金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

訳者、著者、そして(たぶん)編集者にできるはずの、ささやかなこと(2022年12月11日)

本日の読売新聞書評欄の件を僕に教えてくれたのはツイッターで私の書き込みをご覧になってくれていた方で、本書の関係者でこの書評の事を知っている人は今朝の午前6時過ぎ段階では誰もいなかった。

 

教えていただいて読売新聞のホームページを見ると、確かに読書欄はあったが今週の分は出ていない。書評欄に関しては、当日の分は紙で読んでくれということだろう(と解釈した)。僕はそのツイートを見た後で担当編集者のKさんに連絡してセブンイレブンに走り新聞を買い書評を確認した。その間にKさんが営業部に連絡した。日経もそうだが、主要紙の場合、どの本がいつ書評に載るかは新聞社から公開されるまで「事前には絶対に分からない」とのこと。つまり新潮社にとってもこの件は初耳だったことになる。

その後、読売新聞の場合は書評欄に載る1週間前の日曜日に「翌週の書評欄」がウェブ上で公開されることが判明した。書名と【本よみうり堂】(読売新聞書評欄)で検索したところ、1週間前のページが提示されたからだ。つまり『ベンチャーキャピタル全史』が本日の読売新聞書評欄に載ることは先週の今日にウェブ上で公開されていた。ただし、そのページをクリックすると「このページは存在しません」になっていた。つまり新聞に掲載された前日までの記事だった。

・・・というところまでわかったが編集者も忙しくいちいち全ての新聞社について「翌週載るかどうか」を調べる時間はないだろう。しかも、例えば朝日新聞の場合、掲載2日前の木曜日(朝日の読書欄は数年前から土曜日に変更になっている)に「今週の書評で紹介される本」がウェブ上で見られるが、予定は未定で、変更があり得るとのこと。読売の「予告」が当日には消えていたのも「予定は未定」だからではないかと思う。ちなみに日本経済新聞(こちらも読書欄は現在土曜日)にそのような予告はないので、書評に載るかどうかは掲載されるまで分からない。ただし掲載された書評はウェブ上でも読めるという点が読売とは異なる。

つまり今日の読売書評の場合は、読売新聞を購読している人が紙面を開き、その記事を目視で確認できた情報が一番早かったということ。そのお一人が僕に知らせてくれたというわけだ。

僕は5年ほど前、つまり『ティール組織』を出した頃から、訳者にできる数少ないマーケティング活動として、毎朝書名でツイッターエゴサーチをし、何かメンションがあれば即お礼、あるいは何か返事をするという対応を心がけてきた(もちろん見逃す場合もあるし、お問い合わせの中に訳者に対応できないことがあった場合には、編集者に連絡し対応していただいている)。今朝のツイッター読者の方からのご連絡はその努力の賜ではないか、とうぬぼれてみたりもする。

これまでの5年弱の経験からつくづく感じるのは、読者(あるいはツイッターのフォロワー)の皆様のコメントに僕が反応すると「訳者の方がわざわざお返事を・・・」とこちらが思った以上に喜んでくれる方が多いということだ。僕のような無名の訳者のひと言に感激さえしてくれる方までいらしたのには正直ビックリし、感動さえ覚えた。

実際、『ティール組織』の時は、僕のツイッターのフォロアー数が一気に10倍以上に増えた(もちろん、本が売れたという事情はある)。また今回の『ベンチャーキャピタル全史』の時には、出版直後に「すごい本が出た」とツイートしてくれた方にすぐお礼をしたことがきっかけとなって、編集者Kさんとともに著名ベンチャーキャピタリスト手嶋浩巳さんとの対談が実現した。

xtechventures.notion.site

ところが、ツイッターでの感想や質問や不満に直接答えている著者は訳者はどうもあまりいないのではないかという気がする。せいぜい「いいね!」をつけたりリツイートしたりするだけでおわっているのではないかな。読者として僕がツイートをした時の99%はこの反応である。

読者やフォロワーの皆さんへの反応はお礼の気持ちが7分、マーケティング的なスケベ心が3分というのが実感だ。著者は訳者は書籍を出版するまでが大仕事だが、出版した後も少しは売上に貢献できる(かもしれない)ことがあるのではないか、と思ったこの5年間であり、その意味からすると、多くの著者や訳者、そしてたぶん編集者の皆さんは、読者と直接つながれる機会を十分に生かし切れず、結果としてビジネスチャンスを大いに逸している可能性があるのではないか。今日の経験でそのことを改めて実感した。読売の記事の件を教えてくれたいてもんさん、ありがとうございました。