金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

心に響いた言葉(6月11日「『ティール組織』探求セミナー 自主経営(セルフ・マネジメント)って何だ?」から) 

以下は6月11日に行われた

『ティール組織』探究シリーズ「自主経営(セルフ・マネジメント)って何だ?」堀田聰子×柳澤大輔×嘉村賢州 | Peatix

 

でなされた面白法人カヤック代表取締役CEO柳澤 大輔さんのご発言のうち、私の心に刺さった言葉のメモである。同社は「ティール組織」だと思う。

今回のセミナー、『ティール組織』の内容紹介の意味合いもあって、嘉村賢州さん(本書の解説者)、堀田聡子さん(ビュートゾルフに以前から密着し深く研究されておられる研究者、慶応大学大学院教授)から実にわかりやすい内容説明と解説、ビビッドな実例紹介が行われたのだが、私は本書の翻訳者なので、つい「本書に書かれていないこと」に注意が向きがちのメモとなっている。それが柳澤さんのご発言ばかりが私の心に響き、ついメモしてしまった理由だと思う。

以下はすべてご自分の会社を20年経験してきた上での柳澤さんの実感であり、引用符で「ティール組織」とあるのを「カヤック」と読み替えていただいてよいのだと思う。つまり、もしカヤックがティール組織ならば、ティール組織は・・・というコメントである。一言一言が理論とか絵空事ではない。だからズシンと来る。

 

「『ティール組織』なんて知らなかった。嘉村さんから『この本の内容は御社に似ている」と言われて読んでみたら、組織の特徴として挙げられているポイントがいちいち当社にあまりに似ていたのでびっくりした」
「ティール組織の経営者は『自分が成し遂げたい』ことではなく『みんなで成し遂げたいこと』をみんなで成し遂げようとする人だと思います。だから向き不向きがある」

「基本的に、集団の中でいい恰好をしたい、目立ちたい、恥をかきたくない、どちらかといえば成果を独り占めしたいタイプは『ティール組織』には向いていないと思いますね」
「ティール組織(というか当社)で行われている意思決定の多くは言語化が難しい。『あ・うん』で決まる」
「当社は360度評価。給与も全員で決め、基本ガラス張りなので誰かの顔色をうかがう必要がありません」
「ティール組織の社員は分業よりも兼業の傾向が高い」
「ティール組織は社内ルールが少ない(信頼の上に成り立っているから)」
「採用基準はただ一つです。『この人と一緒に働きたいと思うかどうか』だけ。4人が面接しますが、面接スタイルは面接官の自由です」

「おそらくレッド組織は入社は簡単だが、役に立たないとすぐに辞めざるを得なくなる(辞めさせられる)。でもティール組織はいったん入社すると辞めてもらいたくないので、この会社に合っているかどうかの目が厳しくなる。その分だけ入社のハードルが高くなると思います」

なお、今月発売の『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』2018年7月号の特集「アジャイル組織」に記事を載せておられる。

“面白さ”を追求したら生き物みたいな会社になった「つくる人を増やす」カヤックの組織戦略

1週間だけ(公開が6月11日だったので、17日までではないでしょうか?)全文読めるそうです。

(以下引用)創業時の思い「仲間と面白い会社をつくろう」と、経営理念「つくる人を増やす」を追求していくと、アジャイル組織になっていた面白法人カヤック。事業は徐々に、広告やPRの受託開発、ソーシャルゲーム、ブライダルなどと幅広く膨らんでいくが、組織構造はフラットで、意思決定は現場で下されている。存在目的を重視し、自主経営を徹底しながら、全体性を確保している同社は、いま注目されている生命体型の「ティール組織」に近い。アジャイルな組織構造や人事制度の特徴と形成の経緯を、創業者が詳述する。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2018年7月号より、1週間の期間限定で全文をお届けする。(引用終わり)(注:17日までで公開は終わっています。ご覧になりたい方は本誌をお求めください)

もう1点、嘉村さんからの「関連発言」で心に残った一言を引用させていただく。

「ティール組織を目指そうと思った経営者がまずすべきことは、半年くらいかけて自分と自分の会社の存在目的は何かについて内省することです」
(11日の『ティール組織』探求セミナーで嘉村賢州さん。著者フレデリック・ラルー氏の発言として紹介されていました)

余談ながら、私は翌日の12日に面白法人カヤックと、前回のセミナー講師だった小竹貴子さんが役員をされ、今回のセミナーの会場を提供してくださったクックパットの株式を購入しました(単位株です)。

