金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

文体の決め

今週から始めた新たな書籍(約9万5000ワード、550時間予定。脱稿予定1月末)は、最初の打ち合わせの時に編集者の方から「文体を『です・ます調』にする可能性はありませんか?」と言われていた。「『です・ます調』の文章を書いたことはありますが、翻訳書では経験がありません」と答えた。「初めてだと厳しいかもしれませんね」と打ち合わせ(というかご挨拶の場)に同席された編集長。じゃちょっと訳してみてから相談しましょう、ということになった。

私の場合、3冊ぐらい前から、原稿が全部できてから送るのではなく、草稿(1回訳して2~3回見直し。疑問点等は残したまま)の段階で少しずつ(たとえば1章ずつ)担当者に提出して感想や問題点を指摘してもらっている。それで最後まで行ってしまい、2回目に細かい点まで見直して訳文を検討し、疑問点を可能な限り解決し、場合によってはネイティブ・スピーカーに金を払って(自腹ですがね)質問して(というか、ここ3冊はすべてそうしている)「前半ここまで」「後半ここまで」と原稿を仕上げて脱稿となる(その後初校、再校となるわけです=今週脱稿した本はこの初校と再校チェックにそれぞれ20時間以上かかったわけ)。

「はじめに」に当たる部分をざっと訳した(「だ、である調」)ので、試しにそれを「です・ます調」に直す作業をやってみる。最初から「です・ます調」で書いたわけではないのである程度無理があるのは承知だがとにかく元訳を直す方法で試してみたわけ。接続詞や漢字をかなり入れ替え(漢字をひらがなにするのも含め)できあがったものを見る。かなり読みやすい感じもする。で昨日提出。「です・ます調」意外と違和感ないなあと感じたのだが、今朝翻訳筋トレを始めたときに、もしかしたらそれは1日おきに『日の名残り』を音読しているからかも、と思ってもみたり(そろそろ3回目が終わります・・・とここまで書いたところで、1週間に1度『芥川龍之介短編集』も音読していることを思い出した・・・もっともこちらは全部「です・ます」調ではありませんが)。

検討していただいている間にこちらは「だ、である調」で翻訳を続ける。「です・ます調」だと私にとっては初めての経験になる。さあどうなるかな?

(後記:『Q思考――シンプルな問いで本質をつかむ思考法 』の訳を始めた時の書き込みです。2021年8月21日記)