃっていいですよ。どーんどん言っちゃって!こいつを売り出してやってください」

という思わぬ展開に。

その後お店まで行く道すがら、Oさんからは

「鈴木さん、鈴木さんを利用したみたいになっちゃってスミマセン。あの経緯僕一人で話すよりも、鈴木さんが証人になっていただいたので、おかげさまで部長の僕に対する評価もバッチリアップしたと思います。翻訳書の道も開けるかも。本当ありがとうございました!」

で、食事会は、僕が奢るはずが、超上機嫌のOさんが「鈴木さん、大丈夫大丈夫!」と結局僕は一銭も出さなかった。

おそらく日本でこの本を最初に見つけたのはOさんだ。なのに何の見返りも受けておられない。

何のお礼もできず、せめて食事でご恩返しをしたいと思っていたのだが、僕が行き、部長と会い、当時の話をしたことでこれほど喜んでいただけるとは思わなかったし、そう言ってもらえて嬉しかった。Oさんとの付き合いもかれこれ10年。数年前に一冊翻訳書をださせていただいて、次がこの『ティール組織』だった。これがきっかけでまた「一緒に仕事ができるといいですね」と言って別れた。

おそらく一生忘れられない、素敵な、素敵な夜でした。

ではOさんとは誰か?もう公開オーケーなのでお教えします。
編集をご担当された『接続詞の技術』石黒圭著の「あとがき」にこうある。

(以下引用)
「・・・接続詞がうまくなる実践編を書いてくれないかというオファーをいくつかいただきました。その中で実務教育出版第一編集部の岡本眞志さんの下で書かせていただくことにしたのは、『最初に依頼されたから』というだけの理由でした」
(引用ここまで)

やっぱり!

*参考までに、僕がReinventing Organization(『ティール組織』の原著)を1回読んだ直後(レポートを書く前)にOさんに送った感想メールの内容はこちらをどうぞ。

Reinventing Organization(『ティール組織』の原著)を1回読んだ後の感想メール - 金融翻訳者の日記

自慢せいや!(2018年2月)

(以下は、忙しさから逃れたい一心で書いたくだらない書き込みです。お忙しい方はスルーを・・・)

「できた~!!」

夕食後に何やらスマホをいじっていた息子(大学2年生)が叫んだ。大手予備校K塾(息子が浪人時代に1年すごした予備校)の「模擬試験採点バイト」のエントリーシート「志望動機」400字が書き終わったというのである。

「何やんの、数学?」

「いや英語」

理学部数学科なのに英語だって?

「単価が高いんだよ・・・それと受験数学と僕らの数学ちがうから」

「ふ~ん。じゃ、TOEICの点数(860)書いたよな、当然」

「書かなかったよ・・・」

「えぇーーーー?なんで?」

「だって・・・自慢になっちゃうじゃん」

おーまーえー、自慢していいんだ、自慢せ~よ、ジマン。エントリーシートにはさ~!

「・・・もう送っちゃったから・・。」

さすが、オレ様と同じ、奥ゆかしく謙虚で引っ込み思案な息子であると驚きあきれ感動した次第である。

おしまい。

ウォーミングアップの重要性

出会った言葉:
ウォーミングアップを単なる練習前の準備運動と考える人もいるけど、そうじゃない。その運動をどうすれば自分の体に良いか、試合につなげるか、先を見据えた意味を踏まえながらやるものなんだ。
(本日付日本経済新聞スポーツ面「33年目も毎日が未知」サッカー人として 三浦知良
今朝の翻訳ストレッチ:5:45~6:30までの45分
「春秋・天声人語」『世紀の空売り』(原書と訳書音読)『第六 折々のうた』『20週俳句入門』(第4週)(以上音読)『誤訳の構造』(以上学習)『スローカーブを、もう一球』(朗読)(ここまで25分)
TOEICテスト リーディングだけ300問』第3回テスト解き直し(ここまで20分)
*三浦さんの言葉に襟を正す。本日は夕刻に会食があるのでストレッチは短めに。
よい1日を!

本日は『翻訳事典2018-2019』発売日です。

え~皆さん、
本日は『翻訳事典2018-2019』の発売日です。
ハッキリ言っておきますが、今年の号は、土屋政雄先生(2017年のノーベル文学賞をお取りになったカズオ・イシグロ氏の主な翻訳者)の講演会の記事だけでも1冊分の価値があります。
・・・・ついでに、
私関連の記事もあります。 
①「長続きする翻訳ストレッチー毎朝、仕事前に、手広く、コツコツと」(寄稿記事)pp41-43
②「朝から晩まで翻訳三昧 好きなことをしているからフリーランス生活は楽しい」(インタビュー)pp88-89
③『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』読者プレゼント企画
お買い上げのほど、ひとつよろしくお願いします。
(情報開示)私はアルク社から報酬を得て上記の記事を執筆し、インタビューを受けています。読者プレゼントは英治出版さんのご厚意です。