金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

批判的に学ぶ(今朝の翻訳ストレッチから)

稀代の名著『例解 和文英訳教本』(プレイス)P256に次の課題文があった。

「その列車はいつも人でいっぱいだ」

これを英語に訳す手順を示してくれたのだが、まずはbe filled with~とbe full of~はいずれも目的語が物でなければおかしいので不可。次にbe crowded with~ではどうか。crowdedはそもそも「人でいっぱいだ」の意味なので、わざわざwith peopleをつける必要がない。というわけで、正解は

The train is always crowded.
別解として There are always too many passengers on the train.

が示されている。
ここまで「なるほど~」と読んで来てふと気がついた。

そもそも「その列車はいつも人でいっぱいだ」という表現は日本語として不自然なのではないか?著者の小倉さんが英語について説明したのと同じことは、日本語にも言える。つまり、わざわざ「人でいっぱいだ」というからには、そこには、例えば「故郷へ変える人でいっぱいだった」「(サルではなく)人でいっぱいだった」という対比があって初めて使える日本語のはずだ。

では自然な日本語は何か?
「その列車はいつも混んでいる」だろう。

つまりこの英作文は、

課題文「その列車はいつも人でいっぱいだ」を「その列車はいつも混んでいる」と読み替えて、The train is always crowded.に至るのが正しい道筋のような気がする。

ふと思ったのでメモ風に。

 

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