金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「ビジネス法令、AIで英訳加速」(2023年3月27日付日本経済新聞)の記事を読んで

本日(2023年3月27日)の日本経済新聞に次のような記事が載った。

(以下引用)
法務省は2023年度から人工知能(AI)による法令の自動英訳を始める。ビジネス関連の法律や政省令を中心に従来の4倍となる年間320本の翻訳をめざす。海外企業が日本で投資や事業をしやすい環境を整える。
(中略)

23年度からはAIの自動翻訳システムの利用を原則とする。情報通信研究機構NICT)のソフトウエアを基に法令特有の用語などを機械学習させて独自につくったシステムだ。

日本語の条文などを即時に英語に変換できる。英訳の正確性は従来通り法務省が確認する。(引用ここまで)
(「ビジネス法令、AIで英訳加速 対日投資拡大へ4倍増に
法務省、23年度から3年で800本翻訳」2023年3月27日 日本経済新聞電子版より)

いよいよ、書き手の「思い」のない文章の翻訳や、多くの部分を前例踏襲(ただし正確さが要求された)に頼っていればよかった翻訳が淘汰される時代の本格的な到来だ。

特に、語彙や言い回しなどのルールが厳しかった分野ほどこの傾向が進むだろう。

ただし、読み手の背景知識が原文側と訳文側では異なるので、そこを埋める(あるいは除く)ことで訳文の理解をスムーズに/容易にさせるような明示的、黙示的な訳注は、今のところAIには入れられないという印象である。ちなみ僕の尊敬する翻訳家の村井章子さんはこの「訳注の出し入れ」が絶妙である(毎日彼女の訳書の原文と訳文を書き写して、この素晴らしさに感動している)。