金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

動詞knowについて(翻訳ストレッチの教材から)

(原文)I know no statesman in the world who with greater right than I can say that he is the representative of his people.

伊藤和夫著『英文解釈教室』(研究社)の例文。私の手元の本だとp163。本書で紹介されている訳は
(訳)自分が国民の代表であると、私よりも大きな権利をもって言うことのできる政治家を私は世界中に知らない。

テーマは「主格の関係詞」だったのですが、柴田耕太郎さんはこの文のポイントを「knowの意味」とし、「know:understandの理解力に比べ、knowは真実・事実の確信に力点がある」。
したがって「世界中に知らない」という伊藤訳は「直訳調」と指摘して次の修正訳を提案している。

(柴田さんの訳)自分が国民の代表であると、私よりも大きな権利をもって言うことのできる政治家を私は世界中にいないと確信する。

その上で、I know Kyoto.(何回も行ってよ~く知っている) I know him by name. (名前は知っている)“Do you know Mr. Brown?” ”No, but I know of him.”(うわさは聞いている)Do you know about him?(~について知っている)に分けて分かりやすく説明している。(詳しくは下のURL参照)。

『英文解釈教室』ノート 18 | 研究社 WEB マガジン Lingua リンガ

同じ内容は、『翻訳力錬成テキストブック』[例題2-9研究]know の意味(P177-178)に詳しく出ている。knowの機能はどの辞書にも普通に書いてあるが、列挙されている感じであまり体に染みこまない。その点柴田さんの説明が実にわかりやすく、特に否定文なので知識を整理するのに一石二鳥でよいと思った。