**以上、皆さんのご発言に引用符をつけましたがあくまで鈴木の理解です。私にはこう聞こえた、ということであり、文章責任は私にあります。
https://teal180611.peatix.com/?lang=ja

『ティール組織』に向く人、向かない人

おはようございます。

出会った言葉:

「基本的に、集団の中でいい恰好をしたい、目立ちたい、恥をかきたくない、どちらかといえば成果を独り占めしたいタイプは『ティール組織』には向いていないと思いますね」
(面白法人カヤック代表取締役CEO柳澤 大輔さん)

*昨日のセミナーではあまりにも多くのことを学びましたが、一番心に刺さった言葉はこれ(↑)かな。

さらに、「書籍の中ではレッドからティールに至る方向性を進化ととらえていますが、僕の感覚では、レッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールとは組織の多様性にすぎない。それぞれに合う職種や人々がいる」と。例えば「レッド組織は入社は簡単だが合わなければすぐ辞めてもらう(辞めざるをえなくなる)。でもティール組織は、いったん入ったら辞めてほしくないので、入り口でこの会社に合うか、合わないかを相当吟味する」とも。
(*なお引用文は私にはこう聞こえた、ということです。文章責任は鈴木にあります)。

二つの気づき:小竹貴子×阿部裕志「みんなで語ろう、私の組織論」に参加して

7日に英治出版で行われた小竹貴子さんと阿部裕志の対談「みんなで語ろう、私の組織論」ーー英治出版オンライン連載「『ティール組織』私はこう読んだ。」に参加した。

素晴らしいセミナーでした。

とても暖かい雰囲気の中で、普段経営にあたって楽しみや苦しみを経験しているお二人が、まったく飾ることなく今の楽しみと苦しみ、それらを『ティール組織』の内容で整理しながら前に進もうとしている姿勢を示してくださいました。

11日のセミナー(『ティール組織』探究シリーズ「自主経営(セルフ・マネジメント)って何だ?」)にも(仕事さえ詰まらなければ)参加する予定ですが、お二人のセミナーで得た二つの「気づき」を持って出かけたいと思っています。

まず、セミナーでは社員を「育てる」「育成する」という言葉がキーフレーズの一つだったように思います。おそらくこれは『ティール組織』では明示的に語られていないのですが(CEOの交代にあたって、学習期間を設けたという事例は紹介されています・・・ただ、私の勘違いはあるかも)、書いてあってもなくても、実際に経営をしていると、とりわけ今の日本企業においては、どうしてもこの問題を避けて通れないのだろう、と思いました。組織としての全体性(ホールネス)を実現していく上で育成とはどういう位置づけになっていく(る)のか。

もう一つは、ティール組織を目指す際に当然予想される社員間の「コンフリクト(紛争)」をどう解消/解決していく(いる)のか(こちらは本書で事例が紹介されています)。小竹さんのお話のなかでぐっと来たことの一つは、復帰後しばらくして肩ひじ張りすぎて社員が離れていく時期があって、どうしても耐えられなくなって「大泣きしてしまった」と。つまり自分をさらけ出してしまったわけ。その時部下の方から「もっと早く泣いていただければよかったのに」と言われ、その後うまく回っていくようになったそうです。

僕は職業の中では組織から完全に離れてしまって16年になるので、実体験に基づく組織論を語る資格はありません。したがって私の感想なり意見は頭の中のものにすぎませんが、11日のセミナーには上のような問題意識で臨みたい。

最後に僕が属している唯一の「組織」は自分の家族です。その意味ではあるべき家族は何かについて、存在目的、全体性(ホールネス)、自主経営の観点から考える意義は大きいのではないかと思った次第。

 

「一家に一冊『ティール組織』」なんちゃって。

 

(余談)
*50人ほどの観客の中に津田大介さんがいらしたのにはビックリした。講師の阿部裕志さんのお知り合いのようでした。セミナーの中で紹介することもなかったので気づかなかった人もいるかも(いや、あの風貌は気がつくかー。「朝まで生テレビ」で見るよりもずっと大きく見えました、物理的に)。でも全員が敬遠するでもなく、まとわりつくでもなく、節度をもって接していたと思う。それがまた自然な、暖かい雰囲気を醸し出していました。

 

eijionline-teal01.peatix.com

自分(翻訳者)のド勘違いを反省する(2018年5月30日)

