金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

翻訳志望者の審査(2)ー「ぬるい仕事経験」が透けて見えた候補者(2013年12月)

たまたまこの1週間で7人の翻訳者候補の審査を請け負った。

7人のうち3人は最初から問題外で「なぜそもそも応募して来たのか?」と首をかしげたくなる答案だった。
(1)明らかに機械翻訳だった人が1人
(2)単なる英文解釈だった人が1人。
(3)翻訳をしているのだけれど、そもそも金融翻訳をしたことがないのが見え見えだった人が1人。もしかしたらどの分野の翻訳をしているのかがわかっていないのではないか、という日本語だった。

時たま登録希望者の審査を頼まれることがあって少しずつ慣れてもきているのだが、一番腹が立つのは姿勢が「ふざけている」と思う時で、上記3人はそれに当てはまる(僕が逆の立場だったら原文もらった時点で辞退します。僕自身、「金融」で某社に申し込んで送られてきた原文を見て、それが銀行の内部業務マニュアルだったものだから、「申し訳ありません。私の能力では無理」と謝って辞退したことあります)。そういうときは「ふざけている」と書きます。「この仕事をなめないで欲しい」とも。

(4)翻訳者として一生懸命調べているのだけれどもちょっと厳しい人が2人。
(5)QA(品質管理)でかなりフォローすれば半年ぐらいすれば使えるかもしれない人が1人。

そして、今日請け負った人は上6人とはちょっと違った。
(7)別の人が審査したのだが判定が難しいというので私の意見が求められたケースである。

英語をざっと眺め、日本語をさらっと読むと「お、わかってるじゃん!」という感じ。日本語を読む限りは何の問題もないように見えた。
ところが、英語と日本語を逐一チェックしながらみていくと・・・
会社の日本語表記を調べていない。
ちょっと込み入った権利関係の用語の理解が逆。
極めて重要な専門用語を訳していないか別の用語でごまかしている。
表記の統一が図られていない。
重要な主語述語関係を読み間違っている。

・・・というわけで修正記録を付けながら見ていったら1000語ぐらいのうち1割ぐらいが上記のような誤りで、そこを直すと他も直さざるを得なくなり、口調を整えたりもして結局4割ぐらい修正する羽目になった(もっとも商品ではなくテスト用の古い原文)。

翻訳会社に電話をかけて「この人はプロか?」と尋ねる。「結構経験はあるみたいです」。

本人は恐らく真面目な人なのだろう。答案にふざけている感じはなかった。これまでよっぽど温(ぬる)い、甘やかされた環境で仕事をしてきたんだろうと思った。難しいところを飛ばしたり、ごまかしたりしても何もいわれない仕事を繰り返しているうちに、全く悪気なくこういうことをするようになってしまったんだろう。こういう手合いが審査をすり抜ける。そしてこういう翻訳者が一番危ない。

でも私の判定は条件付き合格。少なくともこれまでの7人の中ではダントツにできる。この人落としていたら受かる人いないもん。ただし、「QAでちゃんとチェックしないと後でお客様からクレームになる可能性があるから要注意」と書いた。

フィードバックを本人に返してくれるそうですので、勉強してほしいと思います。

僕も他人のことを偉そうに言えない。気を引き締めないと。

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