金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

一冊を徹底的にやることが重要(翻訳ストレッチの教材から)

(引用文1)
このぐらいの年齢の子どもたち(鈴木註:3歳児と4歳児)は、同じ絵本を難解も大人に読んで欲しがる。もういい加減で飽きているだろうと思っても、何度も同じ話を聞いて、一字一句を暗記し、保育士と一緒に声を出すようになる。そして毎回同じ場所で喜び、笑うのだ。
(ブレディみかこ著『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)p163)

(引用文2)
紙の辞典のよいところは、見開き二ページだけで、多い時は九〇もの言葉が並ぶこと。一語の意義を、周囲のことばを見渡しながら深く理解出来る。そこから得られるものは測り知れない。
荒川洋治著『文学は実学である』「ことばの道しるべ」(みすず書房)p317)

(引用文1)は本日の翻訳ストレッチ教材からで、ブレディみかこさんがイギリスの保育園で読み聞かせをしていた頃の思い出。(引用文2)は昨日の翻訳ストレッチから。『岩波国語辞典第八版』(岩波書店、2019年)に関するコメント。岩波書店のホームページに全文が掲載されています

岩波 国語辞典 第八版 - 岩波書店)。

この二つの文章を読んで、二つのことを思った。

①よく、「子どもが言葉を覚えるように英語を学習していく」という英語教育の宣伝よくあるじゃないですか。あれは嘘だ。これくらいしつこく聞きたがるだけの好奇心を持続するのは大変ではないか、と思うからです。

②僕らの学生時代には、1冊の辞書や参考書をボロボロになるまで使いこなすという学習スタイルが生きていた。現に僕の本棚にも、高2ぐらいに買って浪人時代まで使ったので表紙が取れてしまった『試験に出る英単語』があります(記念になりそうなので取ってある)。僕より一昔前は、『赤尾の豆タン』を覚えながら引きちぎったとか、もっと前は単語を覚えながら辞書を破って食べたみたいな話は、それほど遠くない武勇伝として聞いたことがある。良書なのだからそれだけ大事にしなけりゃいけないのだろうが、何にせよ出版点数は今よりもはるかに少なく、一冊一冊が貴重な時代だったのだろう。

でも今のようにこれだけ辞書や参考書が次々に出てくると、世の中は確かに便利になったと思うけれども、じっくり一つの本に取り組むという勉強方法ができにくくなって、あれやこれやに手を出し、かえって学習効果を削いでいるということはないだろうか。辞書にしてもそう。電子辞書になって複数の辞書を一発で串刺し検索できるようになってとても便利だが、逆に一冊の辞書をじっくり読む(眺める)機会は減ってしまった。

今のようなデジタル時代だからこそ、その利点を享受しつつも、結構損している部分もありそうな気がする。今の学習者は。