 

昨日知り合いの経営者Kさんにある用向きがあって1年ぶりにメールし、その末尾に『ティール組織』を出したことを添えておいた。すると今朝返事が来て

「『ティール組織』を訳していたの鈴木さんだったのですか!人事組織関連では話題の書で当社でも何人もの役職員が読んでいます。私もこれから読み直します」

と書いてあった。

「あ~僕が訳したことに気づいてもらえていなかったのか・・・」と最初は思ったのだが、文面を読んでいるうちに、まてよ翻訳というのは元々縁の下の力持ち、裏方ではないか。私が訳したことをまったく知らずに本書を見つけ、よいと思って評価してくれていたんだ、これはまさに、本来裏方である翻訳者冥利に尽きるご感想ではないか、と思い直した。

・・・と同時に文芸翻訳者ではあるまいし、ノンフィクションの翻訳者が書籍の表面に名前まで出してもらって相手が僕の訳したことを知らなかったことに一時的にでも落胆するなんて、自分は何て思い上がっていたんだろうと反省もした次第。

翻訳者の履歴書(2018年5月)

去年から今年にかけて、仕事で10通近くの(職務)履歴書に目を通す機会があった。そこで気がついたことを二つ。

1.8割がワード、2割がPDFだった。
2.パスワードをかけてきた人が二人いた(パスワードは別メールで送られてきた)。
3.PDFでパスワードをかけてきた人が一人いた。

以上からわかったこと二つ。

1.(職務)履歴書といういわば個人情報を他人にメールを送るのであれば、今の時代であればパスワード付きのPDF(あるいは後で痕跡を残さずに書き換えられない何かの媒体)で送ることを心がけるべきだろう。僕ならそうする。
2.しかし1は(少なくとも僕がもらった10数通の履歴書から見る限り)翻訳者の間では常識にはなっていない(らしい)。

なお僕は普段こういうことをしているわけではないので常識は知りません。就活学生には常識になっているのではないかな?

(後記)3年前の記事です。平均すると3年に1度ぐらい、翻訳者(翻訳志望者)の履歴書を見てくれと言われることがあります。この時は、トライアルと職務履歴書を見ました。

トライアルか職務履歴書かと言えば?

トライアルの結果を優先します。

その上で、その翻訳力のベースがどこにあるのかを見るために職務履歴書を見る感じ。金融翻訳者の翻訳志望者のものを僕が見るポイントを書いておくと(思いつくママなので優先順位ではありません)。

①最終学歴:偏差値の高い大学(学部)の卒業生が優秀な翻訳者とは限らないし、実際、全く使えない人(この方の場合は翻訳力というより人間性だったが)もいることは確か。ただし「学力のベース」を見る参考にはなります。

②学部:見るけれども、あまり参考にならない。

③翻訳者になる以前の職歴:結構見ます。金融機関の勤務経験は(部署にもよるが)期待高まる。あと営業は職種にかかわらず期待できる。金融以外の場合、どういう仕事の経験をしてきたのか、というよりも「何年社会人をやってきたか」「どれだけ経験に幅があるか」は見る。幅広い方がよいような気がするが、この職種でなければ、というのはないと思う。

④翻訳実績(経験者の場合):もちろん見ます。金融の場合、「某社のマンスリーレポートを〇年続けている」と書いてあれば相当目を引くと思う(こういう職務履歴を見たことはありませんが)。

⑤英検、TOEIC等の点数。英語力のベースとして見る。以前から書いているように、原則としてここが800点台前半だったらそれだけでアウト。その程度の英語力では、金融翻訳の仕事を持続的にできるはずがないから(誤解のないように書いておくと、TOEIC900点はあくまでも必要条件です)。でももしトライアルの結果が良ければ面談でなぜかを確認する。理由によっては採る場合もあり得る。

「英検2級」と書いてあったら?

