金融翻訳者の日記

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

昭和時代の日本語で英語のニュアンスを学ぶ『英文解釈考』(翻訳ストレッチの教材から)

本日の翻訳ストレッチから。

(以下引用)

The more you do for him, the less he will do for himself.

意味:やってやればやるほど、かえって懐手(ふところで)をきめこむ男だ。
(引用ここまで)
(佐々木高政著『新訂 英文解釈考』(金子書房)p71)

どうということのない英文だが、訳に注目したい。おそらく大正から昭和30年代ぐらいまでの日本の小説にはよく出てきた表現だと思う。僕の世代(1960年生まれ)はピンと来る。またこの時代の文学を好んで読む人にはたまらないかも。本書はこういう表現(おそらく佐々木さんは日常語として使っていた)を通じて英語の深い意味やニュアンスをなるべく正確に日本語に表現しようという工夫が施されている。もちろん、「懐手」を通じてこの英文を理解したとしても、自分が訳す時に「懐手」と訳す必要はない、というかそうは訳さない方がいい。「表現が古い」からだ。あくまでも英文を味わい、深く理解するための参考書として使うのが良策と思う。

一方、「懐手」を読んでもピンと来ない、あるいはこの表現から何らの光景も思い浮かばない人は本書の魅力を十分に味わえないかも。日本国語大辞典を引くと「(懐手=)ふところで。また、よい機会にめぐまれながら無為にすごすこと」(日本国語大辞典©Shogakukan Inc.)と書いてあるのだから意味は調べがつく。ただしそれを知ったところで、それは辞書的な知識が重なっただけかもしれずどこまでこの英文のニュアンスを読み取る一助となっているかはわからない。