僕はトライアルの結果を疑って書類で落とすと思う。プロの金融翻訳者への職務履歴書に「2級」と書く方の良識を疑うから。準1級もネガティブ(TOEIC800点前半と同じ)(ただし、僕はそういう例を見たことはありません)。

⑥留学経験:語学学校への1年未満の「お勉強」はアピールしない。

以上をざっと拝見し、トライアルの成績との間にかい離がありすぎる感じがしたら(要するに、トライアルの成績がかなり良いのに職務履歴書が余りアピールするものでなければ)面談してその理由を詰める・・・という段取りになるはずでしたが、この時はトライアルと職務履歴書で終了しました。

なお、職務履歴書の送り方や形式は、今はもっと変わっているのでしょう。昨年就職した次男の様子を聞いていると、会社のホームページ上に直接書き入れていくようです。実は僕もこの半年で1度、職務履歴書をPDFにして電子メールで送りました。「お取り扱い注意でお願いします」とは書きましたがパスワードはかけなかった。反省しています。(2021年5月19日)。

 

飜訳会社への応募条件②―TOEIC900点、そんなに大変か? - 金融翻訳者の日記

金融翻訳者になるための方法&スキルアップ法(『通訳・翻訳ジャーナル』2016年8月号用原稿) - 金融翻訳者の日記

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交渉なしで単価がアップした話(真面目にやっていればこういうこともある、ということで)

昨日某社からメール。発注内容の説明とともに「なお5月納品分から翻訳単価を〇〇円にさせていただきます。少額のアップで恐縮なのですが、よろしくお願いいたします」とのメッセージ。これまで単価アップ交渉をして上げてもらったことはあるが、こっちが頼んでもいないのに単価を上げるオファーをもらったのはこの16年で初めて。しかもアップ率は15%ほど。元々の単価も決して安くなかったのに。

なぜだろう?このお客様、ある方の紹介で始めた仕事で、とにかくその方の顔をつぶさないようにとそれだけを心がけて一生懸命やってきた。ただし、資料入手に思ったより時間がかかった、出来上がりへの不安(見直しをする時間が十分に取れない)などの理由で納期を数日延ばしてもらったことも何度かある。こちらは誠実に伝えたつもりだし嘘はひとかけらもないのだが、向こうからすれば「納期に間に合わないことの言い訳」にしか響かないような理由だ。「良い物に仕上げるため」と自分なりに納得し、悪評価につながりかねないことを覚悟して日延べをお願いしてきた(いつもじゃありませんよ。念のため)。

ただ、その代わり、というか逆にと言うか、納期を延ばしてもらったのだからなおさら良い物を、と心がけたことは事実。出した物は自信、というか「今自分ができるせいいっぱいのことはした」という納得感があった。しかしやむを得ない。どんな理由であれ日延べとはスケジュール管理不足に他ならないのだから。だから少し心配はしていたのだが・・・逆にこういった対応が逆に評価されたのだろうか?単価が上がったとはそういうことなのかな。

自慢たらしい報告で恐縮ですが何しろ初めての経験で嬉しかったのと、もしかしたら皆様の何かの参考になるかもしれないと思いここに書くことにしました。

よい1日を!

出版翻訳幻想その2 ー 出版翻訳の怖さ 

 出版翻訳についてあと2点(経験者の方はよくご存知の話だと思います)。
 1.今やっている仕事が金になるのは(訳し始めてから、僕の場合早くて)1年後。
1 月に出た『ティール組織』の初版分の印税が支払われたのが3 月。
ここだけ見ると「支払いサイトが2カ月って実務翻訳並みじゃん」って印象持ちます?んなはずないじゃん。これ、2015年の11月からやってます。所要時間は約1000時間でした。
 僕は出版翻訳専業ではないので、それでなくても普通の(=ここでは出版専業の、という意味)翻訳者の方の2倍以上かかっているし、本も分厚かったし、英語も内容も難しかったしね。
訳し始めてからチャリンと金が落ちるまで2年4カ月です。
 2.本は訳し終わるまではかなり「孤独」。
ティール組織』は訳し始めて数カ月は、「いつ金になるか分からない状態」ですが、そもそも金目当てでやってないのでこっちは大した話ではない。
 訳者としてそれ以上に、精神的にキツいのは「いつ翻訳が終わるかわからない状態」になることです、僕の場合は。
 基本的に編集者の方からは「どうぞご自由に」状態で何ヶ月も放っておかれるので、これは精神的にかなりキツいです。これが長くてもせいぜい1カ月で終わる実務翻訳との大きな違い。この孤独感から逃れるためと、ペースを維持する観点から僕は1カ月に一度編集者に「経過報告」をしています。
  僕は書籍の翻訳中に夜中に不安で目が覚めることが1,2回はあります。『ティール組織』は3~4回はあったと思う。名前が出ることの怖さ。これも実務翻訳との違いかな。
 
・・・それでもやるんだけどね。
 では!